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REVIVE  作者: Sta
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第一章【RESTART】第十話『START』

「────もう、その邪神不要(いらない)よな。」


パチンッ


霧の中から乾いた音が聞こえた瞬間、触手が中を舞った。


「………!?」


よく目を凝らして見ると、バイパーの右手にはナイフのようなものが握られていて、傍には綺麗に切断された いーちゃん の触手が落ちていた。


いつの間に……。


俺にはバイパーが動いたことすら見えなかった。


「イィィィィィィィィィィィッッッッッッ!!!!」


切り落とされた触手に気づいたのか、目の前のいーちゃん が耳をつんざくほどの凄まじい咆哮を上げた。


その怪獣のような咆哮は辺り一面を激しく震わせ、傍に建つ校舎や倉庫までもが軋みながら揺れ始める。窓ガラスはガタガタと音を立て、今にも砕け散りそうなほど細かく震えていた。


「……っ、く……! あぁぁっ!」


俺は思わず耳を塞ぐ。


校舎の壁や倉庫の屋根から、細かな破片がパラパラと降り注いできた。


咆哮ひとつで、周囲の景色そのものが壊されていく。


俺はただ、その光景を前にうずくまっていることしかできなかった。


その時だった。


「うぎゃぁああああ!」


咆哮とは違う、人の叫び声が響いた。


目線をあげると、存在が消えたはずの人間たちがバイパーの周りに集まっている。


体、足、腕。


何人もの人間がバイパーの身体にしがみつき、その動きを押さえ込んでいる。中には、まるで獲物に食らいつく喰種のように、身体へ顔を近づけている者までいた。


その光景に、俺の身体が反射的に強張る。


「バイパー!!」


俺は思わず、バイパーの名前を叫んだ。


すると___。


「大丈夫だよー!悠真!」


バイパーの落ち着いた、明るい声がこちらへ返ってきた。


そして、体を取り囲んでいた人間たちを、素早く退けていく。


ズザッ!


バイパーは姿勢を低くしたかと思うと、長い足を人間たちの足にかけ、何人もの人間を転ばせていく。


その隙に、バイパーは別の人間へ手を伸ばす。


ガシッ!


頭を掴んだ。


そのまま、バイパーの身体が、重力を無視するようにふわりと浮かぶ。


頭を掴んだ人間の身体を引き寄せ、その肩を足場にするように身体を跳ね上げた。


宙に浮いた身体が、くるりと回転する。


____トンッ。


その勢いのまま、迫り来る人間の肩を軽く押す。


触れられた人間の身体は、勢いを殺されることなく横に流れていく。


バイパーはその隙間をすり抜けるように身体を捻った。


そこへ、別の人間が襲いかかる。


今度は、その肩へ手を添える。


____トンッ。


また一人、さらに一人。


人の波を掻き分けるように、バイパーは次々と人間たちの間を抜けていった。


ただ、そっと触れる。


それだけで、人間たちの隊列が崩れていった。


「どうなってるんだ…?」


先程までバイパーを取り囲んでいた人間たちは、皆それぞれ別の方向によろめき、地面に手をついている。


その中心で、バイパーだけが何事もなかったかのように立っていた。


ズズズズズズズッ!


そう思ったのも束の間。


地面を何かが這いずるような音が響いた。


次の瞬間。


いーちゃんの体から、無数の触手が伸びた。


その数、十、二十____。


いや、それだけじゃない。


何十、何百もの触手がバイパーに向けて取り囲み始めていた。


「ーーッ!」


頭上から、左右から、背後から。


あれじゃあ逃げ場がない。


そう思った。


なのに___。


バイパーは体を僅かに傾けただけだった。


スッ。


触手が頬のすぐ横を通り過ぎ、バイパーの髪の毛がふわりと揺れる。


ーーザンッ!


瞬きをすることを許さない速さで、バイパーはナイフを持っている右手を動かし、すれ違いざまに触手を切断した。


迫る攻撃を見極め、最も動きやすい位置へ身体を滑り込ませながら、確実に数を減らしている。


ーーザシュッ!


