第11話
ここで明らかになった事実。
椿はカードが凄く弱かった。――というより運がなかった。
ツキという不確定要素が絡んだゲームではまったくといっていいほど勝てなかった。ポーカー然り、ブラックジャック然り。七並べをした時は初手にエースとキングがあわせて5~6枚あるような有様だった。
「…………………………………………」
「「「…………………………………………」」」
椿が沈黙するにしたがって、スグルたち3人の口数も少なくなっていく。
――どうしよう。
「あ~、そろそろ休憩にしません?ショッピング車があるみたいだし、そっちのほうも覗いてみたいな~、なんて」
椿がまさかの10連敗したところで、場の空気に耐え切れなくなったスグルが恐る恐る様子を伺いながら提案する。
「なにを言ってる、スグル君。勝ち逃げするつもりかい?」
にっこりと笑っていない笑顔を椿がこちらに向ける。
―――怖いッス……。
結局、そのまま椿がさらに10連敗するまで緊迫した雰囲気のポーカーは続くのだった。
食堂車で食事をしたり、ショッピング車で買い物をしたり、部屋でボードゲーム(カードは良くない雰囲気になるので却下となった)をしたりして、10時間をゆったりと過ごし、目的地である街、カルチャクスへと到着した。〝牙狼の騎士団〟と顔をあわせないようにするため、少し列車のなかで時間をおいてから降りると、緑に囲まれた美しい風景が広がっていた。さながら東南アジアの街並みのような独特の雰囲気を持つ街にスグルたちは少しの間圧倒される。
「この街は様々な文化を持つ少数民族が集まって、できた街なんだ。だから街の中でも東と西、北と南では街並みも住んでいる人の風習も違うことがあるんだ」
スグルたちのために椿が説明してくれる。
――とその時。
『コンパイルを開始します。』
頭の中に響く声。
いつもの水に浮かぶような感覚と共にスグルの意識は、現実世界の第1コンパイル室へと戻っていった。
翌日。
全寮制の私立である弥生学園は土曜日まで平日と同じように学校があるが、日曜日である今日は学校もエバーランドでの冒険もお休みである。
昨日コンパイルを終えた後、アドレスを交換しておいた椿から、『明日からのクラン活動について色々話し合いたいから』と、食事に誘われたスグルは、龍司と琴葉と連れ立って待ち合わせ場所である校門に向かった。
椿はすでに校門の前で待っていて、スグルを見つけると笑顔を見せたが、後ろの龍司と琴葉の姿を見つけると、心なしか少し不機嫌そうな表情をなぜか見せた。
「なんだい?スグル君」
「あ、いや。その――」
膝元まである白いワンピースに薄いカーディガンを羽織った、私服姿の椿に見とれてしまったスグルは、目をそらしながら、しどろもどろで言う。
「なんていうか、その。に、似合ってますっ」
すると、さっきまで不機嫌だった椿は顔を背け、
「――っ。そんなことはいいから、はやく行こう」
そう言って、そのままスタスタと歩き始めてしまう。
怒らせてしまったのだろうか、と不安になって立ち尽くしてしまうスグルだったが、突っ立ったままのスグルを龍司が後ろから追い越す際に、なぜかスグルに向かってグッと親指をたてていた。
食事に行く、といってもスグルたちは中学生。レストランのランチや、定食屋で日替わり定食などを食べに行くのではない。近くのファミレスでハンバーグやドリアにドリンクバーのセットを注文し、料理が来るまでのゆったりとした時間を過ごす。
「さてと。クラン活動について、でしたよね、先輩?」
拠点とする街も変わり、これからの活動をおおまかに考えよう、という名目で集まったので早速スグルが話を切り出したのだが……。
「「「…………………………」」」
あれ、なんでだろう?3人の視線が痛い……。今日はそのために集まったんじゃ……。
「スグ……。真面目というか、頭固すぎだよ」
「ごめんなさい、椿先輩。私と龍司さんはお邪魔でしたね……」
龍司と琴葉が哀れむような表情でため息を漏らす。
「そんなことないよ。食事は大勢でしたほうが楽しいからね」
そういう椿の表情が心なしか遠い気がする。
「?」
「顔にクエスチョンマーク浮かべてるアホ面はほっといて、せっかくの休みだし飯食ったらどっか遊びに行きますか」
龍司の言葉に、誰がアホ面だ、と思ったが実際に頭には「?」しか浮かんでいなかったスグルは不機嫌そうにメロンソーダを一気飲みした。
