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REVIVE  作者: Sta
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第一章【RESTART】第四話『BEST FRIEND』

※今回は5,000字を超える少し長めのお話になっています。

最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです!


冷たい風が頬を撫でる。


心臓が嫌な早鐘を打ち始め、冷たい汗がじんわりと首筋を伝う。一刻も早くこの場から逃げなければならないと、生き物の本能的な恐怖が胸を締め付け始めた。


(なんだ……あれ…?)


バイパーの目の前。


そこには、普段なら起こりうるはずがない、この世のものとは思えない悪夢が広がっていた。


倉庫の扉は開いていて、中は真っ暗だと思った。


しかし、違った。


暗闇だと思っていたものは、巨大な『影』だったのだ。


その影は、生き物の形をしておらず、泥と腐った苔を無理やり混ぜ合わせたかのような濁った黒緑色をしている塊だった。その表面からは無数の突起が伸び、規則性もなく、まるでタコの足のように地面を這い、空気を探るようにうねりながら、無造作にのたうち回っている。


逃げなければならない。


止めなければならない。


そう思っているのに頭の中の警報は鳴り止まず、体を動かすこともできなかった。

俺はただ静かに、息を潜めて、見ることしかできなかった。


_______。


どれくらい経っただろうか。

バイパーとおぞましい影はまったく動く気配がなく、長い静寂を作り続けていた。


しかし、片方が先にその静寂を打ち破った。


バイパーの二、三倍の大きさだった影が突然動きをぴたりと止めた。すると、おぞましい太さの突起が何十、何百と虚空から這い出て何倍もの大きさに膨れ上がり、粘液を滴らせながらバイパーへと迫り始めた。


(まずいっ___!)


俺は頭の中でいまだに鳴り続けている警報を無視し、動かない体を物理的に殴って、力強く一歩踏み出した。


校舎の角からなんとか体を出すと、影の中で横たわる三日月のような光が浮かんでいることに気づいた。


それはまるで、口のようで____。


こちらを嘲笑っているようだった。


『怪物』


誰が見ても、この言葉が一番しっくりくることだろう。


すると、怪物は先程までバイパーへ伸ばしていた突起の動きを止め、ゆっくりと向きを変え始めた。


俺の方へ____。


影の表面がゆっくりと蠢き、横たわっている三日月の光が口元のようにぐにゃりと歪んだ。


その瞬間。


ニィッ


目があった。


「ひいっ!」


俺は恐ろしさのあまりとっさに声をあげて、その場に尻もちをついてしまった。


ドスンッ!


体育館裏に、砂袋が落ちたような大きな音が響いた。


すると怪物の輪郭が不機嫌そうに激しく波打ち、何倍にも膨れ上がった体を、小さく折りたたむように内側へと爆発的に縮退していく。


気がつけば、存在そのものが最初から嘘だったかのように、じっとりと冷たい毒々しい霧だけが残されていた。


その霧も時間が経つと、砂埃とともに霧散していった。


「誰だ。」


鋭い声が飛ぶ。


バイパーだった。


その目が俺を捉える。


「なんだ…、悠真か。」


彼は安堵したように笑い、こちらへ歩いてきた。


「どうした? 大丈夫か?」


差し出された手を見ながら、俺は震える声を必死に抑えて答えた。


「あ…ああ。大丈夫。ちょっと貧血で尻もちをついただけだ。それより、バイパーはここで何してるの?」


「準備運動をしていたら、悠真が昼休みに言っていたことを思い出して、気になって見にきたんだ。まあ、大した収穫は得られなかったけどね。」


「そっか…。」


笑顔で話すバイパー。



けれど、その笑顔はどこか不自然に見えた。


まるで、ピエロの仮面のような__。


「ところで、悠真はどうしてここにいるの?」


バイパーにとっては単純な疑問だったのだろう。

だが、俺はここにきた理由を、そのまま言ってはいけないような気がした。


「貧血気味で、体調が悪くなったから保健室に行こうとしたんだ。そしたら君が、体育館裏の倉庫の前にいたもんだから、心配になって…。」


「そうだったのか。心配かけて悪かったな。さっき尻もちついたって言ってたし、保健室に連れて行こうか?」


俺を本気で心配しているのか、バイパーの声はいつもより優しく感じた。


だが、その優しい声は、かえって恐ろしくも感じられるようだった。


「そこまでしなくても大丈夫。バイパーと話してたらだいぶおさまってきたから、一人で行けるよ。」


「そうか。お大事にな、悠真。」


そう言ってバイパーは、グラウンドの方に駆け出していく。


その瞬間だった。


カタンッ


乾いた音とともに、何かがバイパーの身体から落ち、俺の足元に転がってきた。


「なんだ…?」


俺は視線を落とす。


見ると、一枚の学生証が落ちていた。


バイパーのものだろう。

だが、本人は落としたことに気づいていないらしく、そのまま走って行ってしまう。


俺は学生証を拾い上げ、何気なく名前に目を向ける。


「………。」


そこに書かれていた名前を見て、俺は息を呑んだ。


そこに記されていた名前は_____。











『哲史』



誰も覚えていない。クラス写真からも消えた存在。


なぜ、転校してきたばかりの彼が『哲史』の学生証を持っているんだ……。



ふと、大輔の言葉が頭によぎる。


『先週さ、哲史(てつし)が転校しただろ。あれ、偶然だと思うか?』


『ああ、そうだ。悠真、とにかく妙なことが起きているみたいだから、あの転校生には気をつけた方がいい。』



(どうして俺は、気づかなかったんだ…。)


