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バイト少女を捕まえよう!

学校での人間関係を捨て、将来のため学生時代にできる事を追い求める少女 さやか。外堀から埋めていく男、りおは少女に果敢にアタックし、彼女と交際をするのであった。海の家バイト編!



・性癖『周囲の雰囲気に押されて断れなかった告白』

・お題『海の家』

「さやかさん、好きです。付き合ってください!」


 周囲の目線がこちらに向く。

 彼の後ろで踊っている集団はフラッシュモブというのだったか。

 私の背後は背後でクラスメイトがいる。


 本音を言うとすごく断りたい。

 でも断ると後が面倒になるだろう。

 クラスメイト達は口さがないから。




 学生時代の関係なんて水物。

 小学校から中学校に上がった時にそう悟った。

 毎日一緒になって遊んでたお友達が、違う中学校になって一学期終わる前に、連絡もしない間柄になったから。


 でもそれは薄情だからじゃない。

 単純に今の環境に忙しく、次いつ会えるか分からない相手に、思考を向けるエネルギーがなかったからに過ぎない。

 私も同じだからそう理解した。今で手一杯なのだ。過去に縛られている時間はない。


 だからこそ勉学や趣味事。消えてなくなる友人関係よりも、そこに力をいれる為に埋没しようと高校は努力した。

 それらは将来に役立つから。学生時代という自由が利く時間、今しか出来ない事はすごく多い。

 学生だから許される振る舞いもまた多く、色々な場所に潜り話を聞いて楽しんでいた。


 でも私の脇が水飴でも塗ったかくらいに甘かったのだろう。

 出会わないだろうと思っていたバ先で、外向けメイクをした状態の私に、彼は会ってしまったのだから。

 それから学校の中外関係なく話しかけてくる様になって今のこの始末。


 フラッシュモブ組は彼と同じ部活の人か。

 彼は男女問わず人気のあるスポーツマンタイプだから、色々とタチが悪い。

 事情を知ってか知らずかクラスメイト達が見ているのも尚更タチが悪い。何をしても噂になる。

 部活の人が悪印象が持てばそれだけで学校に居づらくなりそう。モブしてたい。


 本当に面倒くさい。でも断るに断れない。

 いい感じの断り方を知らない。

 事前に何度か話しかけてきているのが面倒。よく知らないからとか無難な言葉で断れない。

 クラスメイトと遊ばずに外で過ごしがちだから、外に男がいるみたいに噂が流されそう。

 他に好きな人がいて……みたいな話も、つまりは外に男がという話になる。

 バイト禁止の危機か。


「……はい。りおさん」


 あぁ、モブ達が喜んでいる。

 クラスメイト達も興味津々といった感じか。

 本当にやりきれない。


「ありがとう!」


 周囲との関係を怠ったばかりに断れなくなったこれは私の負け。

 断った場合のデメリットが大きすぎた。

 フラッシュモブを頼んだ辺りからして、周囲に私への思いを色々吹き込んでいるのが予想できてしまう。

 個人間であればもっと簡単に断れたのに。


 断った場合、フラッシュモブ組とか付近のクラスメイト達が「あいつ良い奴だから!」とか波状で詰めてくる可能性だって想像できるのがもう嫌だ。

 それくらいなら一度付き合って「合わないから」で断った方が丸く収まる。

 それでもなんか妄想を押し付けてくる奴は論外だと思うけども。


「ごめんね。こんな感じで告白して。じゃないと逃げられると思って」


 許すものか。




「そんなぷんぷんしないでよ」

 

 するしかない。

 学生時代だからこそできる事として、海の家のバイトを応募してみたら、ここにもなんか居たんだから。

 どうやって嗅ぎつけたかが分からない。


「ちなみに興味あるモノを見てる時の君ってすごい分かりやすいよ」


 ……純粋に私自身がセキュリティホールだったのか。


 そもそもこんな自己中に何故興味を持ったのだろう?

 好かれる要素はたぶんほとんどない。

 テキトー人間だし。一所に居つけもしない。


 何ができるか? 平均的に? 0.8人前?

