第一章【RESTART】 第二話『SMILE』
入ってきたのは、肩に届くほどの白いボブヘアの青年だった。さらりと揺れるその髪は、太陽の光を反射し、薄い金色のようにも見える。
透き通るような白い肌に、日本人男性の平均より少し高い身長。
まるで、二次元のキャラクターがそのまま抜け出したかのような容姿に、女子は歓声を上げ、男子は息を呑んで見入っていた。
「女みたいな見た目だな…。」
つい、独り言が漏れる。
「フランスから来ました。バイパー・アル・バルアシスです。日本には久しぶりに来たので慣れないこともありますが、仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします。」
見た目から想像していたより、低く落ち着いた声だった。
そのギャップに、また教室がざわつく。
「じゃあ、バイパーの席は、、、窓側の空いてる席な。」
先生はそう言って、一番後ろの席の俺とノートンの間を指さした。『空いている席』とは以前まで哲史がいた席だ。
バイパーは静かにこちらへ歩いてくる。
窓の隙間から入ってきた風がバイパーの髪をふわりと揺らし、ほのかに爽やかな香りが漂った。
その整いすぎた容姿を見て、もし彼が女子だったなら一瞬で惚れていたかもしれないと思った。
「よろしくね。」
声をかけられ、我に返る。
だが、バイパーの視線は俺ではなく……反対側、机に突っ伏したままのノートンに向けられていた。
しかし、ノートンは当然のようにバイパーの挨拶を無視する。
「あー、バイパー君。ノートンはいつもそんな感じだから……気にしなくていいよ。」
つい、口を出してしまった。
「そっか…。忠告ありがとう。」
バイパーは、柔らかく微笑み返す。
少し気まずい空気が流れてしまったが、これは彼のための忠告でもある。
ノートンと深く関わった奴に、いいことがあった試しなんてないのだから。
──────────────────────
キーンコーンカーンコーン。
昼休み。
教室は今朝から変わらず賑やかで、バイパーの話で持ちきりだった。
「悠真!やっと昼休みだな!今朝の続きなんだけどさ。」
大輔は勢いよく、俺の机のそばに来た。
それほど今朝の続きが話したかったらしい。
「哲史の連絡が転校してから取れないんだっけ。」
「そうなんだけど…今日、それだけじゃあ無くなったんだよ。お前、気づいてないかもしれないけどさ……あいつが転校してこの学校に来てから、哲史のことを誰も覚えてないんだよ!」
「……え? それって、どういうことだよ。」
「そのままの通りだよ。俺とお前だけしか哲史のことを覚えていないんだ。理由は分からないけど、今日、哲史と仲良かったグループの奴らに、あいつのこと聞こうとしたんだよ。そしたら、まるで最初から存在しなかったみたいに誰も覚えてなくて……。」
そう言って、大輔は今日起こったことを話してくれた。
大輔が言うには、哲史の取り巻きたちが哲史の話を以前からしていたらしい。
しかし、今日は哲史の話を全くしないどころか、まるで最初から、哲史という人物など存在していなかったかのように、誰も彼を覚えていない様子だったようだ。
「悠真、これも見てくれ。」
大輔は携帯をポケットから出し、アルバムを開いた。
春に撮った集合写真。
東磨高校の校庭で立派な桜が咲いたので、卒業アルバムのために撮った写真だった。
だが、中央には不自然なほどに背景の桜の木が綺麗に写りこんでいた。
「この空間の場所って、哲史がいた場所だよな…?」
俺は桜の木が写っている場所に指をさして言う。
「ああ、そうだ。悠真、とにかく妙なことが起きているみたいだから、あの転校生には気をつけた方がいい。」
「俺がなんだって?」
突然、大輔の背後から声が聞こえた。
「バイパー…。」
振り向くとそこには、笑顔を浮かべたバイパーがいた。
「話の途中にごめんね。実は先生から学校案内を倉科からしてもらえって言われててさ、倉科くん、頼めるかな?」
「あ、別に大丈夫だよ。」
つい表情が固くなる。
「悠真、なんかあったら言えよ。」
大輔がこっそりと俺に伝える。
哲史の存在抹消、謎の転校生。
大輔と妙なことについてもう少し話していたい気持ちはあったが、俺はひとまずバイパーを学校案内することにした。
