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第12話

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 スグルたち〝エア・ガーディアン〟がエバーランド東の街カルチャクスに拠点を移し、5日が経った。(現実世界での時間で5日なのでエバーランドでは2週間以上経過していることになる)


 カルチャクスは様々な文化がミックスされできた都市であり、非常に複雑な構造をしているので、拠点(きょてん)を置いてから2週間が経っているが、未だに街の半分もスグルたちは把握できてはいなかったが、少しずつ街の内部や、周りのフィールドを散策して地図にマッピングしていき、クエストのほうも椿の加入で大幅に戦力が上がったこともあり、順調にこなしていた。


とは言ったものの、受けたクエストは雑魚モンスター掃討や商隊の護衛など、強力なボスクラスのモンスターが出現したり、危険極まるダンジョンを踏破(とうは)するようなものではなく、比較的難易度の易しいものであった。


「さーて、今日はどんなクエスト受けます?」


 土曜日。再びエバーランドにコンパイルしてきて早速スグルは次のクエストについて切り出した。調子よくクエストをクリアできているのだ。勢いそのままにどんどんクエストをこなしていきたかった。


「ハイハイ。上級ジョブの出現クエスト受けたいデス」

「リュウはいつもそればっかじゃねーか」

「スグは上級ジョブになったからそんな風に言えるんだよ。な~、琴葉」


 話をふられた琴葉は『アハハ……』とスグルのほうを見て苦笑する。


「しかしな、龍司君。そうそう上級ジョブが出現するようなクエストはクリアするどころか、始めることも難しいぞ」

「あ~あ、俺も上級ジョブになれば、ガンガン戦闘で活躍してどんどんクエストクリアするのにな~……。あ~、なんかでかいクエストの話どっかに転がってねーかな」


 ハァ、とため息をついて肩を落とす龍司。

 ヤレヤレといった調子でスグルが首を振る。その時、ふと酒場の前に張り出された張り紙が目に入った。


『食人文化を継承するギルド〝食人主義者の祭典(キャニバル・カニバル)〟の活動が確認されています。警戒を(おこた)らないようにしてください』


 ギルドとはNPCキャラクターで構成される集団のことで、それに対し、プレイヤーで構成される集団がクランである。

 ――食人って、あぶないギルドもあるんだな。カルチャクスには様々な文化があるって聞いてたけど、こんな文化を持つ奴等もいるのか……。

 張り紙を見ながらそんなことを考えていると、琴葉と一緒になって龍司をなだめていた椿がスグルの見ている張り紙に気がついた。


「これは……、また物騒な張り紙だな」


 ですね、などとスグルが相槌をうっていると、遅れて龍司と琴葉も覗き込んできた。


「食人って……、人を……食べ……ちゃうんですよ……ね?なんでそんなことを」

「ん?リュウ、どうした」


 さっきまでうるさかった龍司が張り紙を見てから急に静かになり、アゴに左手を添えて考え込んだ様子でう~ん、と唸っている。スグルが龍司の様子をいぶかしんで聞くと龍司は、ふと思いついたようにボソッと言った。


「あのさぁ、これって……、〝食人主義者の祭典(キャニバル・カニバル)〟の討伐依頼のクエストが発生してるんじゃないかな?」


 言われて椿が少し考えたが……。


「フム。確かに犯罪ギルドの討伐依頼はたまに見かけるが……。ギルド1つを丸々倒すんだからな。難易度はかなり高いぞ」


 ギルドの規模にもよるだろうがこんな風に街中に警告まで出ているんだ。小規模ギルドであるはずはない。ということは討伐するとなれば、そのクエストの難易度は高く設定されていて当然だろう。