また一本。


さらに一本。


しかし、切られた直後からまた別の触手が現れ、攻撃は止む気配がない。


バイパーは一歩踏み込む。


左手に握った銃を、身体の横へ流し、左から来た触手を身体を沈めてかわす。


そして、二本の触手が交差した瞬間。


バァンッ!


銃声が霧を震わせた。


放たれた弾丸が、交差した触手を撃ち抜く。


二本の触手が宙を舞った。


「すごい……。」


どれだけ触手が増えてもバイパーを捉えることができない。


ただ避けてるだけじゃない。


俺にはそう思えた。


触手同士がぶつかるように自分の身体を動かしている。


攻撃が交差した瞬間、その隙に入り込む。


触手の動きを見極め、次にどこから来るのかまで予測しているんだ。


だから、どれだけ数が増えても捕まらない。


「…全部、狙ってるのか?」


俺は目で追うこともできず、バイパーらしき残像と宙に舞う触手の断片を見ることしかできなかった。


「きりがねえな。」


バイパーは動きながら、そう呟いた。


そして____。


バイパーの姿が、視界から消えた。


「……え?」


どこへ行った?


今、確かに目の前で戦っていたはずなのに。


____気づけば、いーちゃんの目の前にバイパーが立っていた。


バイパーは何も言わず、ただ静かに銃口を向ける。


ズッーーー!


いーちゃんの触手が地面を這うようにして一気に伸びた。


俺の視界を一瞬にして覆い尽くす。


「うわぁぁっ!」


反射的に尻もちを着いた。


同時に白い霧が一気に周囲へ広がった。


視界が白く染まり、バイパーの姿が完全に見えなくなる。


ーーバァンッ!!


霧の向こうから乾いた銃声が響いた。


直後。


ドンッ!!


何かが弾け飛ぶような音がした。


「…っ!」


俺は目を細めながら、必死に霧の向こうを見つめる。


やがて霧は薄れていく。


目の前には___。


身体に大きな穴を開けた、いーちゃんがいた。


「イィィィィ…。」


だが、傷はすぐに蠢き始め、肉が歪み、裂けた部分がゆっくりと塞がっていく。


「いー…ちゃん…?」


そう呟いた瞬間。


いーちゃんの触手が再び大きく動き出した。


「あーこりゃ、効いてねーわ。」


バイパーはそう言って、いーちゃんから一歩離れる。


「やっぱ無理だわ!」


「え!?」


今更逃げるつもりか!?


あんなに戦えていたのに!?


スタッ。


真後ろで、何かが風を切る音がした。


振り返ると、そこにはバイパーが立っていた。


「え!?バイパーどうすんだよ!!」


「落ち着けって。別に逃げるわけじゃねーよ。」


そう言うと、バイパーは俺をガシッと掴む。


「いやいやいやいやいや。なんだよ!?何すんだよ!」


「さっきまで呆然としてたくせに、俺が絡むとお前、うるせぇよな。」


突然の悪口。


すると、勢いよく俺を持ち上げ、そのまま肩に担ぎ上げた。


「やっぱり、俺の攻撃だと効かないっぽいから、別のやつに手伝ってもらうことにした。それで、お前がそこにいると邪魔だから一緒に来てもらうな。」


「邪魔!?」


そういうとバイパーは一気に跳躍して倉庫の屋根に着地し、口を開く。


「カミ」


バイパーはまるで面倒な雑用を言い渡すかのように、冷酷な声色で呟いた。


その瞬間____。


「だから言ったじゃない!今度から私の警告は最後まで聞くことね!ふんっ!!」


はるか上空の虚空から、女性らしき不機嫌そうな声が響き渡った。


刹那、夜空の彼方から、すべてを貫く純白の輝きが一直線に飛来した。

遥か遠方の空、目に見えないほどの超高度から、狙い澄ました一筋の巨大な閃光が高速で射出されたのだ。

槍のごとく直撃コースを突き進むその光線は、ただのエネルギーの塊には見えない。圧倒的な熱量と謎の神聖なエネルギーを帯びた光が、螺旋を描きながら大気を激しく引き裂いていた。


