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REVIVE  作者: Sta
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第一章【RESTART】第九話『THOUGHTS BECOME REALITY』

「なら教えてやるよ。誰が哲史を殺したのか。」


バイパーはそう言いながら俺に近づき、口元を緩ませながら言葉を続ける。


「お前がお友達ごっこされてた、あの邪神___。覚えてるか?」


「邪神……。」


その言葉を聞いて、あの時の記憶がフラッシュバックした。


幼い頃、帰り道に木陰から助けを求めてきた小さな触手。

俺はそいつのことを『いーちゃん』と呼んでいた。


まさかバイパーは、俺が「いーちゃん」と名付けた、あの邪神のことを言っているのか…?


でも、どうしてそのことを知っているんだ。

「いーちゃん」は、俺が小学生の頃に出会った存在だ。そして、いつからか姿は見えなくなり、今ではもう俺の傍にはいない。


「どうして、お前がいーちゃんのことを知ってるんだ。いーちゃんはとっくの昔にいなくなったはずなのに…。」


「いなくなった? んっ……ふふっ!ほんとに何も分からないんだな!まあいいや。じゃあ、一から説明してあげるよ。」


そう言ってバイパーは、俺から一歩離れ、表情を隠すように背を向けた。


そのまま言葉を続ける。


「これからお前にいくつか質問するから、答えてもらってもいいかな?」


「質問?いったい何を企んでるんだよ。」


「まあまあ。じゃあ早速、悠真。お前の両親、今、何してるの?」


「…え?両親?」


俺は必死に頭を巡らせ、答えを探した。


____俺の両親は今、何処で、何をしてるんだ?


俺は高校に上がってから一人暮らしだ。


田舎生まれの田舎育ちの俺は、都会に出たくて、一人で東京に越してきた。両親はそんな俺を田舎から応援してくれている。


だから……。




___違う。



俺は母さんからも父さんからも嫌われていた。


昔から変なものが見えていたからだ。


田舎から応援?


そんなこと、された覚えはない。


そもそも東京で一人暮らしを始めたことさえ伝えてない。

それどころか長い間、二人のことを忘れていた。


じゃあ、母さんと父さんは何処にいるんだ…?


「母さん…父さん…。」


そう呟いて、俺は力なくその場にしゃがみ込んだ。


俺の異変に気づいたのか、バイパーはわずかにこちらに顔を向け、しゃがみ込んだ俺を視界の端で捉える。


「大丈夫?答えられないなら次いくけど。」


その言葉だけを聞けば、俺を心配しているように思えた。


けれど声のトーンは淡々としていて、身振りからも心配している様子は微塵もない。

バイパーは俺を一瞥しただけで、何事も無かったかのように前を向き、話を続けた。


「幼少期、お前を虐めてたってやつの『名前』覚えてる?」


「名前……。」


父さんの仕事の都合で、俺は小学五年生の頃、ある田舎の小学校に転校した。

何度も転校を繰り返したせいで、俺はいつしか友達を作ることが苦手になり、一人でいることが多かった。


でも、あいつだけは俺に話しかけてくれた。


一人でいる俺に声をかけ、仲間に入れてくれた。

あいつはうるさくてあの頃もクラスのムードメーカー的な存在だった。


そんなあいつと仲良くなれたことが、俺はすごく嬉しかった。毎日が楽しかった。


でも、それだけじゃなかった。


あいつは、あの町で一番の乱暴者だった。


俺は仲間に入れてもらったわけじゃない。

ただ、あいつの鬱憤をぶつける相手になっただけだった。


毎日が息苦しくて、誰にも助けを求められず、どうすればいいのか分からなかった。


でも、中学に上がれば全てが変わると信じていた。

案の定、父さんはまた転勤することになり、俺も別の学校に行くことになった。


やっとここから解放される。そう思ったんだ。


でも違った。


教室に入ると見知った顔が中央にいた。


クラスを盛り上げることが上手で、成績もそれほど悪くないムードメーカー。


『お前さ、いつも誰と喋ってんだよ!』


ドゴッ!