 初心者よりは上手く、ベテランよりは下手。

 猫の手くらいの価値しかないか。

 居たら助かるけど、居なくてもまぁいいかくらいの立ち位置だと思う。


 それくらいを意識してる。

 というかそれくらいにしかなれない。

 数回しか働かないからお客さんの事を覚えてられないし。


 動き方の癖を見て行動の予測くらいはするけれど、完全に対応できるわけでもない。

 現場の人間関係の空気感も分からない程度の期間しかいないし、適当な対応もできるわけがない。

 精々やれるのは言われた範囲、許可された範囲の仕事をやるのみ。それが無難だし。

 色々な仕事の経験……と言えるかは微妙だけれども、0よりかはマシ程度には知る事の方が大事。そちらが目的だし。


「ねぇ、僕を見てよ?」


 嫌だ。


「バイトちゃん達ー! 口よりも手を動かしてね〜」


 厨房のお姉さんに怒られた。

 私話してないのに。


 あ、いや、グーサインを出してくれてる。

 お姉さんは助け舟を出してくれてた。

 あとでお礼を言いに行かなきゃ。


「っはーい!」


 落ち着け。もちつけ。あんころ餅。

 こんなモノに煩わされるな。

 私は楽しみにきたのだ。知らない現場を見て面白おかしく有意義な時間を得るためにやっているのだから。



 青い空。白い入道雲。海風は少しジメッとしつつも汗を吹き飛ばす。

 かき氷ののぼり旗にトンボが止まろうとしてる。

 サイダーやビールなどが入ったプールには氷が転がり、縁に手をついてるだけでもすごく涼しい。


 海の家の庇の下から見る海は少し閑散としている。世の中暑すぎるのが悪い。

 クラゲ注意報が出ていないだけマシか。

 日焼けを試みるおじさんばかり目に入る。

 彼氏を名乗るバカもまた上裸で焼けようとしている。


 ……もっとキラキラした世界だと思ってたのに。


 世の中の創作なら岩場の陰で淫猥な事が行われているが、この真昼間にそんな元気を出せるヤツはいない。

 夜になったら状況は変わるのだろうか?

 手持ち花火のカスが転がっているくらいだし、若いのは夜に出てくるのかもしれない。

 高校生のバイトは夜に対応できないからダメ。

 ……そりゃお客さんの少ない昼しか働けないなら安い時給しか出せないよね。


「やっほー! ホントにいるー!」


 ……クラスメイト……。しかも大集団。

 何人いるんだろう? 20人? 30人?

 呼び寄せたのかな? だろうな。

 それが条件でバイトの追加人員として増えたのかも。


 そしてこれで仲良くしてるという既成事実を固めていくと……。


 嫌だよ。


「来てくれてありがとー!」


 あぁ、コミュ力。差を感じる。


 ……もしかすると彼がいたからこのバイトの枠が空いたのかもしれない。

 利益ない時間に店を開く意味もない。

 ましてバイトを雇う理由も余力もない。

 社会は資本主義。慈善で出来る資本力を一民間人が持っていると思うな。


 学生は親が金を出すから小売としてはありがたいのか?

 1人当たりの単価は学生も社会人も変わりはしない。

 何なら徒党を組み、空気読みが発生し、まとめた個数が捌ける。

 責任の所在も追求先も見えるとなれば安心度が高い?


「ねぇねぇ、メイクは何使ってるの? すごい目がパッチリしてる」


 ぎゃひ。


 近い。熱い。暑い。

 なんかいい匂い……。

 おぅふ。


「あー……。適当に動画で見たコスメでパパッとやってますね。身バレ防止にコスプレ用でちょっと過剰なモノをと」


 バレたけど。原型を留めていたか?

 留めていたとて、普段の私を見るに、覚える必要ない存在だろうに。

 むしろ何で分かるの? くらいだから。


「ねぇ、今度私にメイクさせてくれない? なんか面白そう」


 捕食者……。クラスカーストの高み……。


「ありがとうございます。ただまぁつまらない顔ですよ?」


 すごく逃げたい。でも逃げれば悪化する。

 目をつけられた? どうして? ここまで来た理由は?