そして、光線が通過した場所だけ、夜空が大きく開かれ、その向こうから無数の星々が瞬く宇宙が広がり、こちらを覗き込んでいるようだった。


光線が直撃した瞬間、無音に包まれていた校舎は轟音と共に、凄まじい閃光に包まれた。


「イ、イギ、イギャァァァァァァアアアッッ!!」


いーちゃんが鼓膜が破れそうなほどの悲鳴をあげる。


「いーちゃん!!!!」


俺は思わず声を荒らげた。


光の濁流に飲み込まれた異形は、激しくのたうち回りながら、そのおぞましい肉体を内側から崩壊させていく。


これでよかったんだ。


やっと、解放される。


嬉しいはずなのに、やっと元の生活に戻れるはずなのに___。


それなのに。


いーちゃんへ向けて、手を伸ばさずにはいられなかった。


───────。


「きみは、どこからきたの?」


「行くところがないなら僕と一緒にこない?」


「よし!今日からきみの名前は、鳴き声がいーだから...いーちゃんだ!よろしくな!」


「イーツ!」


───────。


(やっぱり、僕は君がいないとダメだ。)


「バイパー…。」


俺は小さな声でバイパーに問いかける。


「俺は、僕は!いーちゃんと離れたくない!」


「…は!?おい!危ねえぞ!」


ドスッ!


僕はバイパーの腕から抵抗して抜け出し、倉庫の屋根から降りた。


ビリッ。


腕から抜け出した時に、バイパーの握っていたナイフが僕の右腕を浅く切りつけた。

右腕がヒリヒリと痛み、そこから暖かい液体が滴り落ちる感覚がした。


でも、今はそんなことに構っている場合じゃない。


「いーちゃんっ!!!!」


僕はいーちゃんの名前を叫んだ。


無数の触手は、光の熱に焼かれてドロドロとした黒い液体に変わり、それさえも蒸発していく。口元は恐怖に歪み、ガラスが砕けるように身体全体にヒビが入っていた。


いつ砕けてもおかしくない。


「僕はっ、いーちゃんがそばにいないと嫌だ!一人でなんて生きていけない。たとえ、君が僕のことを食べるために生かして、そばにいたとしても、僕は君とずっと一緒にいたい!」