『だから気持ちわりいって言われんだよ。お前、自覚ねえのか?』


どうして忘れていたんだろう。


あの時、俺をゴミでも見るような目で見下ろしていたのは、あいつ___『哲史』だったことを。


突然、頭に激しい頭痛が襲いかかった。


まるで思い出してはならない記憶を無理やり引き出した反動のように。


息が上手く整わず、荒い呼吸を繰り返しながら、俺は声を絞り出す。


「どうして……っ、……そんなことを、俺に……質問するんだ!?」


ズキン、ズキンと頭の奥が激しく痛む。


「そりゃーもちろん、思い出して欲しかったからだよ。邪力で記憶を消されていてもあれぐらいの力なら、少しの質問であっという間に思い出すことができる。まあ、強引なやり方だから痛みを伴うけどね。」


「消された記憶?痛みを伴う?そんなことと哲史を消した犯人になんの関係があるっていんだよ!さっさと教えろよ…!」


「そんなに興奮すんなって。もう答えは出てるはずだけどなぁー。」


バイパーはそう言うと振り返り、しゃがみ込んだ俺と目線を合わせた。


その透き通った瞳には、満天の星空が映り込んでいる。


「悠真。お前、哲史とどうやって和解してこの学校に来たんだ?両親との関係はどうやって元に戻したんだ?」


「哲史と和解…?母さんと父さんは…。」


頭の奥がものすごく痛む。


霞んだ記憶の向こうに何かが見えかけていた。


──────。



「母さんも父さんも大っ嫌いだ!」


幼い頃の泣き叫ぶ、自分の声が聞こえた。


「学校に居場所はないし!家に帰れば蔑んだ目で僕を見てくる!どこへ行っても僕の話を聞いてくれる人なんていない!どうせ…どうせ、帰る場所がないなら____。」



『何もかも…消えて無くなればいいのに……!』



「イーッ!」



──────。



___まさか。


まさか、俺があの時…あんなことを言ってしまったから?


「そんな…そんなはずない!だって…あれは、ほんとに消したかった訳じゃないんだ!俺は、僕は…ただ、誰かに見て欲しかった…。僕の見える景色を、見えてることを、話をっ、聞いて欲しかったんだ!!」


「ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!!!!」


ブチッ、ブチブチッ!


自分を否定するように、俺は何度も頭を掻きむしった。その度に、何本もの髪が足元へと落ちていく。


「はあ、はあ、はあ…。」


「悠真。お前はこの学校に入学した時、哲史と再会したはずだ。その哲史は、お前のことを見て何を思った?」


「哲史は悠真のことを、忘れていたように見えなかったか?」


「哲史……?」


そうだ。


俺は、この学校に入学してからずっと違和感を覚えていた。

初めて会うはずなのに、なぜか懐かしさを感じるあいつ____哲史と話すと、どこか胸糞悪い気分になることが多かった。だけど、誰とでも仲良くなる哲史と話すこと自体は嫌ではなくて、俺たちは何度も会話を交わした。


友達だったんだ。


だけど、ある日突然、あいつは急変した。


何かを思い出したかのように、あいつが俺を見る目は友達に向けるものではなくなった。

まるで、地面に落ちた虫の死骸でも見るかのような、蔑んだ目だった。

対応も他のやつらとは打って変わり、無理難題を押し付けられる日々が続いた。


あいつは何一つ変わっていなかったんだ。


ただ、元のあいつになっただけだった。


(全部忘れていたはずなのに……どうして、あいつはまた同じことをしたんだ……?)


「そろそろ分かってきたんじゃないかな。」


バイパーの声が、深く考え込んでいた俺を現実へと引き戻した。


「じゃあ、最後に一つだけ聞く。」


バイパーの鋭い瞳が真っ直ぐ、俺を捉えている。


「哲史がお前を傷つけるたび、お前は何を思っていた?」


「俺は…。」


今まで胸の奥に押し込めていたものが、一気に込み上げてくる。


「俺は…僕はっ!嫌だったんだ、怖かったんだ!もう二度と…あんな目に会いたくなかった。やっと、俺の話を聞いてくれる親友に出会えて、やっと幸せを手に入れたんだ。だから、だから俺は!俺の目の前からいなくなって欲しい、消えて欲しいって思ったんだ!」


「それで、哲史はどうして居なくなった?」


「哲史は、バイパーが倉庫で召喚した、邪神のせいで…」


「違う。」




「お前が『願った』だろ?」




バイパーの言葉に、俺は返す言葉を失った。


俺の願いが現実に影響したって言うのか…?


