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第28話:大人の社会は本当に複雑で面倒だ

 その瞬間、ラロ部長の一言で空気は凍りついた。強烈な圧迫感が喉を締めつけ、言葉が一つも出てこない。こちらを見つめるラロ部長は沈黙したまま、表情を一切変えない。どんな反応を示しても、状況がさらに悪化するだけだと言われているようだった。


「つばさちゃんの飼い主として、私は事件の全容を知る権利がある。そこでサラマンガ様とガス様にすべての説明を求めた。その中にはソウル課長の現在の立場も含まれている。」


「……誠に申し訳ありません。私の判断で、この件は機密にすべきだと考え、隠しておりました。どうかご容赦ください。」


 言い終えても、針のむしろに座らされているような気分は消えない。あと何度謝れば、この人の態度は和らぐのだろうかと思ってしまう。


「ひとまず私情は脇に置こう。つばさちゃんの死後、バド魔鉱山はすぐに人間に奪われた。その後奪還はしたが、会社は対応のためにかなりのコストを払った。最も分かりやすいコストは金だ。これが会計部にどれほどの負担を与えたか、分かっているか?」


 俺は再び深く頭を下げて謝罪する。ラロ部長は顔を上げろとは言わず、続けた。


「私は君の直属の上司ではない。処分を下す権限もない。ただし上層部には、スパイについての私見を伝えるつもりだ。すなわち、スパイ職の廃止を提案する。」


「廃止? な、なぜですか? 問題を起こしたのは私です! 先輩は……」


「キム!」


 俺は強い口調で遮り、彼女の無礼を詫びる。


「先ほど言った通りだ。ソウル課長は私の管轄外だし、これは解雇を求める提案でもない。情報課の業務はスパイ以外にもある。二人は別の形で会社に貢献できるだろう。今回の件で、スパイという職は不要だと改めて認識したまでだ。廃止すれば支出も減る。」


 そこまで言ってから、ようやく顔を上げるよう促された。しかし視線はキムへ向けられ、遠慮なく言い放つ。


「私は一会計部長に過ぎない。会社上層部の令嬢である新人より立場が低いかもしれないな。彼女の一言で、私の意見など無駄になるのではないか?」


 痛いところを突かれたキムは眉を強く寄せ、一歩後ずさる。歯を食いしばり、俺をちらっと見てから拳を緩め、軽く頭を下げて静かに言った。


「私はただの実習生です。身分を利用して会社の運営に影響を与えることなどありません。」


「そうか。ならば謝罪は十分だ。公私を分けろ。上へ報告する件は撤回できないが、今後も会計部と営業部の協力関係が続くことを望む。以上です、戻ってください。」


 席に戻ったラロ部長の態度は終始冷淡だった。掌で扉を示し、俺とキムに退出を促した。


 ◎


 会計部を離れた後、俺は頬を叩いて気を引き締め、キムのほうを見る。琥珀色の瞳は暗くなり、翼も脚の横に垂れ下がって揺れている。まるで魂が抜けたようだった。


「キム、キム?」


「はい! 了解!」


 突然我に返った彼女は、反射のように背筋を伸ばし、手を打ちながら返事をした。


「最初に勝手に口を挟んだのはよくなかった。でも挑発されたときはちゃんと耐えただろう。よくやった。」


「うん……でも私、先輩に大迷惑をかけちゃって……」


「黒炎竜の件はとっくに叱っただろ。もう持ち出す必要はない。」


「先輩やさしい……ドキドキしちゃう……はあ、それでもやっぱりちょっと落ち込むよ。」


 表向きはさらに二、三言慰めたが、心の中では事態が露見したことが引っかかっている。上層部への報告は、ガス様が俺をかばっていた事実を明るみに出すのと同じだ。あの方に迷惑が及ぶなら申し訳ない。


 営業部に戻るころにはちょうど昼休みだった。キムはステイシー部長とジェーンさんに連れられて社外へ食事に行き、俺は情報課のチャックとオフィスで昔話をしながら、最近の愚痴を聞くことになった。


 白骨だけの姿になったチャックが食事も睡眠も会話もできる仕組みは分からない。生前さぼり癖がひどく、開発部のネクロフルート実験の対象にされ、復活後は溜め込んだ勤務時間を埋めさせられている。自業自得で、同情する気にはならない。


「ソウル課長、スパイ任務はどうですか?」


 書類仕事の増加をひとしきり嘆いた後、チャックは引き出しから牛乳を取り出してカルシウム補給をしながら、気だるそうに尋ねた。


「順調とは言えないが、まあそんなところだ。キムも少しずつ慣れてきた。今度、報告書の書き方を教えてやってくれ。文書能力はまだ鍛えないとな。」


 俺はその流れで、パーティーにいる間に起きた細かな出来事や、キムが入社してから起こった騒動についても話した。


 古株同士、ため息混じりに話題を回し続け、結局はまた仕事の話に戻ってくる。さっきラロ部長に頭を下げた直後とあって、口角は重力に強く引っ張られてしまう。


 もし本当にスパイ業務がここで終わるなら、それも別に悪くないかもしれない。外を歩き回り、風雨にさらされ、正体がばれないかと神経を張り詰める必要もなくなる。シロたちの世話も手間がかかるし、これからはキムも隊に入れることになる。だから――


 パーティーにはいつでもお前の居場所がある。


 先輩に認めてもらえる、立派な社会人になります!


 過去の断片を無造作に思い返したとき、その二つの言葉が思考のすべてを埋め尽くし、他の考えをかき消した。まるでオリ湖畔の湿った空気と、吹き抜ける風を感じるようだった。


 スパイ、勇者、仕事、キム。本来は切り分けて考えるべき四つが絡まり合い、どう扱うべきか判断できない。今の感情が後の選択に影響するのか。あのときの決断が、今の困難とぶつかって、未来にどんな結果をもたらすのか。


 大人の社会は本当に複雑で面倒だ。気づけば片手で顔の半分を覆っていた。やはり辞職すれば悩みの大半は消える、という理論は正しいのではないか。


「ソウル課長? 課長?」


「え? 悪い、何だって?」


「だからさ、昼寝を何回かしただけで、あと八十四時間働かないと帰れないとかひどくない? このままだと過労死するよ。まあ一回死んでるけど。」


 チャックのブラックジョークを適当に受け流し、なぜ水曜の朝に骨にワックスをかけるべきでないのかという解説を聞きながら、意識を保とうと努める。あの月が高く昇った夜に、また引き戻されないように。

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