ここまで生かしてくれたのはいーちゃんのおかげだ。


君がここで死ぬなら僕も一緒に死にたい。


僕は降り注ぐ光線の中へ飛び込み、いーちゃんの元に駆け寄ると、その身体を強く抱きしめた。


光線は、僕をも巻き込んでいく。


でも、不思議だった。


これほど激しい光に包まれているはずなのに、痛みは全くない。

それどころか、まるで暖かな日差しの下で寝そべっているような、心まで安らいでいくような心地よさが身体を包んでいた。


「イィ……。」


「大丈夫だよ。いーちゃん。僕も一緒にいる。」


いーちゃんの触手が僕の右腕に触れる。


その触手はどんなものより優しく、僕を抱きしめてくれた。


あれほど圧倒的だった邪悪な気配が、容赦のない光の渦の中で、跡形もなく消滅していく。


いーちゃんの身体そのものが粉々に砕け始めていった。


「いーちゃん…嫌だ!一人にしないで!」


僕は必死にいーちゃんを掴む。

しかし、掴んだはずの身体は、砂のように僕の手の中からサラサラと崩れ、こぼれ落ちていく。


「イーッ!」


「いーちゃん!!」


一瞬だった。


光が収まると、そこには削られた地面と、ただ静まり返った夜の静寂だけが残されていた。


僕は呆然とそれを見つめた。


「あー、なんだ。どんまい!」


バイパーの、慰めているつもりらしい声が後ろから聞こえた。


「ごめんね、バイパー。」


「ん?何が?」


バイパーは何を言っているのか分からないとでも言うように返答した。


「お前を犯人扱いしたことだよ。バイパーはさ、邪神を倒すために、この学校に来たわけだろ。哲史の存在が消えることも、全部予想して。」


「まーそうだね。」


「結局、哲史の存在を消したのは俺で、バイパーは何も悪くなかった。だから、言いがかりをつけたことを謝ろうと思っ____ 」


「そんなことないさ。お前は邪神に騙されていただけなんだから。」


バイパーは俺の言葉を遮って口を開いた。


その表情には、恨みなど微塵もなく、ただ今の状況を哀れんでいるような色が浮かんでいた。


「ありがとう。バイパー。それで、その事なんだけど、多分、いーちゃんは俺を騙した訳じゃないと思うんだ。」


俺はバイパーの方に身体を向き直して言葉を続ける。


「いーちゃんは俺のことを守ってくれてたと思うんだ。今まで消えた存在って俺に嫌なことをしてきた奴だけだったし、何より、俺はいーちゃんのおかげで今日まで生きてこられた。」


「……。」


「確かに、やり方は悪かったけど、それでも俺はいーちゃんに感謝するよ。ありがとういーちゃん。そして、俺の記憶を思い出させてくれてありがとう、バイパー。」


「そんな顔するなよ。」


額から涙がこぼれ落ちる。


これで全て終わったんだ。


気づけば、夜空の彼方がうっすらと白く滲み始め、地平線の向こうから差し込む光が、雲間を白く照らした。


「もう朝日が出始めてる…。」


俺がそう言うと、バイパーが口を開いた。


「待って悠真…お前の足元にいるのって…。」


「え?」


俺はゆっくりと振り向き、自分の足元を見る。


そこには、ぶくぶくと泡立ちながら、徐々に膨れ上がっていく黒い塊があった。


見たことがある。


「もしかして…!」


俺は急いで、朝日が黒い塊に当らないないように手で影を作った。


あの時も、影があるせいで上手く動けていなかった。なら、こうやって影を作ってあげれば___。


ニョキッ!


ぶくぶくと膨れ上がった黒い塊が、まるで生き物のように蠢き始める。

表面を波打たせながら横に広がったかと思えば、今度は一気に縦へ伸びていく。


やがて、両手に乗るほどの大きさまで膨れ上がり、その高さは手のひらほどになった。


その姿は、あの時拾った見た目と何ら変わりなく、大きさも少し小さいぐらいだけど見覚えのある姿だった。


「いーちゃん!!」


「イーッ!」


高い声が答えた。


俺は嬉しさのあまり、反射的にいーちゃんを両手で持ち上げ、強く抱きしめる。


「良かった…!良かった!いーちゃん!」


頬からまた涙がこぼれ落ちる。


いーちゃんはこの状況を理解したかのように俺に擦り寄った。


「お前の血を吸って何とか生き延びたみたいだな。」


バイパーが優しい口調で言った。


「血?」


「ああ。邪神が人間を食らう理由はただ空腹を満たすだけじゃない。強さを求めたり、身体を修復するためにも必要なんだ。」


そうか。


俺がバイパーの腕から抜け落ちるとき、腕を切りつけ、血が滴っていた。

光線に当てられたいーちゃんを抱きしめた時に俺の血をかろうじて摂取したんだ。


「それで、そいつどうするつもりだ?まだ、お前の約束は続いているから、お前が望めばそれは現実になる。また、被害者を出すつもりか?」


冷ややかな声でバイパーは俺に問いかける。


でも、俺の気持ちは固まっていた。


「ううん。確かに、俺たちが犯した罪はもう、どうすることも出来ない。でも、そのままにするつもりもないよ。」


俺は言葉を続ける。


「俺は、いーちゃんと契約する。」


「お前っ…!」


バイパーは驚いたように声を上げる。


「契約は代償がつくっていっただろ!?お互いの利害が一致して成り立つもんだ。お前が邪神と契約した場合、どんな願いも叶えてくれると思うが、寿命が尽きた時、お前の魂は邪神のものになる。お前は他の人間たちのように、魂を回収されることなく、何も無いところで一生を過ごすどころか、存在ごと消されるんだぞ!?」


「分かってる。たとえその選択が俺にとって地獄のようなことでも、俺はいーちゃんと一緒にいたい。この罪を償いたい。」


怖くないと言えば嘘になる。


寿命が尽きたその先に、自分の存在そのものが消えるなんて、考えたこともない。


それでも__。


俺はいーちゃんを胸の高さに戻し、ゆっくりと口を開く。


「いーちゃん。きっと、俺らのように今もこの世界と戦っている人がどこかに沢山いると思うんだ。ううん。絶対いる。邪神にたぶらかされている人や、一人じゃどうすることもできない人が。だから…」