両親がいなくなって欲しいと願ったのも、哲史が目の前から消えて欲しいと願ったのも事実だ。だけど、そんな非現実的なことが、本当に起こっていいのか?もしそれが現実で起こったことなら俺一人の力でどうにかできるようなことじゃない。


俺は、そんなことをするつもりなんて、これっぽっちもなかったんだ。


「そんな魔法みたいなこと、俺が出来るわけないじゃないか!」


「じゃあ、これを見ても?」


バイパーが呆れたようにそう言うと、俺の前に立ち、右手をゆっくりと掲げた。


すると、人差し指と親指を擦り付ける。


パチンッ


乾いた音が外に響き渡る。


その瞬間、何も持っていなかったはずのバイパーの右手に、黒い何かが握られていた。


おもちゃの銃?


バイパーは銃口を俺に向ける。


「え…何すんだよ…。」


「まあまあ。言わなくても分かるだろ?」


ニヤついた顔でそう言うと、引き金に指を掛ける。


「は!?おい!待っ___ 」


バンッ!


鼓動が跳ね上がるような鋭い銃声が響いた。


(俺は、バイパーに撃たれたのか…?)


だが、体からは全く痛みを感じない。


ただ、激しく脈打つ心臓の音だけが聞こえていた。


「いき、てる?」


俺は反射的に瞑った瞼をゆっくりと開ける。


そこには信じられない光景が視界に広がっていた。


放たれたはずの銃弾が、俺の目の前、わずか数センチのところで静止していたのだ。

まるで、透明な強化ガラスに弾丸が弾き返されたかのように。


「え……?」


呆然としながら、俺はゆっくりと瞬きを繰り返す。


すると、先程まで見えなかった「それ」が、じわじわと輪郭を持って空気中に浮かび上がってきた。


「それ」は、幾度にも重なったおぞましい触手だった。


しかし、俺には見覚えがあった。


かつて、幼少期に出会った触手。


「もしかして……いーちゃん…?」


俺は思わず名前を呼んだ。


すると、目の前の触手たちが一斉に身震いし、それと同時に触手から大量の霧が放出される。気が付けば辺り一面は霧で満たされていて、俺の目の前には大きな球体が浮かんでいた。


にち…にち…


粘ついた音を響かせながら、球体の中心が左右にゆっくりと裂けていく。その奥から、何層にも重なった鋭い歯が見えた。


「イーッ……!」


その声は、かつて俺が知っていた高く可愛らしい声では断じてなかった。地底の底から響き渡るような、地鳴りに似た低く恐ろしい、怪物の咆哮。


ピチャ。ピチャ。


いーちゃんの口元からは、粘着いた唾液が糸を引くように垂れ落ちる。それが地面に落ちる度に嫌な音がした。

さらに、口元から漏れ出た生暖かい息が、俺の髪を何度も揺らし、目元へ直接吹きかかる。

乾いた目が一瞬で潤み、反射的に瞼を閉じたくなる。


それでも目の前のそいつから視線を逸らすことが、できなかった。


「やっと姿を現したか。」


バイパーは落ち着いた声色で言った。


「いなくなっていたと思っていた邪神は、ずっとお前の傍にいたんだよ、悠真。」


震える唇を噛み締め、俺は何とか声を絞り出した。


「じゃあ、俺の願いを叶えたのも…。」


「そう。全部、お前の言う『いーちゃん』が良かれと思って叶えていたんだ。」


「なんで、そんなことを…。」


「そんなの____ 」


バイパーはニヤリと笑い、俺に言葉を投げかける。だが、俺はその言葉を遮るように、自分の言葉を重ねた。


「まさか、あの時の恩返しだって言うのか…!ただ、拾っただけで、人が本気で叶えて欲しいことは叶えず、取り返しのつかない事ばかり叶えて、これのどこが恩返しって言うんだよ!」