 もしかしてアレがタイプだった? ノシ付けて渡したい。


「つまらないかどうかは私が判断するわ。それとクラスメイトでしょう? 堅い」


 女帝だよ! 雰囲気が!

 私ははぐれの行商人みたいなモノ……。

 地盤もなければ売り物もほとんどない。

 地位はこれっぽちもないゴミカスである。


「あ、あはは……。ありがとうございます」


 顔を切り刻まれたりしないよね?

 そんで傷口できたところに、小麦粉を白粉と言って塗りたくって、小麦アレルギーを発症させようとしたりしない……?

 想い人の寵愛を奪ったその顔が憎いと壊される?


 さすがにそこまで意地が悪そうには見えない……か。

 いや、私の発想の方が意地が悪い。

 やはりこんな心汚い私よりも彼はあなたに相応しい!


「どうどう。僕の彼女をいじめないでくれるかな?」


 火に油を注ぐんじゃあない!

 つか彼氏面するんじゃないわ!

 こんな火中の栗は億あっても要らないんじゃ!


「りお。私は別にいじめてはいないわ。強引に付き合わされているこの子が可哀想なだけよ」


 もしや女帝様は神様……?

 それと当て馬にしようと呼んだ可能性もあったり?

 どんなに信用出来ない彼氏面でも、いじめの壁として役に立つなら離れられなくなる……みたいな?

 そういう構図を作ろうとしてクラスメイト達を呼んだ可能性……?


「強引ね。否定はしないよ。そうしないと逃げちゃうモノ」


 私の思考がどす黒いせいで、全てが策略に見えて仕方がない……!

 というかそういう人間模様に巻き込まれるのすごい嫌なんだけど!

 そういう臭い関係はマジで要らない。履歴書にも書けないし、自己解決もしづらくスキル向上の役にも立たない!


「逃がしなさい。元いた場所に返しましょう」


 うん。お母さんがいる。

 私はザリガニか虫か何かかな。

 まぁ、それで収まるなら万々歳なんだけど。


 それにしてもこの2人どういう関係なんだ?

 いや、別に知らなくていいんだけど。

 なんか幼なじみか何かな気がする。


「僕はかれんを呼んだ覚えはなかったんだけどなぁ」


 まぁ、言い争いと修羅場は2人に任せて、私は海の家をまわそうか。

 後ろのお姉様のニコニコ顔がいつ壊れるか分からないし。

 とりあえず営業! 営業!


「りおが何かやるという噂、すぐに流れてきましたからね」


 へい! そこの兄ちゃん達! サイダーを飲まないかい!

 ちなみに御手洗はあそこの辺り。近くにホースがあって冷たい水が出てくるから海の塩を落としたい時におすすめ!

 それと貸出の玩具もあるから必要あれば声掛けてな! バナナボートもあるから!


「かれん。僕は別に悪い事をしてないよ」


 はーい! そこのお姉さん!

 コレコレ、アイスクリームあるんだよー。

 かき氷もあって超おすすめ!

 あとあそこにいい感じの日陰があるから、疲れたらそこで休むといいよ!

 それと階段登ってすぐ右手側日陰のところ足湯があるからそれもおすすめだよ!


「そうかしら? 嫌と言いづらい空気とか出してあの面白そうな子を捕まえようとしてるの。とても悪い事じゃない?」


 おじさーんっ! 騒がしくしちゃってごめんなさい!

 これ、私からのお詫びです! ビール1本で申し訳ないです!

 あ、お金はいいですよ! お詫びですから!


「でもあの面白い子、見つけたの僕だからね? たぶん心臓に毛がボーボーだよ? 本当に嫌だったらすぐに断ると思うから」


 店長ー! とりあえずプールしてたドリンク売り切りましたー!

 たぶん次はお昼ご飯のタイミングで波が来ると思いますー!

