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あまりにも危機感がない私の言動に、怒って嫌がらせをした東條君。

だったけど、なぜか、仲直りの後は力尽きたのかぐったりしていてソファから動かない。

動けないのかもしれない。

その後を引き受けるように、藤堂君が昨日から今日の流れを説明してくれた。

昨日私を送り届けて見回りをした後、先生の行きつけのお店・・・・・・・そっち系のお店のオーナーさんと東條君達は知り合いだとかで、先生が本当に変態かを確認した。

その・・・・・先生の相手をしたお姉さん達にも話を聞き、先生が呼んでいたらしい女生徒の名前の本人も特定。

お店のオーナーさんには朝一で、「個人情報だからこんなコトはすべきではないのですが、卒業生として見過ごせず・・・・・・」なんて前置きの元、室井先生の性癖を学校に密告してもらう。

本当に、通ってた・・・・・当時在校していた女生徒の名前を呼んでいたのは覆しようもない事実で、証拠も残っていたとかで、イイ逃れもできない状況。

必要ならばお店のお姉さん達に証拠つきで証言させますと、微妙に学校も含めた脅迫は効果絶大で、公にされる前に動くしかなかったとか・・・・・・・・・その辺りは大人の事情。

先生は登校と同時に校長教頭に校長室へと連行されたようだ。

その時の校長先生達の話までは分からないけど、間違いなく退職勧告だっただろうって。

普通なら懲戒免職でしかない話。

だけど、校長教頭教育委員会の三つ巴で罪の擦り付け合いが始まるだろうから、最終的には被害者のプライバシーや未成年者保護に話が摩り替わって、最終的には慰謝料で話をまとまるだろうとの事。

被害者の人達がイイのなら、それでイイけどね・・・・・・と笑う藤堂君の言葉には、深く突っ込んではいけないと、東條君にはよくわからない言葉を付け足された。

とにかく、室井先生が教師に戻ることは二度とないし、この町で生活は絶対に出来ないしさせないって。

室井先生はその・・・・・・・本当に、未成年に見える人としか・・・・・・・・なのだそうだ。

個人情報に顔写真は完璧に、ロリコン変態としてネットに流し済み。

当然、教師には戻れないし、教育関連の職につくのは2度と無理。

・・・・・・そうなるように徹底的に手回しはしてるのだとか何とか?

「仕事関連でその手の欲求を・・・・・・・妄想ネタ拾うことも出来ないだろうから、勤労に捧げるしかないよね」とは、藤堂君の言葉。

そう云う欲求をその・・・・・・合法的にプロの方相手に発散しようにも、性犯罪での有罪を理由に、この辺りのそう云う店では完全に出入り禁止にしてしまう・・・・・・と云うかさせるって。