──────────────────────
外にある渡り廊下を二人で歩く。
今朝より一段と高い位置にある太陽が、強烈な陽射しを容赦なく降り注いでくる。
お気持ち程度の風がまるで、俺の背中をおすようにゆっくりと吹き抜けていった。
「倉科くん、あれ誰かな。」
バイパーが、外にある体育館倉庫を指さす。
そこには、フードのついた制服を着ている黒髪の男が立っていた。
そばには女性の影もある。
「ノートンだ。また、告白されてるみたいだな。」
「ノートンってモテるんだ。」
バイパーは少しびっくりしたように返す。
「ノートンの悪い評判ばかりが目立つけど、それだけじゃあないんだ。」
「悪い評判?」
「バイパー君は転校したばかりだから、知らないのもしょうがないな。ノートンはこの街では喧嘩が強いっていう悪い意味で有名なんだ。」
「もしかして、全勝無敗とか?」
「正解。ただそれだけじゃあないって言うのは、ノートンの容姿が君と同じくらい整っているってところかな。噂では、セフレが何人もいるって聞くよ。」
「へえ。なるほど、ご丁寧に説明ありがとう。」
そう言ってバイパーは柔らかく微笑む。
その微笑みを見た瞬間、胸が締め付けられるように感じた。
「また、分からないことがあったらなんでも聞けよ。あと、悠真でいいから。」
「ありがとう悠真。」
思っていたよりもバイパーは話しやすく、気さくなやつだった。
もしかしたら、いい友達になれるかもしれない。
渡り廊下を渡り、校舎に入る。
特別棟の教室を説明しながら歩いていると、ふと一つの疑問が浮かんだ。
「そういえば、どうしてバイパーはこの学校に転校してきたんだ?」
バイパーは少しだけ考えるように視線を泳がせる。
「んー……探してる人がいるんだよね。」
「探してる人?」
沈黙が流れる。
少し空気が張り詰める中、バイパーはまた口を開いた。
「なんてね…、ただ通いやすかっただけだよ。」
バイパーは冗談のように言った。
「でも、本当に探してる人がいるならいつでも相談してくれよな。期待に応えられるか分からないけど、バイパーの力になりたい。」
「ほんと?悠真は本当に優しいな!ありがとう。」
再び笑顔。
笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔、笑顔。
彼の笑顔は完璧すぎる。まるで、あらかじめ作り込まれた仮面を貼り付けたかのように、一ミリの狂いもなく笑い続けているようだった。
バイパーの顔をみて、先程大輔が言っていたことが頭の中によぎった。
ーーーあの転校生には気をつけた方がいい。
大輔が見せてくれた写真もみんなが哲史のことを忘れているのも本当のことだった。
でも、バイパーが一人でそんなことをできるはずがない。
(あいつはバイパーに嫉妬しすぎなんだよ…)
「バイパー。君がうちの学校に来てくれてよかったよ。俺の友達なんて、今朝から君が何か企んでるんじゃないかって言ってたんだ。」
俺は笑いながら大輔の言っていたことを話した。
自分でも不思議なくらい、言葉が次々と口をついて出た。
すると、バイパーは目を少しだけ細めて言った。
「ふーん………。まあ、間違ってはないかな……。」
「え、今なんて___」
「いや、面白い友達だなって!後で俺にも紹介してくれよな!」
バイパーはそう言って笑った。
俺もその笑顔につられて笑う。
教室に戻ったら大輔に話してやろう。
ーー全然怪しいやつじゃなかった、と。
そう思っていた時だった。
「それより悠真、話を戻すんだけどノートンってどんなやつなの?」
「え…、ノートン?」
意外な名前が出てきて、思わず足を止める。
先程のやり取りでもう興味を失くしたかと思ったのに。
「さっき言った通りだよ。喧嘩が強くて容姿が整ってる。それだけ。」
「ほんとにそれだけ?」
まるでガラス玉のような透き通った緑色の瞳が、俺を真っ直ぐ捉えた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
投稿頻度は遅めですが気長に待っていただけると助かります。
『★★★★★』評価や、「ブックマーク追加」、感想・レビュー等していただけると励みになります!
少しでも「面白かった!」と思ったら是非ともよろしくお願いします!