 空模様的に今日はこれ以上暑くならないと思うのと、クラスメイト達なので焼きそば大皿注文が来ると思いますー!

 何か必要なモノとかありますかー!


「……そうね。ちょっと納得しかけちゃったわ。でもあの子は計算得意だから感情で行動しないんじゃないかしら?」


 はーい! じゃ、ちょっとどれくらい注文するか確認してきますー!


「この動き方を見てそう思う? 居づらいから仕事探して逃げているんだと思うよ?」


「感情で動く時もあるでしょう。人間なのですから。というかそれが分かるなら逃がしなさい」


「……とにかく僕はけっこう本気であの子欲しいんだよね」


「ホントいけ好かないわね。群れないと何も出来ない癖に」


「鉛筆1本。これをあの価格で作るのは個人じゃムリだよ。人間は群れるからこそ出来る事が増えて自由に生きられる様になったんだから」


「口だけは達者だ事。嘘つきりお」


「嘘をついた覚えはないよ。かれんお嬢様」


 修羅場☆ SYU☆RA☆BA!

 いやー、盛り上がってまいりました!

 実況のさやかちゃんです☆


 何やら因縁のある関係が見えますねー。

 りお氏は私の持っている情報だと、そこそこいいお家のお坊ちゃんで、顔良し体格良し文武両道のモテモテハイスペクソ野郎です。

 対してかれんお嬢様はりお氏をも上回るハイスペ! オーラに金髪縦ロールが見えますが、黒髪ストレートの華族のお嬢様といったところでしょうか!


 いいお家で距離も近いとなると、小さい頃からの付き合いも想像できますね!

 親御さん同士で許嫁とか婚約とかしていそうな雰囲気を感じちゃいます!

 なんかこうりお氏の方から暗い気配が漂ってますが、これはもしやかれんお嬢様に対して劣等感などを覚えていたりするのでしょうか!


「……」

「……」


 あ、あれ、もしかして声出てた……?


 なんかすごくいい顔でこちらを2人が見ていますね。


 店長ー! 注文メモ持ってきましたー!


「あれがいいの?」

「……ちょっと悩んじゃうかも。いや、あの姿が本来の姿……?」


 スイカー! スイカ割りはしないかねー!

 今なら1回2000円で出来るよー! 安い!

 本来なら5000円はするスイカが2000円で1個まるまる食べられる!


「……愉快な子ね」

「面白いでしょ?」


 さぁさぁ! みなさん集まった!

 あそこにスイカ! お手元には木刀!

 挑戦者は何処! 割れるまでが1回! お買い得!

 目隠しはこちら! ってなんじゃ! ゴーグル?! 誰の……店長のお姉さんっ!? 秘蔵のAV……?

 私達高校生っ! R18厳禁! オフレコ?

 ってうぉぉぉ……。……ちょっとだんすぃ……。じゃんけんして順番決めたの。そう、エラいエラい……。

 割れるまで見放題……? これで2000円とか安いでしょ? いや……あの……食べ切る事を考えてくださいね……?

 ……10回くらい失敗してわざと割らずに持ち帰る……? 悪知恵……!

 あ、店長! スイカの在庫って……5個ですね? 聞いた? 5組しか出来ないからね?

 割りなさい。割るのです。スイカを割るのがスイカ割りの醍醐味なんですよ!


「バカかしら」

「バカだろうね」


 黙らっしゃい。


 はい、先頭のあなた。

 ゴーグルつけて。はい、ぐーるぐる。

 これ、木刀ね。


 じゃあみんなー! 誘導お願いー!


「手馴れてるわ」

「クラスの時にもあの顔を見せてくれたら嬉しいんだけどね」


 お、お、いい調子? あ、ざんねーん!


「……可愛い子が見れるぜ」


 さーて2番手! はい! ぐーるぐる!

 みなさんお手を拝借。それぐーるぐる!

 さぁ、今度はどうでしょうか!


 うーん! 惜しい!