となると、先生は大変困る訳だ。

「目で見て噂聞くことでもなけりゃ、忘れてやるぐらいはしてやるよ」って言うのが、東條君の言葉。

なので、私やお母さん、これまで被害にあった人が、この街にいる限り、先生に会うことは2度とない。

その事実が何より嬉しい。

だから、申し訳なさそうに頭を下げる東條君の言葉にも、素直に首を振る。

「済まないっ。あの状況じゃ、橘が、変態の餌食みたいに噂が広がると思う」

自分のコトみたいに当たり前に怒ってくれて、東條君には何の被害もないのに助けてくれた。

それだけでも嬉しいのに、そんな事まで、東條君は謝るのだ。

東條君は何も悪い事をしてないのに。

むしろ、私を助けてくれた正義の味方なのに。

こんな東條君のどこが怖いのか、私にはさっぱりわからない。

皆、馬鹿だと思うけど、それは誰にも教えない。

私だけの秘密。

私がだけが知っている事が、ちょっと嬉しい。

「大丈夫。東條君は、私に何もないの知ってるじゃない。私の友達も」

優子ちゃんも麻美ちゃんも、ちゃんと知っている。

確かに、そんな勘違いをする人はいるかもしれない。

先生に見られたし、学校内でのことだ。

昨日あの時間からサボったのはクラスの人にはバレる。

そうなれば、学校だけじゃなく噂が広がるのも分かる気がする。

けど、苦しんだと分かるそんな人の苦労話を面白おかしく話すだけの勝手な人達には、関わらなければいい。

例え、何らかの関わりを持たなければならないのだとしても、その時だけ我慢すればいい。

私の大切な人は私をちゃんとわかってくれている。

私はもう、怖がらなくてイイ。

それが何より重要だから。

「ありがとう」

「だが・・・・・・・」

まだ心配そうな東條君の目に、どう言えばいいんだろうと困っていたら、藤堂君が助けてくれた。

「ヤクザや悪徳弁護士と兄妹かもしれなくて、変態の餌食になったかも・・・・・・・なんて、あんまりにも立て続けだと、噂する方だって信憑性疑うよ。堂々と笑ってれば、お喋り雀は勝手にまた、都合のイイ話作り上げて忘れるさ」

「だが」

「大丈夫。2人ともありがとう」

もう一度頭を下げれば、2人も笑ってくれる。

「結構、面白かったし」

「玲人っ」

見た目は藤堂君の方が優等生タイプに見えるのにね、真面目なのは東條君。

こうなる前・・・・・・休み時間とかに少し話すだけでは、東條君と仲のイイ、見た目より悪戯好きな男の子にしか見えなかった藤堂君。

結構・・・・・・かなり、意地悪であるのは事実のようだ。

それが怖いとは、思わないけど。

「じゃあ、下校時間もとっくに過ぎたし帰りますか」

藤堂君は立ち上がり、そしてなぜか、私の手をとる。

「?」

藤堂君に取られた自分の手を見たのは一瞬。

頭の中の『?』が言葉になる前に、ソファの奥の扉の中に引き込まれてしまう。

それも後から入ってきた藤堂君によって、きっちり鍵をかけられる音が響いて。

「玲人っ!!」

物凄く、大きな怒鳴り声だ。

扉隔ててる現実忘れそうなほど。

「東條君、怒ってるね」

「ああ、本当に。って云うか、ここ壁薄いね。声、丸聞こえだ」

えっと、東條君が怒って大声出してるからよく聞こえるのであって、造りとしては普通にアパートと変わらない感じのような・・・・・。

そんな事を考えていたら、随分近くから、頭の上から声が響く。

「橘さん。この後はどうするの?」

どうするも何も?

「家に帰るよ」

この、洗面所兼シャワールームで、藤堂君に見下ろされてる現状は、よくわからないけど。

「・・・・・・・・・・うん、橘さんだね」

にっこり笑われてしまった。

相変らず、意味は分からないけど。

それ以外の何があるんだろう?

「あっ、お礼は改めて。何が出来るかわからないけどっ」

そうだよね。

これだけお世話になっておいて、なにごともなくさようならってのはおかしいのか。

随分迷惑かけてお世話になった訳だし、たいした事は出来ないだろうが、お礼は必要だよね。

気持ち的には何かのお返しは絶対したいと思うんだけど、お金に余裕はない。

お母さんに頼んでバイトを許可してもらって、それから・・・・・・・。

「別にお礼なんていらないけどね。正義の味方ごっこ楽しかったし」

東條君は物凄く疲れてたけど、確かに藤堂君はニコニコ楽しそうだ。

「それでも、バイトしてお金貯めてね」

このご恩は必ず返すからとの言葉は、口にする前に遮られた。

「本当にお礼はイイし、金に興味ないよ」

そっか。

藤堂君も東條君も、すっごいお金持ちだしなぁ。

そうなると、またハードルが上がった気がする。

お金以上のお返しって何?

「私でも、何かできることある?」

「そうだね。じゃ、名前で呼び合おうか」

「は?」

「ほら。兄妹かもしれないのに、名字で呼ぶって変じゃない?」

「えっと、でも私は橘だし」

誰が父親であろうと、それを変えるつもりはない。

「もしかしたら、藤堂でも、あるかもしれないよね?」

思った以上に近くにあった藤堂君の顔に思わず後ずされば、背中がドンっと大きく揺れる。

「・・・・・・・・章吾、しつこいなぁ」

「まだ、怒ってるね」

と云うか、扉を叩き壊しかねない勢い?

