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第11話:正しい判断

「来るな! 私はただここを通りかかっただけだ、敵意はない!」


 営業は腰を低くし、両手を広げながらゆっくりと後退し、張り詰めた空気を必死に和らげようとしていた。


「なら……」


「騙されるな、シロ。」


 ハンクは背負っていた大盾と巨斧を手に取り、皆の最前列に立って営業と対峙した。


「魔族に村を滅ぼされた人間がどれだけいるか、忘れたのか?」


「ここで逃がしたら、もっと魔族を連れてくるかもしれない。そうなったら危険なのは俺たちだ。」


 ジェシーも同調し、矢を営業へ向ける。号令一つで、その矢は彼女の胸を貫くだろう。


 人間の視点から見れば、俺たち魔族は確かに排除すべき大きな脅威だ。だが、すべての魔族が彼らの思い描くような好戦的な存在というわけではない。


 あの魔族は明らかに戦闘が得意ではない。歯を食いしばり、営業としての本領を発揮して、なんとか弁明し衝突を避けようとしているだけだ。


「でも彼女は……」


「まずい、逃げるぞ!」


 ジェシーはシロにこれ以上迷っている暇を与えず、営業へと放った矢は空気を裂いた。幸いにも彼女は身をひねってそれをかわす。交渉決裂の結果は戦闘だった。営業は地面へ魔力砲撃を叩きつけ、巻き上がった砂塵で姿を隠し、そのまま素早く戦場から離脱する。


 だが不運にも、メイスの得意分野は魔力の流れを感知することだった。周囲に展開された魔法陣から、より巨大な光束が放たれる。直撃を受けた木々の幹が次々と音を立てて折れていった。


 多方向からの挟撃の中、営業は驚くほどの回避技術を見せた。


 しかし、どれほど身をかわして逃げ回っても包囲を突破することはできない。


 苦し紛れに放った反撃もまったく通用せず、ハンクの大盾にあっさりと弾き返された。


 その時、隣の人影が焦った様子で前へ出ようとした。


 俺はすぐに腕をつかんで引き止める。勇者たちとの距離がまだあったからよかったものの、そうでなければとっくにこちらの存在が露見していたはずだ。


「何してる?」


 わざと分かりきったことを尋ねる。声は極力抑えたが、前方の轟音にほとんどかき消されていた。


「会社の人ですよね。見殺しにはできないじゃないですか。」


 キムの顔には焦りがはっきりと浮かび、視線は俺と前方の戦場の間を何度も行き来している。俺が少しでも手を離せば、すぐにでも飛び出して助けに行きそうな様子だった。


 そうだ。同じ社員である以上、見て見ぬふりをする理由などあるのか。俺は首を振り、きっぱりと言い聞かせる。


「スパイは、こういう板挟みの状況でも……」


「ああっ!」


 言い終わる前に、営業の悲鳴が耳を貫いた。大盾に弾き飛ばされた彼女は大木に叩きつけられ、血を吐き出す。その無惨な姿は、見ているこちらの胸が痛くなるほどだった。


「先輩!」


 キムは眉をひそめ、さらに激しい口調で懇願した。俺たちがこのまま手をこまねいて見ていることを受け入れられないのだ。


 スパイにとって最も重要な技能とは何だ?


 俺は営業の弱々しい顔を見ながら、自問した。勇者の一行に潜伏していた旅の間、ガス様に勇者の行動を詳しく報告してきたのは、単なる業務のためだけではない。もっと重要なのは、会社が事前に準備を整え、奇襲による被害や犠牲が出る可能性をゼロに近づけるためだ。


 だが今、目の前で起きているのは、紛れもない突発的な事態だった。しかし勝手に手を出せば、これまで積み重ねてきた仕事の成果はすべて水の泡になる。


「先輩!」


「キム!」


 俺はさらにキムの肩をつかみ、彼女の首に掛かっていたネックレスを素早く引きちぎって、指示を出した。


「勇者たちを傷つけない範囲で、あの子をできるだけ遠くまで連れて逃げろ。俺は発信器で後から合流する。」


「了解!」


 次の瞬間、前線へ飛び出したキムは炎の壁を展開し、シロたちと営業を隔てた。


「動くな。」


 空中に浮かぶ彼女は一同を見下ろし、膨れ上がった魔力で威嚇する。その姿は彼らにとって、まるで空から降臨した死そのものだった。恐怖に縛られ、誰一人動けない。


 ネックレスで特徴を隠していたものがなくなった今、角、翼、そして肩や首元に浮かぶ数枚の鱗が、彼女の正体をはっきりと示していた。無表情のまま数秒間にらみ合った後、キムは鋭い牙を見せて宣言する。


「魔族のすべてが戦えるわけじゃない。弱い者いじめを続けるなら、相手は私になる。」


 その警告を残し、キムは炎の壁をくぐり抜けた。傷ついた営業を抱き上げ、そのまま流星のように空へ飛び去る。シロたちの無礼を、見逃してやったのだ。


 その後、彼らがどんな反応をしたかなど、俺にはもう関係ない。今の最優先は、発信器を開いてキムと合流することだ。


 またしても、うっかり彼女を視界の外へ出してしまった。緊急事態だったとはいえ、この件はガス様には報告できない。


 今の俺は、もうパーティーに潜伏しているスパイではない。ならば、我慢の度合いも調整すべきだろう。急ぎながら先ほどの衝突を思い返し、俺は自分が正しい判断をしたのだと胸をなで下ろした。


 認めざるを得ない。今回はキムの功績だ。

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