第7話:ちょっとした楽しみくらいは自分で見つけられる
タイガの町に別れを告げ、林の小道を進みながら、道中ずっとキムに教育訓練を続けていた。ただ、肝心なところに触れようとするたびに、彼女が妙な雑談で話題を逸らしてしまい、体系的に全部を説明しきることができない。
部下を連れて外を歩き回るのはこれが初めてだし、補助になる道具もなく、口頭だけで説明してどれほど効果があるのかも分からない。そのうえキムはすぐ気が散るので、ちゃんと指導できているのか少し不安になる。
「まとめると、シロを含めたあの異世界から来た連中は、ブディン共和国に勇者として任命されて、事情も知らないまま魔王企業社の各支部や領地に送り込まれて破壊工作をしている。そして?」
「そして勇者たちは基本的に強いし、ブディン共和国は最後には両者の関係を認めないで、使い捨ての駒みたいにポイするから、会社はまったく賠償を取れない!」
幸い、キムの小テストの成績は満点だった。ほっと胸をなで下ろしてうなずき、きっぱり褒めてやる。だが残念なことに、人によっては褒めると調子に乗るものだ。うっとりした笑顔を浮かべたキムは、ほどなくしてうっかり大木にぶつかった。
「先輩、私たちどこに向かってるんですか? もうけっこう歩いてますよ。」
「パーティーから追い出されたとはいえ、情報を掘る方法は潜入だけじゃない。これから勇者を尾行して、パーティーから俺が抜けたあとにどんな変化があるか記録する。そこから新しい情報が拾えたら完璧だ。」
「なるほど、ピンチはチャンスってやつですね。さすが先輩!」
「お世辞は出世の役に立たないぞ。あまり人の機嫌を取るなよ。」
「もう! 本心ですよ。出世とかお金とか、そんなの気にしてませんから。」
木の葉の隙間から差し込むわずかな陽光がキムの桃色の髪に落ち、きらきらと輝く。彼女はすぐに俺の前へ飛んできて、頬をふくらませて不満そうに反論した。
客観的に言えば、キムの見た目は確かに目立つ。たとえるなら、デスクを離れて給湯室に向かう途中、つい彼女の部署の前を遠回りしてちらっと見たくなるくらいだ。それだけでも、会社に何十年も勤めているベテラン社員が嫉妬させるには十分だ。
「でも、勇者のシロが会社の脅威なら、どうして始末しないんですか?」
キムが急にひらめいたように、俺自身も気になっていた質問を投げてきた。ここまでで分かる通り、彼女の発想は変わっているが、本質的に頭が悪いわけではない。この機転を仕事に向けてくれたらどれほど助かることか。
「それは俺も知らない。今まで勇者に会ったら、直接始末するか、なんとか引き抜くかのどっちかだった。軍事部の将軍には元勇者もけっこういるし、上には上の考えがあるんだろうな。」
「じゃあ……もし突然、先輩にやれという命令が来たら、できますか?」
キムはゆっくり地面に降り、横に回って俺を見上げながら不思議そうに聞いた。
「手は出せない。でも感情の問題じゃない。」
スパイとしては、会社の出すボーナスを目標にして命令を忠実に実行するのがプロだ。
「単に、シロの方が俺より強い。勝てないんだ。」
「えっ? 本当ですか? 勇者ってそんなに厄介なんですか?」
キムの驚きの声はあまりにも大きく、周りの鳥まで驚いて飛び去った。
「だからブディン共和国は、あそこまで積極的に連中を取り込もうとしてるんだ。」
シロの身のこなしを思い出し、頭の中で何度か戦う場面を想像してみる。だが結果はどれも、無残な敗北で終わった。
小さな川を越えたあと、通信装置を開いて勇者パーティーの位置を再確認する。念のため全員の身に魔法の位置追跡装置を仕込んでおいた自分を褒めたい気分だ。これなら連中が世界の果てまで行っても動向を把握できる。
「先輩がまだパーティーにいた頃、何か面白いことってありました?」
少しでも沈黙が続くと落ち着かないらしく、キムがまた話題を振ってくる。バラバラなリズムで歩きながら、こちらに問いかけてきた。