「イー?」


「だからっ!僕はそんな人達を助けられる力が欲しい!邪神に立ち向かえるように強くなりたい!もう一緒にいる必要はないから、僕が強くなれるように手伝って欲しい!」


「イーッ!」


その瞬間、いーちゃんと俺の体が突如として黒く光りだし、胸の当たりが重く感じられた。


「うぐっ!」


黒い闇が、俺の心臓に集まり、消えていく。


「おめでとう。契約成立だ。」


「こんな簡単にっ…て、あれ、いーちゃんは…?」


『僕はここにいるよ!』


「わっ!」


いーちゃんが目の前から消えたと思ったら、俺の頭の中で幼い頃の俺の声が聞こえた。


「もしかして、いーちゃん!?」


『そうだよ、はるまさ!僕はさっきの光線で肉体がほぼなくなっちゃったから、キミの記憶から幼い頃のはるまさを借りさせてもらったよ!元の姿には戻れないけど、あの小さないーちゃんとして、はるまさをこれからも見守ってるね!』


「いーちゃん…ありがとう!」


俺は涙を拭いながら、バイパーに向けて口を開いた。


「バイパー俺、勝手に宣言しちゃったけど、邪神に困ってる人って沢山いるよね。」


「ああ。お前らが見えないだけで、邪神はそこら中に沢山いる。俺は、そいつらの駆除を依頼されたんだ。だから、この学校に来た。」


「やっぱりそうだったんだ。バイパー、俺も邪神を倒すことを手伝いたい。これ以上、同じ犠牲者を出したくないんだ。ダメ、かな…?」


俺はバイパーの目を今度はしっかり見て自分の気持ちを伝えた。


「……別に、いいよ。人手は多いほうが助かるしな。」


「ほんとに!?」


「ああ。ただ、ソイツの力を上手く使えるようになってからな。」


「うん!そこんとこもバイパーが教えてくれると嬉しいんだけどな!」


「分かってるよ!ちゃんと一から教えてやる!」


俺とバイパーは見つめ合いながら笑った。


やっと、本当の笑みを見れた気がした。


「ところで悠真お前、一人称が俺になったり僕になったりしてるけど、大丈夫か?」


突然、バイパーが意味のわからない質問をしてきた。


「え!い、いや、ぼ、俺さ、自分を強く見せるために俺って言ってたんだよ。素に戻ると僕になっちゃって…でも、今は強く見せるためっていうか、新しい自分に慣れた気がするからいつも通り俺って言うよ。」


「そっか。」


バイパーはそう言うと校舎の方に動き始める。


「校舎の中は誰もいないな、そろそろ朝日が出始めたし、そろそろ帰るか。」


「そうだね、たくさん話しちゃったな。」


「あ、そうそう。今日のことは誰にも言うなよ。」


バイパーはそう言って振り返り笑みを浮かべる。


「うん!今日は本当にありがとうな!また明日。」


俺もその場を後にした。


今日は本当に色んなことがあったな。


邪神の能力。


約束と契約。


そして、俺の記憶。


これからもきっと、現実では考えられないほどの出来事が起こるだろう。


一度は死にそうになるかもしれない。


それでも___。


俺は、いーちゃんと一緒に、この世界を変える。











──────────────────────────────────











(そういえばいーちゃんって何を食べて大きくなるんだろ。)


「ねえ、いーちゃ___ 」



ポタっ。



「え…?」


俺は自分の胸元を見る。


そこには円形にじわじわと赤いしみが広がっていた。


「これっ…ゲホッ!」


ボタッ。


大量の赤い液体が俺の口から溢れ出る。


血だ。


ドサッ。


「う…そ、だろ…。こ、んな、ところ…で…。」


「いー…ちゃ、ん…。」


不思議だった。


俺の血に混ざって黒い何かが垂れている。


その近くには、細長いものが何本も落ちていた。


触手。


(いーちゃんの触手か…?)