本当なら椿のクラン歓迎会も兼ねて、遠出をしたいところなのだが……。エバーランド内では冒険者でも、現実世界では中学生。遊びに使える金額は限られているし、もうお昼を回ったところなので遠出をすることもできない。結局、昼食をとった後、近くのゲームセンターに遊びに行くことになった。
夕方――。ゲーセンで、以外にも琴葉が天才的なUFOキャッチャーの腕前を披露したり、スグル対椿のガチンコエアホッケー対決で盛り上がったり、と楽しい時間を過ごした一行は、紅く染まる夕暮れの中を帰路に着いた。
「今日は楽しかったですね」
「ああ、そうだな」
スグルと龍司の前方を歩いている琴葉と椿が笑いあう。本当にその通りだなぁ、と思い、後ろから会話に入ろうと、スグルが口を開いた瞬間――、
「本当、グェ。――っ」
襟の後ろを思いっきり引っ張られ、一瞬、呼吸困難に陥る。
「ゲェホ……。リュウ、てめっ、何すんモガ――」
「スグ、先輩に今度は2人で一緒に何処か行くよう誘ってみろよ」
スグルの抗議の声を無理やり口を塞ぎ止めた龍司が声を落として、前の2人に聞こえないようにスグルの耳元でささやく。
「何でそんな……。オレは別に……」
「いいから。それじゃ、後はうまくやれよ」
『うまくやれ』ってどういう意味だ、とスグルが口を開く前に龍司はポン、とスグルの背中を叩いて言った。
「あ~~っ。やっべ、明日提出のレポート終わってねぇや。ちょっ、頼む琴葉。写させてくんない?」
「え、明日提出のレポートなんて――きゃっ」
琴葉が言い終わらないうちに、龍司は琴葉の手を引っ張ってそのまま引きずりながらあっという間に走り去ってしまった。
「何だ、レポートがあったのに遊びに連れ出して申し訳なかったな……。ん、……どうしたんだい、スグル君?」
「……いえ、何でもないです」
リュウのヤロー、という思いを何とか表に出さないよう引きつった笑みを浮かべるスグルを見て椿は首を傾げたが、私たちも帰ろう、と歩き出す。
慌ててスグルも椿の隣に並んで歩くが……。
「………………」
「………………」
―――無言。
やばい何か話さなくちゃ今度は2人きりで何処かにってそんなこといきなり言えるわけないしっていうかリュウの野郎あとで覚えてやがれよってその前にこの沈黙をなんとかしないとでもホントどうすればあわわわわ―――え?。
期せずして椿と2人きりになってしまい混乱し、目を白黒させていたが、そーっと椿の横顔を見ると思いがけず声が漏れてしまった。
「先……輩……?」
その横顔は淋しげで、憂いを含んでいて、ハッとするような美しさを兼ね備えていた。
「ん……。すまない、少し昔を思い出してね。こんな風に2人で歩いたこともあったな、と……。イヤ、昔といってもそんなに前ではないんだが……」
そういって椿は苦笑した。
弟のことだろうか。直感的にスグルはそう思った。―――だが、それを……。そのことをスグルから口に出すことは躊躇われ―――。
何も話せないまま5分ほど歩くと、校門にたどり着いてしまった。
「……今日は本当に楽しかったよ。それじゃぁ、また明日」
ニッコリと、不自然なほど元気に微笑むと椿は女子寮のほうへと静かに歩き始めた。
「――っ。先輩っ」
その背中に向かってスグルは思わず声を掛けた。
「……また、……今度は2人でどっかに出かけませんか?オレじゃぁ、オレなんかじゃ弟さんの代わりにはなれないかもしれませんが……。その……、あの……」
何を言ってるんだー、と、途中から混乱して言葉が続かなくなってしまったスグルがアタフタしていると――。
「プッ、フフフ」
堪えきれなかったように、椿が笑いを漏らす。
「フフ、気を遣わせてしまったようだな。……だが、せっかくのスグル君からのお誘いだ。喜んで受けることにするよ。来週の日曜でいいかな?」
「はい、いつでも大丈夫です」
「それじゃ、プランのほうは誘ってくれた君におまかせするぞ。……期待しているよ」
「え~~っ。イヤ……、えーと、がんばります」
オタオタと返事をするスグルの様子を見て、今度こそ自然な笑顔で微笑んだ椿はそれじゃぁ、といって女子寮に向かって歩き出した。
1人取り残されたスグルは椿と2人で出かけられる喜びと、1週間後、一体何処にいって何をすればいいのか、という問題で頭がぐるぐるになったまま、夕暮れで紅く染まる校門でしばらく立ち尽くしていた。