「章吾はともかく、橘さん・・・・・楓は、ストーカーも片付いて、一応また平和が戻ってきたわけだけど、楓が俺達に頼んだのは父親を探して欲しいって事だった。これはどうするべきかなって聞いてるんだけど?」

なるほど。

そういえば、最初はどうすれば先生が片付くか、曖昧にしか考えてなかった。

だから、思いつきのまま二人を無理矢理巻き込む形で暴走して、そんな妙な頼み方をしたんだった。

私の目的は、あくまでも先生が私達に危害を与えないでくれること、だった。

だけど、2人のおかげで無事解決。

これから被害者も出ることなさそうで、完全解決に納まったわけで。

「えっと、自分からお願いしておいてなんなんだけど、そっちはもうイイよ」

正直、お父さんが誰かなんてどうでもイイ。

生まれてからずっと、お母さんと2人で一緒に暮らしてきた。

確かにお父さんが欲しいと思った事がないとは言わない。

けど、今はもうイイ。

私には、大切な家族のお母さんがいて、心配してくれる友達も助けてくれる人もいる。

それが事実で、それだけで、今も昔も幸せだから。

そんな事をぼんやり考えていたら、ゆっくりと、さっきよりもまた一段と近く、藤堂君の顔が近づいてくる気配に、さっきの東條君の顔が重なって来るベッドでの事を思い出し、その胸を咄嗟に突っぱねていた。

「くくくっ」

何で、笑われてるんだろう?

というか、藤堂君は何がしたいんだろう?

思わず腕を下ろして藤堂君の顔を見るが、楽しそうであることしかわからない。

「本当にイイの?」

それも、意味不明に問いかけてくる顔は、物凄く楽しそうだ。

いまだかつてないほど。

「章吾とは兄妹じゃないってはっきりさせておかないと、この先困らない?」

「なっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

な、なんで、そ、それを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

頭が真っ白と云うか、真っ赤?

一気に頭の中が茹で上がる。

「やっぱりね」

その意味あり気な、意味深過ぎる笑いは、本気でどうにかして欲しいっ!!

って云うか、全身が熱いっ。

私、絶対真っ赤だ!!!

「どう考えても、あんな変態の生息する学校に、普通、狙われてる張本人が通いたいとは思えないよ。よっぽどの、学校に行きたい理由がない限り」

ううううっっ。

「何よりも、楓は俺達と・・・・・章吾と兄妹である可能性が殆どないって確信、あるだろ?」

訳がわからないままに首を振るが、意地悪に笑う藤堂君は許してくれそうにない。

「今日のところは、この辺りで見逃してあげようかな。章吾が煩いし」

良かった・・・・・・・・・・・良かったの?

もう、訳わかんないけどっ!!

「じゃあ、俺の事は名前で呼んでね、楓」

そう言って藤堂君が私の背中の扉の鍵を開けた途端、私の体は熱い何かに包まれた。

「大丈夫かっ、橘!?」

うっ、今、顔見ようとしないで!!

なんか、この、その抱きしめられてるみたいな体勢のままだと・・・・・・・・・・。

「章吾、放してあげなよ。可哀想だろ」

それは救いの言葉なの?

その割りには、物凄く、藤堂君の声楽しそうなんだけど?

「ああ?」

いつの間にかひっくり返された身体は、東條君の胸に顔を押し付ける形で抱き込まれていて、全身がバクバク心臓になったみたいで痛い。

こ、この状況って云うか、展開って云うか?

意味がわからな過ぎるっっっ!!!

「ちょっと、確認したいことがあったんだよ。章吾には秘密で」

「また自分勝手にっ」

まあ、確かに、あれは、東條君に聞かれたら困ると云うか・・・・・・・・。

「ああ、ハイハイ。さっきまでは、章吾の前では彼女が言い難いだろうって話で、今は、章吾に聞かせられない話ってわけでもないよ」

なんか、物凄く、意味深と云うか、妙な追い込みがかかってるって云うか、話がこんがらがってきたと云うか?

「後は、楓から聞けば?」

そこで、そう振るの!?

その流れで??

「あ゛?」

東條君の声が、今まで聞いた事がないぐらいに低くなってきてるんだけど?

なんか、どんどん息苦しいぐらいに、私、東條君にぎゅうぎゅうに抱きこまれてるんだけど・・・・・・・。

「バイクは俺が乗って帰っとくから、楓を送ってあげて」

「ああ゛?」

絶対、藤堂君楽しんでる!!

