第6話:会社はお金らだ持ちだか
窓の外の鳥の鳴き声と人の話し声が部屋の中に入り込んでくるが、凝り固まった空気を動かすことはできない。
俺は黒炎竜の頭をベッドの上に置いたが、胸の中にはまだ厚くて硬い鱗の感触が残っていて、まるで内臓を削り取られたような痛みだった。
空腹のまま薬を飲むのは海水を飲んで喉の渇きを癒すようなものだが、そうでもしないと胃の絞るような痛みを耐えられず、必死に乱れきった身なりを整える。
ベッドのそばに膝をつき、顔を布団に埋めた俺は、ガス様にどう報告するべきか苦しんで考えていた。
しかし事態の深刻さをまったく理解していないキムは、まだ部屋の中でぴょんぴょん跳ね回りながら、一曲高らかに歌っている。
「先輩先輩、これから何をするんですか?」
「まずはガス様に黒炎竜の件を報告することが最優先だ……」
俺は力なく答え、顔を上げると、無残な姿になった竜の頭と目が合った。まるでそれが、遠くない未来の自分の姿であるかのように感じられた。
「おお、了解です!」
……キムの無邪気さが本当に羨ましい。何年も前、自分が初出勤した日のことを思い出す……さすがにこんな様子ではなかったはずだ。少しくらいは、自分が招いたトラブルに緊張したり居心地の悪さを感じたりするものじゃないのか?
それとも箱入りのお嬢様というのは本当に世間知らずで、どれだけ無茶をしても平然としていられるものなのか?
「どうした? 何か報告か?」
「はい、情報課課長ソウルより、ガス様に急ぎの報告が……え?」
ガス様の声を聞いた瞬間、俺は反射的に返事をした。
だが異常に気づいて飛び起き、目を見開いてガス様の投影と見つめ合う。どうやらキムが勝手に通信装置を起動していたらしく、完全に余計なことをしてくれた。
「ちょうどこちらにも確認したいことがある。だが先にお前から話せ」
「うっ……ガス様、バド魔鉱山の近況ですが……問題ありませんか?」
俺は唾を飲み込み、視線が思わず横へ逸れる。後ろめたさを隠しきれない。
「は? どうして急にそんなことを聞く? 鉱石の採掘はずっと順調だが……待て、何かあったのか? 早く言え、こっちまで不安になる」
「簡単に言うと……その……これです」
俺は目を固く閉じ、黒炎竜の頭を投影の前に持ち上げた。
全身が震えていて、少しでも刺激があれば吐いてしまいそうだった。
「……」
「……」
「それは……つばさちゃんか?」
「はい……でも今は、あたまちゃんです……」
ガス様は両手でこめかみを押さえ、深く息を吸い、震える声で尋ねた。
「……キムがやったのか?」
「私です! ガスちゃん、お久しぶりです!」
横から現れたキムは翼を広げ、元気いっぱいに大きく手を振る。お嬢様の身分を頼りに、末端社員と上司の距離を完全に無視している。
「ソウル、ちょうどその件を伝えるつもりだった。できるだけ彼女を視界から離すな。キムは……仕事があまり得意ではない。だから各地で解雇された記録が、ちょっと驚くほどある。」
「あっ! 秘密にしてくれるって言ったじゃないですか! そんなこと言ったら、先輩からの私の評価が下がっちゃうじゃないですか!」
「下がり続けているのは俺の業績とボーナスだ」
「とにかく、この件についてお前を責めるつもりはない。だがキムをきちんと指導しろ。基礎の基礎から、できればナイフとフォークの持ち方からだ。
それから、つばさちゃんの件についてはサラマンガを通して経理部をなだめておくが、来月の会議ではキムを連れて部長に謝罪しろ。話は以上だ。魔王株式会社万歳。」
ガス様の顔には憂いが浮かんでいた。
同じ四天王のサラマンガ様は話の通じる相手だが、彼女に借りを作る代償は簡単には返せない。四天王という高い地位に上り詰めても、ガス様もやはり楽ではないようだ。
通信を切った後、俺は装置を見つめたまま数秒ぼうっとしていた。それから、自分のボーナスが減額されておらず、業務評価委員会に送られる必要もないことに気づき、ほっとした涙が目に浮かんだ。末端管理職なんて本当に人のやる仕事じゃない
「キム、座れ」
俺は竜の頭をどけ、キムに笑顔を引っ込めて真面目にこちらへ向き合うよう指示する。軽口を叩く余地は与えない。
「はい、先輩。どうぞ」
