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第36話:俺も魔族だ

 俺は一歩で間合いを詰め、倒れたシロたちを抱き起こす。大まかに傷の具合を確かめると、幸い致命傷はない。数日休めば、すぐ動けるようになるだろう。


「先輩! 私すごいですよね? 思いきり褒めてください!」


「まだ終わっていない。きちんと片付けてから手柄を主張しろ。」


「ソウル……どうしてここに?」


 肩を押さえて腕を回すハンクが驚いたように問う。


「話せば長くなる。迷宮を出てから話す。無事ならまず状況を教えてくれ。あの鎧の化け物は何だ? 倒せばいいのか?」


「危険すぎる! 今のうちに逃げろ、どう考えても……」


 ジェシーが言いかけたところで、キムに吹き飛ばされた鎧の化け物が放つ魔力に言葉を失う。その奇怪で重い魔力は確かに恐ろしく、俺でさえ思わず身が震えそうになる。


「キム、任せるぞ。」


 甲高い金属音がまるで戦いの号令のように響く。鎧の化け物は長剣を握り、腰を落とし、獣のような姿勢で今にも俺たちを一瞬で斬り伏せようとしている。


「もちろんです! 本気出してもいいですか? あ、皆さんの安全は保証しますから、あとで先輩に甘えさせてくださいね。」


 これほどの脅威を前にしても、キムはまったく意に介さず、むしろ余裕で背を向け、俺にウインクを送る。


「頼んだ。」


「えへへ、約束ですよ。」


 キムは歯を見せて笑い、額に手を当てて敬礼する。同時に、鎧の化け物の剣が振り下ろされ、キムの首元まであと数センチに迫る。


 だが、キムの琥珀色の瞳が凶光へと切り替わるほうが速い。腰に収めていた翼が一瞬で跳ね上がり、閃光のように振り抜かれ、剣身を容易く断ち切る。相手が反応する前に身を翻し、右拳を頭部へ叩き込み、再び同じ穴へと吹き飛ばし、さらに瓦礫を巻き上げた。


 メイスたちだけでなく、普段からキムの派手な振る舞いを見慣れている俺でさえ口を開けたままになる。この元引きこもりの令嬢がなぜここまでの戦闘力を持つのか、想像もつかない。


 しかし、鎧の化け物が穴から這い出すと、傷はすべて再生し、断たれた剣も手に戻っている。その再生能力は完全に反則だ。


「ええ、まだ終わらないんですか?」


 翼を広げたキムが突進するが、今度は左拳をかわされ、隙を突かれて剣を振られ、一歩後退を余儀なくされる。


 電光石火の応酬はほんの数秒だ。剣風と拳勢が激しくぶつかり合い、見ている俺たちの胸をも風が貫く。


「もう! このままだと終わらない、甘えるチャンスなくなっちゃいます!」


 キムが頭部や手足、胸をいくら砕いても、相手は再生を繰り返す。苛立ちを隠さず叫んだキムは一蹴りで倒し、地に押さえつけ、頭部へ拳を叩き込み続ける。その荒々しい戦い方は鎧の化け物以上に迫力がある。


 押さえ込まれた相手は抜け出せず、雨のように落ちる拳を浴びる。再びあの魔力衝撃を至近距離で放とうとする。


 だが、規格外のキムにとってそれは威嚇にもならない。機を見たキムは笑みを浮かべ、先に魔法を発動。周囲を火の海へ変え、相手の魔力を焼き尽くし、さらに指先に高密度で隕石にも匹敵する灼熱の火球を凝縮し、ゆっくりと、確実に頭部へ狙いを定める。


「皆さん、私がいいと言うまで、目を閉じていてくださいね。」


 片足で踏みつけただけで相手を動けなくしたまま、キムは業火の中で振り返り、手を振る。


 言われた通り目を閉じても、まぶた越しに強烈な白光と轟く風、耳を打つ爆音が襲い、頭が痺れる。


 やがてすべてが静まった気配がする。しかしキムの合図がない以上、俺は目を閉じたままでいる。脳裏に浮かぶ予想を巡らせながら、目を開ける瞬間にその結果を確かめるつもりで。


「はい! 任務完了です!」


 キムの明るい声は思っていたよりずっと近い。目を開けると、彼女はすでに俺の目の前にぴたりと張りつき、褒め言葉を待ちきれない様子で、体をくねらせながら頭を俺の肩に寄せようとしていた。


 その背後には、底の見えない巨大な穴が穿たれている。もし落ちれば、地面に叩きつけられるまで数時間はかかるかもしれない。


「ソウル……キムは……」


 メイスは衝撃に加えて強い恐れをにじませ、両肩を抱きしめながら震えている。


 俺は表情を引き締め、同じく驚愕と信じ難いといった顔を浮かべる皆を見渡す。キムの手を取り、ゆっくりと立ち上がらせ、彼女の首元のネックレスをそっと外す。角と翼を全員の前にさらした。


 この姿を見せるのはこれが初めてではない。先ほどの火の海と同じく、彼らに魔族への恐れを思い出させる証だ。神経の太いキムでさえ、勇者たちの前で偽装を解く意味を理解している。それでも彼女はいつもの明るい笑顔を浮かべ、いくつものポーズで愛嬌を振りまき、自分が害意のない善良な魔族だと示そうとする。


 皆の視線がキムに集まる中、俺は手のひらを掲げる。彼らが見たことのない、俺自身の手で放つ、ごくありふれた魔力弾を凝縮する。


「そうだ。――キムと同じで、俺も魔族だ。」

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