「可愛いは可愛いな……わんこ系だ」


 それじゃあ3番は君か!

 張り切って……GO!!!


 お、お、お! 行ったー!


「ちくしょう! あぁー! うん! 可愛いな! わんこ可愛い! わんこ可愛い! AVはアニマルビデオの略かいっ!」


 あー、ネタばらししちゃったー。

 でもまぁ、スイカ割りは楽しいし、お得だよ?

 皆さんやっていこー!


「イキイキしてるわね」

「楽しい子でしょ?」


 あ、おすそ分けですか? ありがとうございま〜す! あーんまいっ!

 店長! これスゴい美味しいですね!

 どこで売ってますか?! 親戚が?!


 おぉ〜! チラシですよ! チラシ用意されてました! 皆さんも1部どうぞ!


「あの子は1人で生きていけそうな子よ。むしろ1人で生きたがっている様ね」

「それはいけない。集団の楽しさを教えなきゃ」

「余計なお世話よ。諦めなさい」


 女帝様……! マジ神ですわ!


「うーん、何だろうねー。もっと僕が色々活躍出来る仕事だと思ったんだけど上手くいかないなぁ」


 ……まぁ、クラスメイトという身内も身内だもの。近場だし土地勘も十分あるはず。

 彼の本来のプランだったらたぶん私が動く必要もなかったかもしれない。

 私も海の家のサクラとしてクラスメイト達が呼ばれているという前提がなかったらここまで積極的に動けなかった。


 おじさんの対応がソレだけども、購入意欲が低い相手の声掛けは気を使う。

 あのおじさん、たぶん日焼けが主目的。海水浴場としてはメジャー所ではないし、ここは。

 クラスメイト達が現れた段階で、正直居心地が悪かっただろう。

 だから詫びビールしたわけだけど。


「動くのが遅かったわね」

「君に絡まれたからね」


 そうやって争うから私の方に購買目当ての方が集まるんですけどねー。黙って働け、野郎ども!


 それとオフザケのテンションって維持が難しいというか、逃げたい状況からの思考逃避なのですよ。

 他の人も知り合いの言い争いを野次馬するのは心理的コストが高い。

 だからこそ私程度のオフザケに乗って、お祭りの雰囲気にして楽しもうとした。現実逃避。


 ダラっとタイミングを考えずにやった場合、参加人数は今の何割か。下手したら1割下回る?

 地元の内輪で盛り上がる祭りの入りにくさ? 傍観者でいることの気楽さというか、そこに積極的な参加をしないヤツ。

 言い争いを隔離し、全員が全員、現実逃避のためにお祭りに参加したからこそ、私のムーブがいい感じになった……みたいな?


 ヤクザ者の言い争いとかじゃなくて、あくまで知り合い同士の、でも絡まれたら面倒なラインだったから。

 絡みも積極的に行く方ではないというのもあったか。だから隔離も簡単だった。

 私に有利な条件が多々揃ってたね☆





「さやかさん。一度止まりなさい」


 ぎゃひ。


「炎天下で動き過ぎだね。はい、塩飴とアクエリ」


 敗因。熱暴走。砂浜で走りすぎ。


「私が代わるから少しそこでゆっくりと販売員でもしてなさい」


 やはり……神?


「がんばれー」

「貴方も頑張るのよ」


 我が神よ……!


 うん、ホント落ち着くと頭が暴走してた事が分かんだね。

 でもダウナーよりもアップ系の方が世の中的にはマシかな。

 悲観主義は生存能力は上がるけど社会性は下がるし。


「こんにちは〜」


 あら御新規さん。人が集まってたから現れた感じかな?

 辺りをキョロキョロとしてるし、海目当てに来たというよりもクラスメイト達目当て?

 ちょい要注意。


「はーい。飲み物をご希望でしょうか?」


 年齢的には大学生かそこら?

 私達よりも年上だろうけども、そこまで歳が離れている感じはしない。

 男性2人組なところも警戒か。


「そそ。ビールちょうだい」


 あー、酒をいれると。何かあってもお酒に酔っちゃっての行動だからと言い訳を出来る様にかな?