こんな状況で東條君と2人って、私にどうしろって!?

「楓、忠告だよ。ちゃんと、さっきの話、章吾に説明しなね」

この状況でそれを言うの!?

どんな拷問??

って云うか、罰ゲーム?

それがもしかして、藤堂君へのお返しとか言わないよね?

もう、何考えてるのかさっぱりわからないっ!!!

「藤堂君!!!」

置いて帰るなって叫びは、東條君に抱きこまれているので、随分籠もって聞こえる。

間抜けに聞こえるんだろうけど、切実だった。

「ダメだろ、楓。呼ぶときは『玲人』だよ」

な、なんなの?

このやたら、低く耳元で聞こえる・・・・・・・・・・ぐるんって、今回った。

一瞬で、私の目の前が、東條君の背中の革のジャケットに変わってるっ。

それも、なんか私、東條君に抱きついてない??

「玲人・・・・・・・・・・」

えっと、東條君の左手がガッシリ私の体を背中にくっつくようにして押さえ込んでるのですが?

東條君の声から、感情消えて、妙に迫力があるのですが?

「じゃあね、楓。章吾にちゃんと説明してから、送ってもらうんだよ」

だから、どんんだけ無茶ぶり?

私を虐めてそんなに楽しいですか!?

楽しそうにしか聞こえない、藤堂君の声だけを耳で、東條君の背中で聞き、そして、扉が閉まる音が・・・・・・・・・・・・・。

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

沈黙が重い。

藤堂君!!

この・・・・・・・・・・・・どうすんの?

この状況!!

私にどうにかしろなんてっ!!

泣きそうだ。

「あ、あの・・・・・・・・・・・・・・」

勇気を振り絞って、口を開いたのはイイけど、何を言えばイイのかさっぱり分からない。

どうしよう・・・・・・・・・・・。

「あ、あの」

「何、話してたんだ?」

何かを言わなきゃと無駄に繰り返す呻きに被さるように、静かに東條君の声が響く。

そして、ゆっくりと振り返った東條君は、いまだかつてないほど無表情だった。

最初に話した時だって、何話しかけてんだこいつって表情があった。

朝の挨拶すれば、驚いたような顔。

寝ているのを揺り起こせば、不機嫌そうな顔全開の後、しまったって顔して・・・・・・・・・・・・。

最初は好奇心だった。

もしかしたら姉弟かもと思ってて、自分から近付く気はなかったんだけど、同じクラスになった。

生物の教科担当の子が、先生にノート集めてもってくるように言われて、東條君以外のノートは集めたんだけど・・・・・・・・って困っていたのが切っ掛け。

それまでは話しかける切っ掛けなんてなかったから、馬鹿みたいにうきうきしながら話しかけた。

面倒臭そうに「何だよ」って言われた時のコトは忘れようがない。

その不機嫌そうな、いきなり話しかけてくる変な女を見る目の東條君に次の言葉を言うのは、本当に怖かった。

一気に、うきうきした気持ちも萎んでいって。

でも、ノートが集められなくて困ってるって、勇気を出して話してみれば、東條君はすぐに「悪い」って申し訳なさそうな顔をした。

その次には、「誰に渡せばイイ」って聞いてくれた。

この人は皆が言うほど怖くない。

皆が怖がるから、怖く見えるだけで。

その後、教科担当の男の子を教えて、その子にノート渡そうとして、その男の子にまで怖がられて、溜息を吐いていた東條君。

その男の子が、近づいてくる東條君に、今にも倒れそうなほど真っ青な顔して震えているのを見て、ノートを渡さずに戻ってきた時の困った顔はおかしかった。

情けなくて可愛くて、ちょっとだけ嬉しくて。

私が東條君からノートをひったくってその子に渡したら、席に戻るとき、小さく「サンキュ」って言ってくれた。

その、優しい、ちょっと笑った顔に、ドキドキした。

姉弟かもしれないのにって、ドキドキして痛くなって、泣きたいような気分になって。

高校に入って毎日がとても楽しかったけど、2年になってそれが何倍にも膨れ上がった。

室井先生の所為で、楽しいのと怖いのの綱渡りでもあったけど。

「ああ・・・・・・・・・・・・・もうイイ。送る」

淡々とした声に思わず見上げれば、何かを決めたような、冷たい目の東條君の目があって、そして突き放すように肩を押されて・・・・・・・・。

くるりと向けられた背が遠ざかる。

もう、いらないって拒絶したみたいな背中。

怖い。

いや。

そんなの、それだけは・・・・・・・・・・・・・・・・。

「好きだって」

自分でも、何でそんな事を口走ったのかわからない。

わからないけど、今日1日混乱し続けた頭はまともに働いてなかったみたいで、咄嗟に出た言葉がそれだっただけ。

だけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・立ち止まった東條君が振り返ったとき、物凄くびっくりした顔をしてて、そして痛そうに顔を歪めた。