大輔は最初からバイパーのことを疑っていた。


でも俺は、あいつの言うことを信じることができなかった。


それなのに、バイパーが俺の話に共感してくれたというだけで、大輔と話したことまでペラペラと話してしまった。


共感なんて、誰にでもできることじゃないか。


あいつへの疑いが晴れた訳でもないのに……俺らしくない。


俺は、親友失格だ____。


(誰かに信じてもらう前に、まずは自分から信じてやらなきゃだめだろ…。)


パチンッ


俺は自分の頬を強く叩いた。


ここでくよくよしていられない。

後悔なら、全部終わってからいくらでもできる。

まずは大輔に謝って、このことを話さなければ。


俺は立ち上がり、グラウンドに戻ろうとした。


その時____。


ドスッ!


誰かと正面から激しくぶつかった。


「すみま……え。」


視線をあげるとそこには、ワイシャツの上から黒いフードを深く被った男がいた。


「ノートン……。」


ノートンは鋭い目で俺をジロジロと見る。


「なんだ…自分で解けたんだ。」


「え、解けたってな…」


俺が言い終える前に、ノートンが言葉を被せて言った。


「君の大輔、戻しといたよ。」


「え、え? 戻したってどういうこと…。」


ノートンは俺の言葉を最後まで聞かず、そのまま反対方向に歩いていった。


(あいつなんだったんだ…?)


突然現れてわけの分からないことを言われ戸惑ったが、改めて会話してみると俺が思っていたほど、一方的な人間じゃないのかもしれない。


(……今は、そんなこと考えてる場合じゃないか。とにかく大輔だ。)


──────。


キーンコーンカーンコーン。


ノートンが去った後、一人で呆然と立ち尽くしていると、六時間目の終わりを告げるチャイムの音が鳴り響いた。


(もうこんな時間か。)


俺は、先に更衣室で大輔を待つことにした。


──────────────────────


泥のように黒ずんでいた雲の隙間から、夕陽がわずかに覗き込んでいる。

窓から差し込む柔らかなオレンジ色の光が、校舎の中を染め上げていた。


バタバタバタッ!


更衣室に向かう途中、後ろから慌ただしい足音が聞こえてきた。


「悠真ーーー!!」


振り向くと、そこには膝に手を当てて息を整えている、大輔の姿があった。


「大輔!俺、お前に言いたいことが…。」


「ごめん!」


「え…?」


俺はまったく予想していなかった台詞が飛んできて、思わず驚いてしまった。


「どうして、大輔が謝るんだよ。」


「実は…お前がバイパーを探しに行ったあと、ノートンが俺に話しかけてきたんだよ。」


「ノートンが…?」


「それであいつ、『そんな事で喧嘩するなんてばかばかしい』って言ってきて、俺も気づいたんだ。なんで俺は、あんなにバイパーにこだわってたんだろって。」


どうやら大輔は、俺のことを信じることができなくて、強く言いすぎてしまったことを謝りたかったらしい。


(それは、お互い様なのに…。)