「ですよね。ギルド1つ分を倒すなんて……。私たちは4人しかいない小さなクランなんだし。やっぱり難しいんじゃ……」

「なんだよ~。先輩も琴葉もつれねーな。スグはどう思うよ?」


 言われてスグルは少し考える。


「先輩や琴葉の言うとおりだと思うけどな」

「スグまでそんなこと言うのかよ……」


 またもやハァ、とため息を龍司がつく。


「けど、まぁ情報はあるにこしたことはない。ひとまず酒場で話を聞いてみないか」


 肩を落とす龍司を見かねた椿が提案する。どちらにしても新しいクエストを受注する必要があるのだ。椿の言葉を聞いて少し元気を取り戻した龍司を先頭に、スグルたちは西部劇に出てくるような木製の扉を押し開き、酒場へと入っていった。




「〝食人主義者の祭典〟?兄ちゃんたち、見たところ冒険者みたいだけど……、あれには関わらないほうがいいと思うが」


 酒場のマスターに張り紙のことを訪ねると、マスターはジロリとスグルたちの格好を見て言葉を(にご)すようにいった。


「討伐依頼だったらこの街のトップの総督府(そうとくふ)の方から出ていると思うが……」


 そういって言葉を切り、再びスグルたちの格好を値踏(ねぶ)みするように見る。総督府とは街の権力者が集まっている建物のことで、現実世界で言えば、都道府県庁というところだろうか。


「私たちの装備を見る限りでは話にならないと?」


 フッ、と挑戦的な笑みを浮かべながら椿がマスターに聞く。


「イヤ、そういう意味ではないんだ。気に(さわ)ったならすまないな。だが……な……」

「気にしないでください。オレたちは表の張り紙を見て、気になったから情報だけでも集めておこう、と思っただけですから」


 後ろで琴葉に口を押さえ込まれながら、龍司がムガムガ言っているのが聞こえたが、スグルは無視した。

 マスターはチラッと龍司のほうを見てから、フゥ、と短くため息をついてから語りだした。


――マスターによると〝食人主義者の祭典〟の討伐クエストが出るのはこれが初めてではないらしい。どうやら以前から、クランや街の軍による討伐は行われていたらしい。なぜこのように何度も討伐が行われるのかというと、答えは簡単。主犯を討伐、または捕らえることができていないためだ。


 ギルド〝食人主義者の祭典〟は亜人(あじん)で構成されたギルドらしい。亜人というのは人間と獣や魔物の混血(こんけつ)の種族である。有名なところではホラー映画や小説にでてくる人狼(ワーウルフ)などが有名だろうか。二足歩行をする人型の姿をした魔獣と決定的に違う点は人語を解することである。また集団生活を送り、独自の文化も持っている上、穏やかなで普通の人間と共存している種も存在する。カルチャクスでも亜人の生活区域があり、街の中で亜人を見かけることもできる。


 ――だが。人語を解し、高い知能を持つが故に危険な亜人の討伐は非常な困難を伴う。通常の魔物と違い、高い知能と集団性を活かした戦法を使ってくるからだ。そして何よりも厄介な点は彼らの思考のなかに撤退という選択肢が存在することだ。魔物も身の危険を感じると逃走を図ることはあるが、亜人は相手と自分の力量を測り、不利と悟ればただ単に逃走するのではなく、戦闘する際にできるだけ退くのに有利な状況になるような戦術をとり、逃走ではなく撤退をするのである。


 〝食人主義者の祭典〟に所属する亜人も同様であり、討伐の度にギルドの下っ端は捕らえるなり、倒すことができるのだが、リーダーをどうしても討伐することができないでいるのだ。追っ手の手から逃れたギルドリーダーは再び、その高い知能とカリスマ性を活かし、食人主義を別の亜人に植え込み、ギルドを蘇らせているのであるらしい。

 リーダーは〝闇の福音者(ダーク・ゴスペラー)〟と呼ばれ、(たく)みな話術を操り、他の亜人を籠絡(ろうらく)するだけでなく、その戦闘能力もかなり高く、〝悪魔の肉包丁(デビルズクリーバー)〟と呼ばれる大型の広刃のナイフを自在に操るという。