「玲人と、付き合うの、か?」

「へ?」

自分でも、大間抜けな顔だったんだろうと、後になって思う。

だけど、その時は、東條君の言葉の意味が全く理解できなくて、大混乱のまま、涙がボロボロ出てきた。

「なっ、何で泣く!!」

オロオロした東條君が、目の前に戻ってきた。

困りきった顔で手を、指先をさ迷わせる。

目の前で、触れれば・・・・手を伸ばせば、捕まえられる場所で。

「・・・・・・・・・・・・はぁぁ?」

東條君の呆れた声。

そんなの構わなかった。

また、背中を向けられたくない。

置いていかれたくない。

あんな冷たい目を見るぐらいなら抱きついて見えない方がマシ。

その思いのまま、しがみついた東條君の身体はやっぱり硬くて温かい。

「ちょっ、な、なんで、抱き・・・・・・・・って、お前、玲人がっっっ」

「あんな意地悪な人、どうでもイイのっ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・はあああ?」

私も大混乱だけど、東條君は更に大混乱。

私の体なんて簡単に引き剥がせるだろうにそれをすることもなく、私にぎゅうぎゅう抱きつかれて、困っていた。

それはもう、叫ぶほどに。

「うっ・・・・・・・ちょっ、ちょう、落ち着け!! ヤバいってっ。アタルアタルアタルっっっ!!!!!!」

何かの呪文のように叫んだと思ったら、私は引き剥がされると云うか、なぜか天井に向かって持ち上げられていた。

「落ち着けっ、てか、離れようっ。マジ、ヤバイっっ」

なんで、東條君の顔は真っ赤なのだろう?

「イヤ」

今離れたら、東條君に取り返しがつかなくなるほど嫌われる気がする。

どうしていいか分からなかった。

わからないから、頭の中でグルグルする言葉を口にするしかできなくて。

「好き」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

何で、東條君は耳まで真っ赤なのだろう?

そしてなぜか、チラリと私を見上げた後、目を逸らした。

「幻覚か? いや、玲人の陰謀? 嫌、おいおいっ、そんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

そして、また視線が戻ってきたので、訳のわからない勢いのまま言葉を繰り返す。

「好き」

「!」

今度はもう、分かりやすいぐらいに、東條君の顔が驚きの顔に変わって、私に負けないぐらい真っ赤になっていた。

そして私は、東條君に抱きかかえられるようにして絨毯の上に座り込んだ。

目の前は、東條君のTシャツの赤。

私も東條君も真っ赤なのだから、丁度良いのかもしれない。

「あ、あの、先ほどの言葉は、ですがね・・・・・・・・」

東條君の混乱具合が分かる、妙な言葉遣い。

だけど、言いたいコトは分かる。

「私は東條君が好き」

「だああああああっ!!」

何で、叫ぶの?

って云うか、東條君の胸、私に負けないぐらいドキドキしてる。

その、煩いぐらいのドキドキ音が重なって、そして、妙に嬉しくなった。

だって、真っ赤になった東條君が、私を嫌いだって、もう、思えなかったから。

この心臓のドキドキも、拒絶じゃないって、思えたから。

「あのね、東條・・・ぶっ」

「だあああっ!!」

なんで、更に抱き込まれるんだろう?

痛いって言うか苦しい。

「玲人の馬鹿は後でぶん殴るっ」

「・・・・・・・・・・・・・・喧嘩は良くないと思うけど、私もちょっと同意したい」

藤堂君は間違いなく性格が悪い。

多分、私達がこうなるコトを、今頃ニヤニヤ笑って妄想してるんだと分かるから。

「・・・・・・・・・・・・・・橘、てか、もう、楓って呼ぶからなっ」

何でそこで、怒って呼ぶの?