「あのさー、誰がそんなこと言ったんだよ。」


バイパーは呆れたように頭を掻き、言葉を続ける。


「邪神が恩返し?そんな馬鹿げたことするわけないだろ。あいつらはそんな生易しい奴じゃない。簡単な話、お前を食らうためだ。」


「……え。」


「邪神は卑劣で嘘つきだ。お前は幼少期にいーちゃんという名の邪神とある約束をしたんじゃないのか?」


約束。


そういえば過去に、自分の孤独を埋めるため、いーちゃんに向かって一緒にいて欲しいと言ったことがあったかもしれない。


「邪神は人間側から課された約束を破ることができない。だが、約束を守る代わりに、好き勝手に魂を食らうことはできる。だから、普通のやつは邪神と約束なんてしない。したとしても、互いに何かを得る代わり、何かを差し出すような契約しかしないだろう。まあ、これもなかなかの代償が着いてるけどな。」


「じゃ…じゃあ、約束をした俺は今どうなってるんだよ。」


「どうも何も、お前は今、邪神に魂を握られてる状態だ。いつ死んだっておかしくない。だけど、お前の約束が功を奏したな。」


そうか。


俺は、いーちゃんと『ずっと一緒にいて欲しい』という約束をしたんだ。だから、いーちゃんはその約束を守るため俺を殺すことができない。


「そして、お前と約束した邪神の能力は俺の見た限り、主の思いをそのまま現実にするっぽいな。だから、お前が思ったことが全て現実で起こったんだ。」


俺が両親を消えて欲しいと願った時、記憶ごと存在が消えた。

哲史の時も同じ現象が起こった。

ノートンが女子生徒を操り人形のようにしていたっていうのも俺の思い込みが現実に現れていたのか。


「なら、どうすればこの約束を終えられるんだよ!」


「お前が約束を切ればいい。もう満足したとか、とりあえず終える言葉をその邪神に言えばいいんだ。だけど、もう遅いだろうな。」


「遅い?」


「この邪神がお前の傍にいた理由は約束を果たすためだけじゃない。お前を見つけたその時からずっと、今か今かと待ちわびていたんだよ。悠真、お前という極上の餌が美味しく、大きく肥え太るその瞬間をな。」


その瞬間、バイパーの言葉の「意味」が伝わったのか、俺の目の前にじっと佇んでいた、いーちゃんの体が突如として尋常じゃないほど膨れ上がり始めた。


溶け崩れたような触手が、ゆらゆらと表面を揺らしながら力強くうねり、地面をバシン、バシン、と叩く。

触手の湿った音が響き、その衝撃で地面に亀裂が走る。


何本もの触手が地面を這い回り、互いに絡みつきながら不規則に蠢いていた。


周りを見渡せば目が眩むほどの霧が立ち込み、そこから数人の人影が姿を現す。


かつてこの世界から存在が消えたはずの人間たちだった。


「母さん…父さん…哲史…?」


けれど、それだけじゃない。


霧の向こうから次々と人が現れ、その数はみるみるうちに増えていった。


だが、姿を現した彼らは、俺の知っている人間とはかけ離れていた。


身体を不自然に揺らしながら、虚ろな目で前を見つめている。生きた人間ではなく、意思を失った何かのように立っているその姿は、まるで、誰かに操られているかのようだった。


そして、目の前にいるいーちゃんはさらに身体を膨張させ、校舎の壁や地面を触手で次々と削り取っていく。

その度に、耳をつんざくような破壊音が辺り一帯に響き渡った。


「イィィィィィィッッッ!!!!」


頭が痛くなるほどの低い咆哮で体全体が揺れる。


ふと見ると、禍々しい人間たちと邪神の敵意の矛先は全て、バイパーに向けられていた。


「へー、そこまでするか。」


「バイパー!!」


俺は叫んだ。


その瞬間、人間たちは全速力で走り出す。

それに合わせるように、いーちゃん が触手を頭上から勢いよく振り下ろした。


「────もう、その邪神不要(いらない)よな。」


視界が霧に包まれ何も見えない中、再び乾いた音が響いた。


パチンッ

最後まで読んでいただきありがとうございます!

投稿頻度は遅めですが気長に待っていただけると助かります。


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