 マスターの話を聞き終わった後、早めの昼食を酒場でそのままとりながら、今後の方針について話し合うことにした。


「〝食人主義者の祭典〟の討伐――。これは依頼を受けるとしたらかなり骨が折れる依頼になるだろうな」


 椿が魚のパイをモグモグしながらつぶやく。ちなみに昼食はスグルたち4人とも肉料理はオーダーしなかった……。


「や、やっぱり……、このクエストは私たちでこなせるようなクエストじゃないと思うんですけど……」

「そんなん、やってみなきゃわかんねーじゃん、琴葉。それにこんなデカいクエストなら報酬もかなりのもんになるだろ。な~、スグ。受けてみようぜ」

「龍司君、このクエストは上級ロールにつながってはいないと思うのだが……」

「イヤ、先輩。俺は別にそれが目的じゃ――」

「龍司さんはスグルさんのロールが勇者になってから上級ロールのことばかり言ってるじゃないですか」


 クスクスと笑う琴葉に龍司がムキになって反論する。

 上級ロールはともかく、スグルとしてもこのクエストを受けたい、と思う気持ちはあった。難易度はかなり高いだろうが、龍司の言うとおり、おそらく報酬はかなりのものになるだろうし、総督府から依頼が出ているのだ。クリアすることができれば、この街の総督府につながりができる。街の権力者に恩を売っておけば、後々必ず役に立つだろう。


 ――しかし。危険度はかなり高い。正直言ってスグルは危険を伴うクエストをあまり受けたくは無かった。理由は椿である。椿はすでにこの世界で1度ゲームオーバーになっているのだ。もう1度LPゲージがゼロになれば、椿はこのエバーランドから永久的に追放されてしまう。そのため、これまでも意図的に、難易度の低いクエストを選んで受けるようにしてきていた。もしかしたら、椿本人もスグルの意図に気がついているのかも知れない。だが彼女は何も言わないでくれている。スグルはリスクとリターンを天秤にかけ、測りかねていた。


 結局、食事をしたら総督府に行って、酒場と同じように話を聞いてみることになり、4人はカルチャクスの総督府に向かった。総督府は街の中央に建つ、カルチャクスで1番大きな建物である。城、とまではいかないものの、石造りの巨大な門の奥にそびえ立つ4階建ての荘厳な建築物は見るものに否応無く、畏怖を感じさせる。