 それとも緊張を緩和してナンパ行為しやすくするため?

 いや、お酒覚えたてで、とりあえずビールを飲むのがかっこいいと信じているパターンもある。


「あ、お兄さん達。一応年確してもいいかな?」


 お姉様! お慕いしておりますわ!


 たぶんだけども成人は問題なくしてる。その点は問題ない。

 ただ未成年が相手するには微妙な手合い。体調不良の女子高生なら尚更避けさせたいか。

 輩な絡み方をされて面倒事になる前に、大人な自分が対応する事で、トラブルを未然に防ぐ……みたいな?


 でもでもでも、そうだったとして、助かったということには間違いがない。

 狙った狙ってない置いといて、救われたという事実は間違いないのだから、好きになってもかまわないでしょ!

 綺麗! かっこいい! 可愛い! 肝っ玉!


「はい。ありがとー。この辺りに今いる女の子、私を除いてみんな未成年だから気をつけてね。下手な声掛けは事案だから」


 未成年者略取か。未成年者の場合、本人の同意があっても、暴行等の行為は犯罪になる。

 騙す。脅す。それ等の行為は尚更。

 上手く扱えば中高生に声を掛ける大人はそれだけで罪に出来る。使う意識さえあればだけども。

 そして今の口頭での伝達で、未成年だと思っていなかったという言い訳は、使えなくなった。


 まともな相手であれば意味を察して止まるだろう。

 まともじゃなければ? 判断能力がない。

 暴れる可能性も高い事だ。ササッと最寄りの警察に声を掛けるのがベストか。


「助かりました! ありがとうございます!」


 あの声掛けは未成年がやっても効果が薄い。

 大人がやるからこその意味がある。

 酒類販売許可とかの都合もありそう。


 諸事情あれども責任果たす大人はかっこいい。

 果たさない大人はまあまあ多いし。

 人間はダルい事をやらないで済ませようとする生き物も結構いる。


 なんならそういう生き物の方が揉め事少ないからという理由か、上司勢にちょっと増えやすい。

 下手な正義感であっちこっちに噛みつかれると、本業の方が回らなくて業績が下がるみたいな感じか。

 許容範囲が広いといえばまだマシに聞こえるヤツかもしれない。


「いいの。いいの。これが私の仕事よ」


 ヘラヘラっと目を細め手をヒラヒラさせての謙遜。

 サンバイザーから覗く顔はとても爽やか。金のポニテの美しい事よ。

 お姉様! 私を彼女にしてくれませんか?


 それを叶えるためにはまず彼を処さなければ。

 「本当の愛を見つけたので」がいいかな?

 「仕事とか頼りないし、つまらないから」をサブの理由にしようかな?


「ねぇ、店員のお姉さん。君、可愛いね。ちょっといい事しない?」


 おぅふ。


 店員だから未成年だと思わなかったという言い訳を発生させたのか? これは。

 いや、メイクの方向性か。大人感だそうとしてたし。その方が気楽だから。

 店員は年上に見えた方が信頼感が上がる。


「しないですね」


 大学生。なまっ白い。体格はいいが脂肪が多め。体重は80から90と予想。

 ……ケンカになったら高校生成り立てレベルじゃ勝てそうにないですね。

 とりあえず暴力とかオラついた真似してきたら即通報。


 うーん、目が色欲に染まってますねー。コレ。

 目が随分と下の方を向いている様で。

 その点彼の方が信頼感ある。目が合うし。


「お客さん、ウチの子にちょっかいかけないでくださいね。この子も未成年なので何かあれば私がすぐ通報しますから」


 お姉様っ!


 責任の所在をハッキリさせる感じ好きですっ!

 一緒に働くうえで神っ! 付き合って!

 体格や筋力的にはたぶん私と大差ないはずなのに、守ってくれるその背中の大きさはもう2倍も3倍にも感じます!