「仕事の大半は退屈なものだ。面白いことと言われても……たぶん……」
「よう! これソウルじゃねえか? 久しぶりだな?」
言いかけたところで、茂みから突然現れた大男が大声で割り込み、軽蔑した笑みを挨拶代わりに向けてきた。
「久しぶりってほどでもないだろ。転職はしたのか?」
挑発するつもりはなかったが、実際に口に出してみると想像よりずっと棘があり、相手の目に怒りが浮かぶのがはっきり分かった。
「先輩、この人誰ですか?」
「弱い相手ばかり狙っていじめて、味をしめて繰り返すようになり、最後は正義の味方に一発くらうような端役だよ。たしか名前は……ポテト? そんな感じだったか?」
「トッドだ!」
名前を忘れられたのが屈辱だったのか、トッドはズボンのポケットから長い狩猟ナイフを取り出し、頭を振りながら脅すような声で言う。
「聞いたぞ? パーティーを追い出されたんだってな。まあ当然だろ、ケンカもできねえゴミなんて足手まといだろうしな。持ってる金全部置いていけ。そうすりゃ慈悲をくれてやる、両足つけたままママのところに帰らせてやるよ。」
「先輩、私……」
「やめろ、キム……」
一瞬で膨れ上がった魔力がまず俺を襲う。皮膚が焼け焦げそうな感覚に、慌てて手を伸ばして暴走寸前のキムを止める。
シロなら、トッドみたいなどうしようもない犯罪者を前にすれば、きっと手を出すだろう。民のために悪を排除するためだ。
だがあいつは情が深い。せいぜい町の外へ追い払う程度で済ませる。世の中には、生まれつき骨の髄までどうしようもない奴がいることを知らないのだ。いくら叩き直しても変わらない人間もいる。
「おいおいおい! 情けねえな! 女に守ってもらうのかよ、笑わせるな! 決めたぜ、あとでお前の首をシロに見せてやる。本大爺を怒らせたこと、後悔させてやる!」
次の瞬間、トッドの狩猟ナイフが俺の頭めがけて振り下ろされる。
だが魔族にとって普通の人間など脅威にもならない。少し身を傾けるだけで、簡単にかわすことができた。
一撃で決まらないと見るや、トッドは体格を活かして俺に体当たりしてくる。バランスを崩させてから仕留めるつもりらしい。
しかし弾き飛ばされたのはトッドの方だった。俺は一歩も動いていない。
「どうなってやがる? てめえ何しやがった? 正面からぶつかってこいよ!」
思わずため息が出る。こんな相手に付き合うのは時間の無駄だ。
「キム、さっき面白いことがあったかって聞いたよな?」
キムから漏れ出す恐ろしい魔力にまた皮膚を焼かれそうになり、慌てて振り向いて声をかけ、落ち着かせようとする。
「死ねぇ!」
同時に、トッドが全力でナイフを振り回し、大きな動きで斬りかかってきた。
その瞬間、俺はトッドの頭をつかみ、そのまま地面へ叩きつけた。
上半身が土に埋まり、まるで太くて立派な一本の大根が植わったみたいだった。
「退屈な職場でも、ちょっとした楽しみくらいは自分で見つけられる。」
苦笑いしながら服についた土を払い、ついでに大根をこっそり蹴っておいた。
「はっ……はははは! 先輩、忍耐しろって言ってたじゃないですか。もし誰かに見られたらどうするんです?」
一瞬でキムは落ち着き、腹を押さえて大笑いする。そして俺の言い方を真似して「キムは忍耐」と言いながら、また吹き出した。
「この辺に人はいない。それに、こいつも俺に殴られたなんて言えないだろ。別に我慢する必要はない。」
「ふふ、先輩って思ってたより言い訳うまいですね。」
「行くぞ。こいつのせいで距離をまた離された。」
「了解です!」
キムも大根を一発蹴り、急いで俺の後ろについてくる。
「もし先輩が完全に片付けたいなら、あの人間を灰にすることもできますよ? やります? やります?」
「さっきの状態でやったら俺も巻き添えで死ぬだろ。勝手なことするな。」
「えへへ、了解です!」
キムのにこにこした顔を見る限り、どうやら彼女にとっては仕事そのものがすでに楽しみらしい。本当に、うらやましい話だ。




