第15話:私のこと、気にかけてくれるようになりました?
寝苦しい一夜からようやく目を覚ましたとき、窓から差し込む朝日がただ残酷に感じられた。重たいまぶたをこすり、だるい腕で体を支えながら、ふらふらと起き上がる。大きく伸びをして体をほぐし、仕事へ行く準備をした。
ステイシー部長は頼りなさそうな雰囲気のくせに、意外と目覚めがいい。しかも彼女なりのやり方で部下を起こす。ジェーンさんとキムが、彼女に抱きつかれたり抱きしめられたりしているのを見て、俺は自分が一番最初に起きていて本当によかったと心の底から思った。
「先輩……」
朝のはしゃいだ様子はどこへやら、キムは半目のまま俺をじっと見ている。わずかに寄った眉の間に、不満がにじんでいた。これはもしかして、軽い二日酔いか何かだろうか。
「どうした?」
「昨日、酔いつぶれてから記憶がなくて。しかも先輩に起こされたら、ステイシー部長がジェーンちゃんに絡みついてるところを見ちゃって……。先輩が規律を守る人なのは分かってるんですけど、それでも色々考えちゃって、嫉妬しちゃってます。もしよかったら、誤解を解いてもらえませんか?」
彼女は体を前に傾け、両拳を腰に当てた。仕草には不機嫌さがにじんでいる。けれど琥珀色の瞳はどこかきらきらしていて、本気で怒っているようには見えなかった。
「俺と部長はただの同僚だ。そんなことで仕事に影響が出る方が、むしろ困る。」
正直、何を弁解する必要があるのか分からなかったが、俺は穏やかに説明した。それでようやく、キムのふくれていた頬が少ししぼむ。
「でも、私が嫉妬してる相手はステイシー部長だけじゃないんです。」
腕を組んだキムは、今度はもがいているジェーンさんの方を見た。そして、ほとんど気づかれないほどの小さな笑みを浮かべる。
「私、ジェーンちゃんも羨ましいんです。」
「部長、キムが抱っこしてほしいって言ってます。」
「今すぐ行くわ! 部長がキムちゃんを温めてあげる!」
「せ、先輩、わ、わたしそんなつもりじゃ……むっ……むむっ……」
キムの救援要請はきれいに無視して、俺は先に部屋を脱出した。静けさに満ちたリビングへ戻り、これからの仕事の段取りを考える。時間の流れを気にするのすら面倒だった。
◎
すでに歩けるようになったジェーンさんは、せっかくの二日間の有給休暇を満喫できるはずだったのだが、ステイシー部長に半ば連れ去られた。「面白い町をぶらぶら散歩して買い物よ!」と言いながら、どこかへ連れて行くらしい。
幸い、俺とキムは「仕事がある」と言って断ることができた。だから朝のうちに二人へ別れを告げることになった。来月の大会議でまた会える。そう思えば、特に名残惜しむこともない。
……と俺はキムに説明したのだが、彼女とジェーンさんは互いの手を長いこと握り合い、「どれだけ寂しくなるか」を語り合っていた。たった一日で親友になれるものなのか。そこは正直、少し感心してしまう。
「さて、先輩。今日はどんな仕事ですか?」
キムは耳元のピンク色の髪を払い、胸を張って声を張って聞いた。
「ただで一晩泊めてもらうのも申し訳ないからな。さっきお二人の老人に聞いたんだが、最近カロンラットが増えすぎて畑を壊しているらしい。俺たちで駆除を頼まれた。今日はそれだけやればいい。代わりに、機会があったら“俺がやった”って外で宣伝してくれって頼んでおいた。少し名声を上げるためだ。」
スパイの仕事から外れるこういう労働仕事は、いつもキムのやる気を上げる。だが今日は業務日誌の提出日だと知ったら、きっとすぐに肩を落としてため息をつくだろう。
「そうだ、これ返す。」
俺はポケットからキムのネックレスを取り出した。ここは人里離れているとはいえ、ラットの巣へ向かう途中で誰かに会わないとも限らない。用心するに越したことはない。