「お姉さんや、オレはただ声を掛けただけだぜ? あぁーあー、やんなっちゃうよ」


 うわぁ……。キモ。

 なんか下劣な精神性が口から出てきてる。

 今は良くても後でなんか嫌がらせとかしてきそう。

 目線がもうおかしいし、過去にどんなコンプレックス抱えているか知らないけど、見ず知らずの私達にそれを向けてくるの、マジで迷惑。


「おい、おっさん。僕の彼女に何の用か?」


 りお団集合してきたー。

 体格はまだ成長の余地を感じるものの、ほぼほぼ大人な体格だから、人数いれば負ける事はないか。

 法律と暴力が揃ったから、まともな相手だったら撤退するとは思うけども。


「僕ちんの彼女ね。お友達たくさんで強くなったつもりかい?」


 頭のおかしい相手だとかえってヒートアップする。

 りお氏。顔も体格もいい感じだから、こういうタイプにとって、大敵みたいな扱いされてそう。

 流血沙汰になる前に警察を呼ぶのが正しいな。

 今の段階ならお互い注意で収まるはず。


「おっさんは1人かい? 可哀想に。構って欲しくて高校生の集まりに来るとか寂しすぎない? 仕事はしてる? 職場の人とは話せているの? 出来てなさそう。ここにイキりに来るくらいだし」


 煽り過ぎやろ。憶測と断定でフルコンボだドン。

 これは殴られてもおかしくないというか、殴られろ。怒られろ。


 ……。なるほど。おっさんの意識が完全にりお氏の方に向いた。

 今までであれば海の家のお姉様の方にヘイトがいっていた。

 さっきの段階で通報していたら、夜間とかに海の家が破壊される様な嫌がらせをうけていた可能性がある。

 あの視線の感じだとほぼ確で受けていた。


 りお氏はその点、おっさんからしたら身元の分からない人物。

 嫌がらせを受ける可能性は低い。

 そしてもし嫌がらせを受けたとて、りお氏の家はその対策を容易にできる。

 タンクとしてやる事をやっていると。


「おぉん? 言ってくれるなぁ? てめぇみたいなガキは1発殴らないとおさまるかってんだ」


 あ、手が出そう。おっさんの怒り肩だ。

 身長自体は大差ないが、体の厚みが違う。

 青あざ確定かな? そして外でトラブル起こした事でバイト禁止令が発令か?

 もらい事故で死す。


「そこまでだ」


 おっちゃん! 日焼けに来てたおっちゃん!

 ニカッて笑って白い歯が綺麗に光ってカッコイイぜ!

 黒くてデカくてムキムキ過ぎて、風貌は堅気じゃないけども!




「お兄さんの気持ちもよく分かる。君の気持ちもね。ただここは海だ。みんな遊びに来ているんだ。楽しく過ごそうじゃないか」


 おっちゃん強いぜ!

 狂気感じた大学生のあんちゃんを雰囲気だけでメゲさせた!

 私もちょっと怖いなと思ったけども!


「ビールの礼だよ、嬢ちゃん。気にしないでくれ」


 布石打って良かったー!!!


「ありがとうございますっ!」


 あぁ、これでバイト禁止令が発令される危険性が落ちた……。

 職場見学は楽しいからね。辞めたくなかった……。

 働く側として見えるモノは面白いし。


「あーぁ。僕は今回役たたずだったなぁ」

「別にいいでしょう。初回で役に立つというのがまずおかしいです。そんな職場破綻してますよ」


「ありがと」


 人を呼びその対価でバイトの枠を広げる。

 通じる場所は限られるかもしれないけども。

 揉め事のヘイトを集め、行動しやすくするという面でも助かる。


 なんで私を彼女にしようとしたかだけが意味不明だけれども、総合的に見て優秀。

 まだ彼氏としては認められないけども、近くにいる事は許容できる。

 というか彼女不適格なのは私の方なのだ。


 悩ましい。


「デレた」

「……さやかさんにお礼を言われた事もないの……? 関係性考えたら……?」

「うるさいなぁ! 僕には大きな1歩なんだよ!」

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