第18話:一度知ったら、もう後戻りできませんよ
村の年寄り二人のネズミ退治の依頼を片付けたあと、俺とキムは次の町へ向かった。途中で旅の商人から聞いた話によると、キムが起こした森の大火事のせいでブーディン共和国は隣国の侵攻だと勘違いし、慌てて軍を整えた末にただの誤報だったと分かったらしい。現在も原因は不明で、気をつけてほしいと言われた。そして本当の張本人は、今まさに俺の背後に隠れて舌を出してくすくす笑っている。
「考えても考えてもやっぱり気になるんですけど、どうして先輩には魔族の特徴が全然ないんですか?」
キムは胸にかけたネックレスをいじりながら、頭の角を触り、俺が彼女に偽装用の道具の作り方を教える合間に質問してきた。
「俺は人間と魔族の混血で、ちょうど父の方に似たんだ。あまり魔族の特徴を受け継がなかっただけだ。」
俺はそのまま答えた。種族同士の混血は珍しくないが、魔族と人間の通婚はかなり少ない。そのため、俺のように角も牙も尻尾もほとんどない魔族はあまり見かけない。
人間の血が入っているせいで、生まれつき普通の魔族より少し弱いが、この外見はスパイの仕事にはむしろ都合がいい。だからこそ俺はこの部署に回されたのだ。
「へえ~、私も混血なんですよ。先輩、どの二つの種族か当てられますか?」キムはわざと首を動かして鱗を見せ、さらに翼を軽く動かした。ほとんど答えを見せているようなものだが、何を企んでいるのか分からない。
「人魚とエルフ。」
「もう! なんでわざと変な予想をするんですか?」
彼女は翼で俺の背中を軽く叩いて抗議し、笑い気味の目で俺の反応を見ながら答えた。
「悪魔族と竜人族です。全然違うでしょう? だから私と妹はあまり似てないんです。私はママ 似で、妹はパパ似です。」
両親の話になると、俺はキムの両親が会社の大人物だということを、ただ知っているだけだ。四天王の一人であるガス様ですらキムにかなり気を遣っているほどだが、今まで彼女が自分から実際に誰なのかを話したことはない。
「先輩、キムの両親が誰か気になってます?」
完全に見透かされたようで、俺が一瞬固まると、キムは口元を手で隠してくすくす笑い、悪魔族らしい、あの不敵な笑みを浮かべて付け加えた。
「知りたいなら教えてもいいですけど……一度知ったら、もう後戻りできませんよ。」
「じゃあその話は最後まで秘密にしておいてくれ。最近は胃薬がどんどん高くなってるからな。」
俺はわざとそっけなく答えた。キムの背後の勢力がどれほど大きいのか、本気で知る勇気はない。
谷を越え、草原を進み、小さな森を抜ける道中、俺とキムはとりとめもなく話しながら、仕事のコツを教えたりしていた。気がつけば、ほぼ一週間が過ぎていた。
このところシロたちの行動を継続して報告できておらず、居場所も大まかにしか把握できていない。それでもガス様はかなり寛容で、その点を責めることはなく、むしろキムの指導に重点を置いてしっかり教えてやるようにと言ってきた。
ようやくタイガー町よりもにぎやかなルーイン市に到着した。久しぶりに人混みを見たキムは目を輝かせ、両拳をあごの下に当てて興奮した様子で俺を見つめ、あちこち歩き回っていい許可をもらおうとしている。
「道中で処理した討伐証明をギルドに提出してからだな。」
俺はキムの視線を避けながら仕方なく答えた。まだ仕事の途中の俺たちは気を抜くわけにはいかない。本当に見て回るとしても、物資補給の名目で動く必要がある。出張ってのは好き勝手していいって意味じゃないんだ。
ギルドの扉をくぐると、横の壁にはいくつかの依頼書が貼られており、さらに隣には最近の新聞が並んでいる。本来なら昼間は多くの冒険者が任務へ出発する時間のはずだが、ギルドの中は人声であふれ、あちこちで雑談と笑い声が飛び交い、かなりにぎやかだった。
「人がいっぱいいるんですね先輩! みんなすごく強そうです!」
キムはきょろきょろ見回しながら少し変わった感想を口にし、興奮のあまり浮き上がりそうになったので、俺はすぐに地面へ押し戻した。
魔物の残骸を受付に渡してわずかな報酬を受け取ったあと、俺はキムに、大きな町のギルドは情報を拾うには絶好の場所だと伝え、この機会に好きに聞き込みをしていいと言って、彼女をロビーに行かせた。
その間、俺は壁の新聞や雑誌を眺め、スパイ報告の参考になるものがないか試しに確認しながら、ついでに最近の時事を把握しておくことにした。
面白いことに、魔王軍がまた新しい勢力を配下に引き入れたらしい。この寝返った勇者は新聞では極悪な裏切り者として書かれ、首には高額の懸賞金がかけられていた。
ほかにも、バード鉱山の黒炎竜が正体不明の人物に討伐されたこと、魔族との領地争いの経過、王立軍の給料を引き上げる予定、拳で難解な呪いを治した奇妙なヒーラーの話などが載っている。どれもあまり目を引くニュースがないと思ったとき、隣の報道が目に入った。
「勇者シロ、大功を立てスフレ地下城を攻略!」
大きく踊る見出しの下には、シロたちが戦利品を掲げる集合写真があり、四人とも満面の笑みを浮かべていた。すっかり有名な英雄チームになっている。
こうなると、さっき提出した討伐証明だけでは実力が伸びた証拠には足りないかもしれない。俺は小さくため息をつき、もう一度その記事を見ながら、自分が第一手で書いた報告書があって、ガス様に先に知らせられたらと想像した。
「うわああああ!」
突然、野太い悲鳴がギルド中に響いた。慌てて振り向くと、身長二メートル近い大男が地面に叩きつけられており、その下には押し壊された木の机と椅子の破片が見える。
「ちょっとした警告です! 私はもう想ってる人がいるんですから、これ以上つきまとわないでください!」
気絶した大男の前に立っていたのは、舌を出して不満そうな顔をしているキムだった。自由にさせてまだ十分も経っていないのに、もうトラブルを起こした。冒険者と衝突するのは最悪の展開だ。これは……
「おおおおお!」
「かっこいいいい!」
「すげえ!」
思いがけず、雷のような歓声が上がった。人々はキムを取り囲み、次々と称賛を送る。受付嬢まで一緒に騒ぎ出し、まるで百年に一度の祭りを祝っているかのようだった。
「ど……どういうことだ?」
俺は戸惑って独り言をつぶやいた。声は歓声にかき消されたと思ったが、近くにいた人が説明してくれた。
「あいつはセクハラ常習犯なんだ。いつも弱い相手ばかり狙っていじめてた。みんなずっと気に入らなかったけど、止められる奴がいなかったんだ。あの子がちょうど皆の代わりにやり返してくれたんだよ。最高だ!」
そ……そうなのか? 俺は口元を引きつらせながら、皆に囲まれて中心にいるキムを見た。事情も分からないまま皆とハイタッチして喜んでいる様子を見て、もうこの町で目立たずに過ごすのは無理だと悟った。
この人間たちは知らない。今こうして大歓声を送っている相手が、頭に角の生えた魔族の少女だということを……。