「大輔、俺にも言わせてくれ。お前のこと疑ってごめん。親友の言葉を信じられなくてごめん。」


俺は深く頭を下げ、言葉を続ける。


「俺もあの後、後悔したんだ。お前の警告をちゃんと聞いていればよかったって。自分がどれほど愚かなことをしていたのか…。」


「……ッ!やめろよ!そんな謝られても困るだろ。俺の柄じゃないし……早く頭上げろよ。」


頭を上げて、大輔と目を合わせると、目尻がかすかに濡れているように見えた。


「もしかして大輔…、泣いてるのか?」


「泣いてねーよ!」


喧嘩を一度もしたことがなかったわけじゃない。それなのに、なぜか今だけは、離れ離れだった気持ちがまたひとつになったように、胸が熱く感じた。


「やっぱりお前は、俺の一番の親友だ!」


「それはこっちのセリフだよ!」


俺たちはお互いの肩を組み、思いっきり抱きしめ合う。


あんな嘘っぽい笑顔は何一つなく、相手の機嫌をとるために言葉を選ぶこともない。


自分の言いたいことを言い合える、大した理由はなくても笑い合える。


これが、本当の『親友』だ。


──────。


俺たちは、更衣室に入り制服に着替えてから、誰もいない空き教室に入る。


そして、改めて俺はバイパーを探してから起こった、一連の流れを大輔にそのまま話した。


『怪物』のこと。


『哲史』の学生証のこと。


そして、ノートンのこと。


大輔は考えるように俯いてから、顔を上げて言った。


「その話が本当なら、バイパーは黒幕確定でいいよな。」


「うん。それでいいと思う。」


俺は頷き、バイパーが落とした哲史の学生証を大輔に見せた。


「まじか、これ本物じゃん。」


「それ、どうしよう。」


「どうしようもなにも、お前が拾っちゃったら、バイパーにはもうすでにバレてるんじゃないか?消されるのも時間の問題かもな。」


「そんな怖いこと、軽々しく言うなよ。」


俺は震える体を落ち着かせるように、自分の両腕を抱いた。


「大丈夫だ。お前が俺のこと信用して話してくれたんだから、一緒に方法を探して必ず解決しようぜ。」


大輔はそう言って俺の肩にそっと手を置いた。


その温かい言葉と、大輔の力強い目を見て、少しだけ緊張が解けたように感じた。


「とりあえず、ノートンに相談してみるのはどうだ?」


「どうしてノートンに?」


「そもそも、ノートンのおかげで、俺たちはまたこうして話せてるわけだろ?なら、あいつはきっと俺たちの味方だ。使えるものは使った方がいい。」


(ノートンの『大輔、戻しといたよ』ってこういうことだったのか。)


ようやくあの言葉の意味が繋がった。


だが、ノートンを信用していいのだろうか。


最初は、ノートンと女子生徒の間に起きた一件から、ノートンも怪物の仲間なんじゃないかと思った。

でも、ノートンは悪意があって女子生徒を操り人形にしていたのではなく、怪物が独断でやっていたと考えれば、納得がいく。


それに、バイパーとノートンが仲間だとしたら、俺と大輔を仲直りさせる理由なんてないはずだ。俺たちが仲違いしていた方が、相手の都合にもいいと思うし…。


(少なくともノートンは、怪物側じゃないのかもしれない。)


それでも、バイパーをすぐに信用してしまった俺の経験から、ノートンを味方だと思うのには少し抵抗があった。


「確かに、使えるものは使った方がいいけど…ノートンについては、もう少し様子を見てからの方がいいかもしれない。」


「そうか…。親友としてお前の警告を信じるよ。」


大輔は真剣な表情で頷いた。


「それでどうする。謎の影、バイパーの対処、何一つ解決方法が思い浮かばねぇな。」


大輔は、案を一生懸命に出そうとしているのか、頭を掻きながら言った。


「大輔、この情報があれば手がかりを掴めるかもしれない。」


「どういうことだ?」


「怪物のことについて、分かったことがあるんだ。」


俺はあの時のことを詳しく大輔に話した。


まず一つ目は、怪物が出てくる時は、辺りがどんよりとした天気になって、やたら黒ずんだ雲が太陽に被さっていたこと。


二つ目は、これは確信がある訳ではないが、怪物は物音を立てたら、不機嫌そうに縮んで消えていった。ということは、物音に弱いのではないか、ということ。


最後に三つ目は、怪物は倉庫から一歩も出ることができないので、太い突起にだけ気をつけていればいいということ。


最後の情報は、バイパーが襲われそうになった時に見つけたことだった。


あと一歩でその突起に触れられそうだった。だが、バイパーが倉庫の中に足を踏み込んでいなかったため、その突起は届かなかった。


「怪物の倒し方は分からない。でも、バイパーの目的なら分かるかもしれない。」


「目的…?」


「哲史の学生証を持っていたってことは、あいつはあの倉庫で、何かをしていたはずだ。」


「ちょっと待て。それって、例の倉庫に行って、お前の推測を確かめるってことだよな?」


大輔は突然、俺の肩を力強く掴んだ。


「悠真…それはどう考えても危険すぎるだろ!例の怪物がまた出没するかもしれない場所に無防備で行くなんて…バイパーに消されるかもしれないって茶化したのは俺だけどさ、だからって俺たちまで突っ込んで哲史みたいになったらどうすんだよ!」


「でも、このままじゃ何も変わらないだろ!バイパーが動きだしたら、どっちにしろ俺は消される…それなら、怪物の弱点や特徴、バイパーの目的を見つけるしか……!」


「理屈はそうかもしれねえけど、正直めっちゃ怖えよ!!」


大輔の悲痛な叫びが、無人の教室に響いた。

俺の肩を掴んでいる大輔の手は、小刻みに震えている。


(大輔は俺のために、さっきまで怖くない振りをしていたんだ。)


大輔の言う通りだ。

俺は焦っていたのかもしれない。

危うく親友を死地に、引きずり込もうとしていた。


俺は一度深呼吸をして、頭の中をリセットする。


「ごめん…。大輔の言う通りだ。俺、今ちょっとどうかしてる…。」


俺は俯き、拳を握りしめる。


長い沈黙。


すると、大輔が沈黙を破るように、大きなため息をついて、頭を掻きむしった。


「悠真は本当に面倒をかけるな…。お前をひとりで行かせたら、それこそ親友失格だろ。」


「大輔…。」


「俺も行くよ!そもそも解決方法を探そうって言い出したの俺だし…ビビってばっかりじゃ何も進まねえしな!その代わり、危うくなったら速攻逃げる。自分の命優先だ!いいな?」


大輔の覚悟を決めた目を見て、俺は深く頷いた。


そして俺は、決心して言う。


「よし…体育館裏の倉庫に行こう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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