第66話 ―― 水路の心臓と、流れ出す城下の水
地下通路の分岐点。
フェリたちは再びその場所に立っていた。
三つの道のうち、すでに二つは確認している。
炉心区画。
そして兵器庫。
残るのは――
「水路制御」
フェリが刻印を見ながら言った。
ルナが頷く。
「うん」
「水の設備」
トーマが腕を組む。
「城に水路なんてあったんですね」
ミリアスが静かに説明する。
「古い城では珍しくありません」
「井戸や貯水池、排水などを一括で管理する施設です」
レオンが通路を見た。
「行くか」
フェリも頷く。
「うん」
左の通路へ進む。
この通路は他より少し湿っていた。
石壁には水の染みがあり、床もわずかに冷たい。
トーマが言う。
「確かに水っぽいですね」
ルナが壁の管を見上げる。
「配管!」
「いっぱいある!」
細い金属管が天井を走っていた。
城の各所へ繋がっているのだろう。
しばらく進むと、また大きな扉が現れた。
だが兵器庫とは違う。
扉の中央には、円形の水晶装置が埋め込まれていた。
中には水のような液体がゆっくり揺れている。
フェリが首を傾げる。
「これは?」
ルナが覗き込む。
「水圧認証」
フェリが笑う。
「そんなのあるんだ」
ルナは真面目に言う。
「古代設備すごい」
フェリは扉に手を触れた。
すると水晶の中の液体が光る。
――主の認証確認。
扉が静かに開いた。
その先に広がっていたのは――
巨大な地下空間だった。
中央には、大きな円形の装置。
その周囲にいくつもの水路が走っている。
水はほとんど流れていない。
だが、わずかに残った水がゆっくり動いていた。
トーマが目を丸くする。
「でかい……」
ルナは完全に目を輝かせていた。
「制御装置!」
「城の水全部ここ!」
ミリアスが周囲を見渡す。
「城だけではありませんね」
フェリが聞く。
「どういうこと?」
ミリアスは水路の先を指した。
「外へ繋がっています」
「おそらく城下の水路も管理していたのでしょう」
フェリが驚く。
「町の水?」
ルナが頷く。
「うん」
「昔の城、町セット」
レオンが装置に近づく。
「動かせるのか」
ルナが中央装置を調べた。
魔導回路を指でなぞる。
「仮想核つながってる」
「起動できる」
フェリが聞く。
「やってみる?」
ルナが振り向く。
「フェリちゃん必要」
フェリは苦笑する。
「また?」
「主だから」
フェリは装置の中央に手を置いた。
その瞬間。
魔導陣が広がる。
装置がゆっくり光り始めた。
――水路管理装置 起動。
低い振動が地下に響く。
ごごご……
止まっていた水が動き出した。
細い水路に水が流れ始める。
トーマが驚く。
「動いた!」
ルナが跳ねる。
「成功!」
水は次々と流れ、管へ入り、城の奥へ運ばれていく。
やがて――
壁に文字が浮かび上がった。
――第二鍵 確認。
フェリが言う。
「やっぱり」
装置の中央に青い結晶が現れる。
ルナが指差す。
「鍵!」
フェリはそれを手に取った。
冷たい結晶。
すると水路の流れがさらに強くなった。
遠くで水の音が響く。
ミリアスが微笑む。
「これで城の水設備は完全に復活ですね」
レオンが言う。
「城下にも影響が出るか」
その頃――
城の外。
建設中の城下では、職人たちが昼の作業をしていた。
石工たちが井戸の横で話している。
「この井戸、水少ないな」
「地下水がまだ安定してないんだろ」
そのときだった。
ごぼっ。
井戸の中で音がした。
職人の一人が覗き込む。
「……ん?」
次の瞬間。
ざばっ!
井戸の水位が一気に上がった。
「うわ!?」
周囲の職人たちが飛び退く。
さらに近くの水路でも――
カラカラだった溝に、水が流れ始めた。
さらさらと音を立てて。
大工が目を丸くする。
「おい!」
「水来たぞ!」
荷運びの男が驚く。
「急にか!?」
少し離れた場所。
ミレナ・ヴァレストは建設中の宿の前でその様子を見ていた。
水が流れる溝。
騒ぎ出す職人たち。
ミレナは静かに城を見上げる。
そして小さく笑った。
「……やはり」
「ただの城ではありませんね」
城の地下。
フェリは水路の流れを見ていた。
「これで」
「町も少し住みやすくなるかな」
ミリアスが頷く。
「ええ」
「確実に人は増えるでしょう」
城は静かに目覚めていく。
灯り。
守り。
そして水。
その変化は――
すでに城の外へ広がり始めていた。
こうして魔王城の第二の鍵が、手に入った。