「優しく呼んで」

折角、名前を呼んでくれるなら。

ちょっと拗ねたような寂しいような気持ちで言えば、東條君の腕が緩む。

図々し過ぎたかなと東條君を見れば、東條君は左手で頭を抱えていた。

右手は相変らず背中に回ったままなので、不愉快だとかそう云うのではなさそう。

ついでに、耳と云うか首まで赤い。

嫌なわけではなかったみたい。

だけど、その態度の意味はよくわからない。

「ホント、もう、凶悪だわ、コイツ」

絶対褒められてない。

けど、東條君は怒ってるわけでも嫌がってるわけでもなさそうで、小さく溜息を吐いた後、私の頭をポンポンと叩いた。

「お前みたいな変な女に惚れた、俺の自業自得ってやつだな」

それは、告白だ。

私と同じ思いがあるって、嬉しいはずの言葉。

だけど、素直に喜べない。

「・・・・・・・・・・普通に、好きって言われたい」

初めて、好きな人に言われる言葉だ。

褒められてるとは大きくかけ離れてるだろう、微妙な言い回しじゃなくて、普通にわかりやすく。

もっとちゃんと聞きたいと見上げれば、なぜか東條君は私の体を引っ張り上げて、慌しく・・・・・・引きずるように動き出した。

立ち上がって制服の埃を払い、ブツブツ唸りながら。

「ココはマズイ。絶対マズイ。堪えろ、俺。いきなりはマズイっ」

慌ててる?

でも、嫌われてるというのとは違う。

手は握られたまま、どしどし私の手を引いて歩く東條君。

「ってか、いい加減、危機感を持て!!」

振り返りもせず、突然怒鳴られた。

歩くのは止めない。

何で、私は部屋から引きずり出されながら、怒られてるんだろう?

「絶対、玲人は殴る。顔の形変わるまで殴ってやるっ」

そしてまた、藤堂君の事ブツブツ言ってるし。

2人の仲がイイのは分かってるけど、ちょっと悔しい。

なんか、微妙だけど、お互い告白しあって思いを確かめ合ったはずなのに、完全に藤堂君に立場は負けている。

勝てるとは思ってないけど、その・・・・・・2人で、告白っぽいこともあったんだから、もっとと云うか・・・。

正直言えば、素直な「好き」を東條君から聞きたい。

だけど、とてもそんな事を言い出せる空気ではない。

引きずり出されるように、部屋を出てエレベータに乗ってまた降りて。

ニヤニヤ笑うカウンターのお兄さんに「随分早いですね」と声をかけられたのを「ぐぎゃ」とわけの分からない声で返して、威嚇?

変な叫びを上げただけだったんだけど、カウンターのお兄さんは青褪めた顔で何度も頷いていた。

東條君は叫んだ時に見ただけで、青褪めたお兄さんには目もくれなかったけど。

正真正銘、私は引きずられていた。

それこそ、道行く人が東條君の前を邪魔できないとばかりに避けてくれるので、何の障害もなく只管真っ直ぐに。

だけど・・・・・・私の手を掴む東條君の手は熱くて硬くて大きくて、逃げられそうにないほど確り掴んでるけど痛くない。

どんどんと進み続けているけど、私は普通に歩いている。

昨日、お昼に一緒に行こうとした時は、本当に早足で、走らないと追いつけそうにないぐらいタッタカ歩いていたのに。

東條君は東條君なりの優しさで、混乱してても私に合わせてくれている。

だから、悔しいのと半分嬉しいので、ちょっとだけ意地悪を言ってみた。

「藤堂君の次でいいから、私にも好きって言ってね」

その言葉に急に立ち止まった東條君は、振り返って・・・・・・・・・・今にも湯気が出そうなくらい真っ赤な顔で怒鳴った。

「気持ち悪い事は言うな!!!」

なんか、妙な食い違いがあるらしい。

だけど、真っ赤な顔で怒鳴るだけ怒鳴ってまた歩き出す東條君が可愛かったので、その場はまあいいかと思えた。

とても、嬉しくてふわふわしてたから。

ただやっぱり、東條君は麻美ちゃんと話が合うかもしれないとは思ったのだけど。

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