「う~ん、なんか近づくだけでも、やっぱ緊張するな」


 総督府を見上げながらスグルはつぶやいた。


「なに言ってんだよ、スグ。お、討伐隊募集の立て札立ってる――あ」


 どうしたリュウ、と言おうとしてスグルも気がついた。


「あ~?なんでお前らここにいんだよ?」


 総督府からでてきた4人組、〝牙狼の騎士団〟の1人、ユウとかいう先輩がスグルたちを見つけて声をかけてきた。

 声をかけてきた、といっても、もちろん友好的な意味合いではない。まるで不良が絡んできたような口調である。


 ――まぁ、ずっとスカウトしていた先輩を、オレらのクランが横から掠め取るような形でクランメンバーにしてしまったんだから友好的なはずもないよな。


「ありゃ、椿。総督府に来てるってことは、〝食人主義者の祭典〟がらみか?」


 4人のなかで唯一、スグルたちに敵意を出していない副団長のマサ先輩が聞いてきた。


「マサさん、それはないっすよ。椿がいるとは言え、あのクエストは1年坊のこいつらの手におえるようなもんじゃないじゃないっすか」


 マサ先輩の質問に椿が答える前に、ユウと一緒に琴葉に以前絡(から)んできた、シュウと呼ばれた先輩が横から口を出す。こんな風に挑発されれば当然――。


「んなこと、やってみねーと分かんねーでしょ?」


 龍司あたりが黙っているはずが無い……。


「愚か者ほど、己の実力を過信するものだ」

「これはこれは、かの〝牙狼の騎士団〟団長の言葉とは思えないですね、タカ先輩。私はともかくタカ先輩はスグル君たちの力を直接見たこともないのに」


 いつの間にか椿までが挑発に乗ってしまっている。


「装備を見れば大体のレベルくらいわかる。お前等のレベルではこのクエストは無理だ」

「えらそうなこと言ってますけど、本当は俺らに先にクエストクリアされるのが怖いんじゃないんですか?」

「おい、リュウ。いい加減に――」

「ふざけるな。我等〝牙狼の騎士団〟がキサマ等のような弱小クランに負けるはずないだろうが」


 スグルが制止しようとするが、口論はどんどんヒートアップしていく。


「人の忠告を無視するとは……。まぁ、いい。好きにしろ。どうせ依頼を受けたところでクリアすることなどできはしないだろうからな」

「言ってくれますね。おい、スグ。はやく依頼受けに行くぞ。それじゃ、先輩たちも気をつけてくださいね」


 フン、せいぜい死なないようにな――。そんな台詞を残して〝牙狼の騎士団〟は去っていった。1番後ろにいたマサ先輩が、去っていく途中で振り返って、ごめんな、とでもいうように軽く手を振ってくれたが、残りの3人は憤然(ふんぜん)とした態度を貫いていた。


「おい、リュウ本気でこのクエストやるつもりじゃないだろうな?」


 〝牙狼の騎士団〟がいなくなった後、ため息をつきながら、スグルは龍司に聞いてみた。


 「おいおい、スグ。なに言ってんだよ。受けるに決まってんだろ。あそこまで言われて逃げるなんてありえないだろ」

「で、でもこのクエスト、難易度かなり高いみたいだし、やっぱり私たちじゃぁ……」

「琴葉の言うとおりだ。少し冷静になれって。ですよね、先輩?」


 当然、椿なら、冷静な判断で龍司の説得に加わってくれると思ったのだが……。


「何を言う、スグル君?早く総督府で依頼を受けよう」

「椿先輩まで何言ってるんすか?2人とも落ち着いてくださいよ」


 あろうことか、椿まで依頼を受ける気になっていた。


「落ち着いていろだと?あいつらは君たちのことを、バカにし、愚者と罵ったんだぞ?それでいて落ち着いていられるものか」


 そうっすよね、と龍司が椿に同意する。


「そんなこと別に気にしなくてもいいですよ。このクエストはかなり危険なんですよ。酒場で聞いた話、忘れたんですか。相手はただのモンスターじゃない。知恵をもつ亜人なんです。下手したら――」

「ゲームオーバーになる――かい?」


 フッ、と椿が笑った。そこでスグルの言葉は止まってしまう。


「スグル君。君が1度ゲームオーバーになり、後が無くなってしまっている私を気遣って危険の少ない依頼を選ぶようにしてくれているのは――気づいていた。そして、それが私のことを心配してくれての気持ちからだということも知っている。だが――」


 そこで一端、言葉を切り、スグルことを見てもう1度笑う。


「だが、私は言っただろう。今度は守られてばかりじゃない。勇者である君を、君たちを助け、共に戦う――と」


 やっぱり椿はスグルの意図に気がついていた。そして、それをうれしく思うと同時に、自分の決意が伝わっていなかったのだろうか、と寂しく感じてもいたのだ。

 そんな風に、椿に思いをぶつけられれば、選択肢は1つしかなかった。


「………………やばくなったら、失敗してでもいいから逃げる、全員誓える?」


 ハァ、と再び大きいため息がスグルの口から漏れた。

 琴葉からは、スグルと同じようにため息が――。

 龍司からは、ヨッシャーという叫びが――。

 椿からは、柔らかな笑みが――。

 スグルの質問に対する三者三様の返事が、それぞれの口からこぼれた。


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