「いやー大したもんだね。」


後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。


「やっぱり、邪神と契約されると殺すのが大変だな。まあ、本人は全く気づいてなかったけど。」


足音が近づいてくる。


そして、俺の目の前にしゃがんだ。


「な、悠真。」


その声、そしてうっすらと出かかった朝日を反射して煌めく白髪。


「バイ…パー。」


「あは!まだ生きてるとはさすが、邪神と契約しただけあってしぶといね。でも大丈夫。契約したばっかだから悠真はまだ邪神じゃないよ。ほら、怪我の修復が間に合ってない。」


バイパーはそう言って俺を仰向きに倒し、心臓を指で突き刺した。


指で押されるところから血が溢れ出す。


でも、痛みは全く感じなかった。


「ど、うして…。」


「ん?答えが知りたい?教えてやってもいいけど、最後まで意識保てるかな。まあ、いいか。」


バイパーはそう言うと俺を覗き込む。


「俺の受けた依頼はお前のいーちゃんを殺すこと。」


(いーちゃん……。)


「でも、厄介なことにお前の邪神は簡単に殺せるほど、弱くなかった。現に、倉庫で俺が召喚した邪神じゃあ歯が立たなかったからね。」


バイパーはいーちゃんと戦った時、「やっぱダメだ」と言っていた。バイパーの力ではいーちゃんを倒せなかったんだ。だから、邪神同士をぶつけていーちゃんを倒そうとしてたのか。


そして、俺はまんまとバイパーによって倉庫に引き寄せられた。


「お前を殺した理由は、契約したことで俺でも殺せるようになった、だからかな。言ってなかったけど、邪神は契約した相手が死ぬと自分の存在も消えてしまうんだよ。一時はどうなるかと思ったけど、お前が契約してくれて良かったよ、悠真!」


そんな…。


それじゃあ、俺がいーちゃんを殺したことと同じじゃないか。


俺は、最後まで何も変われなかったって言うのか。


「それじゃ、悠真。答えは打ち明けたし、俺もういくわ。安心しな、大輔も送ってやるからさ。」


そう言ってバイパーは踵を翻してこの場を去っていった。


最後まで冷たい声だった。


視界が急速に狭まり、夜の闇が全てを塗りつぶしていく。

幸運なことに、痛みは全く感じず、少しずつ眠気が増していくだけだった。


(ああ。今日はいい天気になりそうだな…。)


そして、抗う力も残されていない俺は、ただ静かに重たい瞼を閉じた。





──────。




『ほんと、珍しいわね。あんたがあんなミスをするなんて。』


誰もいない薄暗い路地の真ん中で、一人の女性の声が脳内に直接響き渡る。周囲を見回しても、そこに人の姿はどこにもない。


「ミスねぇ……。ま、単にアイツが邪魔だったからってだけなんだけどね。」


バイパーは気怠げに頭を掻きながら、頭の中で言葉を返した。


『まさかあんた!? わざと殺ったっていうの? またレクインに怒られるわよ!』


「はいはい。自重しますよ、自重します。」


脳内で騒ぎ立てる声を適当に受け流しながら、バイパーはだるそうに足を進めていく。


彼が路地の最奥へと辿り着いたその時だった。何もないはずのコンクリートの壁が、まるで陽炎のようにぐにゃりと歪み、突如として一枚の重厚な扉が作り出された。


その扉には、古びた文字で『AM』とだけ刻まれている。


バイパーは迷うことなくその扉を押し開き、ゆっくりと、そして完全に、この街からその姿を消していった。




──────。




「………。」


朝日が地平線からゆっくりと顔を出し、夜の闇を押し退けるように淡い光を広げていく。

その光に照らされ、闇に沈んでいた街の建物や道路が少しずつ姿を現していく。


『どうしたー?なんかあったか?』


頭の中に響く声に、言葉を返す。


「別に何も無いよ。それより、早く行かないと姐さんに怒られるよ。」


その口調はとても淡々としていて、何の感情も込められていなかった。


『それもそうだな。今日は面白いことが起こりそうだぜ____。』



『なあ、ノートン。』


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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