「ありがとうございます!」
キムは素早くネックレスを受け取り、後ろから大股でついてくる。それだけで機嫌はすっかり直ったようだ。本当に、彼女は本をめくるみたいに機嫌がころころ変わる。あの単純すぎるほどまっすぐな性格のせいだろう。
俺もステイシー部長も、最初はキムの家柄をかなり警戒していた。わがままで理不尽な、横暴なお嬢様タイプかと思っていたのだ。実際のところ、確かにたまに問題を起こすし、書類仕事もまだ苦手だ。
それでも、総合的に見れば、悪くない部下だ。
「先輩? どうかしました? もしかして……ついに私のこと、気にかけてくれるようになりました? わああ、うれしい!」
無意識にキムへ視線を向けてしまった瞬間、さすがに鋭い彼女にはすぐ気づかれた。そして調子に乗った歓声を上げる。
「仕事に集中してくれ。」
にぎやかな森では、絶え間なく虫や鳥の鳴き声が響いていて、危うく俺の声はかき消されそうだった。だがキムの聴力は相当なものだ。彼女は勢いよく敬礼し、大声で返事をした。その瞬間、林のざわめきがふっと静まり、彼女のあの明るい笑顔だけが、静寂の中でやけに目立つ舞台のように浮かび上がった。
ジェシーに教わった狩猟の技術は、今回も役に立っていた。カロンラットの足跡を追う作業は順調に進む。そうした細かい知識をキムに説明していると、彼女が見せる真剣な表情が、なぜか少し懐かしく感じられた。自分が入社したばかりの頃の、あの青臭い姿を思い出してしまう。
「カロンラットは賢くて狡猾だ。少しでも物音がすればすぐ逃げる。全部をきれいに駆除するのは難しいが、数を確実に減らせればそれで十分だ。」
「うん……」
俺たちは徐々に巣に近づいていた。はぐれた一匹のカロンラットを処理したとき、キムの返事がわずかに遅れる。
困ったような顔で頷きながら、彼女は言った。
「先輩……実は私……ネズミみたいなの、ちょっと……」
「え? そうなのか?」
腰に巻きついた彼女の翼がかすかに震え、不安そうに指をつまみながら打ち明ける。俺は思わず驚いた。まさか、黒炎竜に単独で挑むようなキムが、こんな小さな生き物を怖がるとは思ってもいなかった。
「じゃあ、巣の処理は俺がやる。キムはここで休んでていい。」
「だ……だめです。私はちゃんと先輩の視界にいないと。」
顔面蒼白のまま、キムは暗い目をしながら拳を握って強がった。俺が何か言う前に、翼を広げて数メートルほど前へ飛ぶ。だが飛び方は少しふらついていて、今にも地面へ落ちそうだった。
いくら説得してもキムは引き下がらない。
結局、妥協案として。彼女には後方で待機してもらい、必要なときは自分で目を閉じる。その間に俺が最速で巣を片付けるということになった。
案の定、巣に近づいた瞬間、腕ほどの長さもあるラットの群れが一斉に逃げ出した。無数の黒い影が蠢く光景は、確かに少し気持ち悪い。もしキムが今、目を閉じていなかったら、きっと吐いていたかもしれない。
逃げたラットたちは、事前に仕掛けておいた罠へ次々と落ちていく。俺は巣の中へ魔力弾を数発撃ち込んだ。威力は一般人の水準より少し劣るが、ラット退治には十分すぎるほどだった。
――その瞬間。
巣の奥から、異様な魔力が神経を刺してきた。反射的に大きく一歩後退すると、キムも異変に気づいたのか、身を縮めて問いかけてくる。
「先輩……何か変じゃないですか?」
ほんの一瞬のうちに、巣の周囲の土塊がざわめき始める。ガラスを削るような、耳を刺す甲高い叫び声とともに地面が割れ――牛にも劣らない巨大なカロンラットが姿を現した。歯をむき出しにしてギリギリと鳴らしながら、まっすぐ俺を睨みつけている。
「なんだよ、これ……?」
その直後、巨大なカロンラットはけたたましい絶叫を放ち、大きく口を開けて一直線に俺へ突進してきた。