世間知らずのお嬢様とはいえ、この場の空気は読めるらしく、素直に正座して座り、今朝どれほど大きな騒ぎを起こしたのかを俺が説明するのを静かに聞いた。
それだけでなく、ガス様の指示に従い、この機会に会社の仕組みについても説明しておくことが重要だ。キムが黒炎竜の重要性を理解したのを確認してから、俺はほかの仕事のコツについても説明し始めた。
魔王株式会社の勢力は、実際にはすでに国家と呼べるほどの規模になっている。ただし魔王様は「会社」という呼び方を好み、小国を併吞することを「企業買収」と呼び、経済活動を商取引として扱っている。
そして会社の最大の競争相手が、この領土で最大の国家――ブディン共和国だ。
俺たち情報課の主な仕事は、各業界の商品の開発計画や市場需要を探ることだ。それに加え、独立して活動するスパイたちが潜伏任務も担当している。最初は――
「キム、聞いているか?」
相手が俯いたまま黙っていることに気づき、俺は説明を中断し、手を振ってキムの注意を戻そうとする。
「はい!聞いています!」
彼女はすぐに顔を上げてはっきり答えたが、口元は少し硬い。
「さっきエスキリン国最大の輸出品は羊皮紙だと言ったところだが、ついてきているか?」
「はい、覚えています!」
「今の話はしていない」
俺はため息をついた。キムが上の空になっている理由はだいたい想像がつく。胸に溜め込まずに話すよう、手振りで促した。
キムは指をいじりながら俯き、腰の翼を腹にぎゅっと巻き付け、小さく体を揺らしながら小声で聞いた。
「先輩、怒っていないんですか?」
俺は首を振り、同じ失敗を繰り返さないことに集中すべきで、上司の気分を気にする必要はないと答えた。
これは典型的な新人の症状だ。うっかり大きなミスをすると、際限なく自分を責めてしまい、すぐに気持ちを立て直せない。
変な言い方かもしれないが、キムが仕事を真面目に受け止めているのを見ると、内心では少し安心している……もちろん、こんな形で成長を見せてくれなくてもよかったのだが。
「ごめんなさい。ガスちゃんも言っていました。私はドジだからすぐ解雇されて、いろんな仕事を転々として、最後は家に引きこもってしまったって。やっと見つけたやりたい――」
「キム。スパイの仕事で一番大事なものは何だ?」
俺は手を伸ばして彼女の自己批判を止め、まずは質問に意識を向けるよう促した。
「え?忍耐、ですか?」
「その通り。喜びも怒りも悲しみも表に出さず、自分の中で全部消化する。だが君はまだ新人だ。数分落ち込むくらいなら構わない。その後は全部忘れろ。心に残すな。分かったか?」
「え?でも私は――」
「会社に損害が出ることを心配しているなら、完全に考えすぎだ」
俺は自分が入社したばかりの頃、営業部の先輩たちが代々言い伝えてきた言葉を出してキムを慰めた。
「なぜなら――会社はお金持ちだからだ!」
まったく理屈になっていない一言に、キムは目を大きく見開き、翼も一緒に広がり、ぱたぱたと数回動かしてから不思議そうに言った。
「でも私が心配しているのは、先輩に嫌われることなんです」
「ああ、そうか?」
これが効くと思ったのだが、やはり俺は部下を慰めるのが向いていないらしい。
「それならなおさら悩む必要はない。仕事は仕事、個人は個人だ。プロの社会人はその境界をきっちり分けるものだからな」
俺は当たり前のように答えた。この考え方はキムにはまだ少し理解しにくいだろう。だからこれ以上説明するつもりはなく、とりあえず竜の頭を異次元ポケットにしまい、今日の仕事を始めるために動き出した。
「仕事だぞ、キム」
「え?はい!」
すぐにキムの顔にはまた笑顔が咲き、翼を動かして俺の隣に跳んできた。そして少し甘えるような口調で聞いた。
「先輩、少しだけ遅刻してもいいですか?」
「遅刻?どういう意味だ?」
「やっぱり私、先輩のことが一番好きです」
彼女は両手を背中に回し、腰を曲げて首を傾げ、微笑んだ。その姿だけで、定時出勤という鉄則を完全に粉砕してしまう。
「はいはい。今日の仕事は大事だ。絶対にミスするなよ」
俺は手を振って適当に流したが、それでもキムの機嫌はまったく下がらない。
「本物のスパイの仕事を見せてやるか。」




