第67話 ―― 突然の水と、騒ぎ出す城下
城下の仮設通り。
昼前の時間、職人たちはそれぞれの持ち場で作業をしていた。
石工は石を削り、
大工は梁を組み、
荷馬車は資材を運んでいる。
まだ町とは呼べない。
だが確実に――人は増えていた。
「この辺りに井戸作る予定なんだろ?」
石工の一人が地面を叩きながら言った。
隣の男が頷く。
「そうらしいな」
「水脈は近いって話だが」
そのときだった。
ごぼっ。
井戸の穴の中から音がした。
石工が首をかしげる。
「……ん?」
次の瞬間。
ざばっ!
水が一気に湧き上がった。
「うおっ!?」
男たちが慌てて飛び退く。
「なんだこれ!」
「急に水出たぞ!」
さらに少し離れた場所。
工事途中の水路でも異変が起きていた。
昨日まで乾いていた溝に、水が流れ始めたのだ。
さらさら、と。
最初は小さな流れだった。
だがそれは、みるみるうちに勢いを増していく。
大工が声を上げる。
「おい見ろ!」
「水路に水来てる!」
荷運びの男が驚く。
「誰か流したのか!?」
「いや、上流まだ工事中だぞ!」
職人たちがざわつく。
城下のあちこちで同じことが起きていた。
井戸の水位が上がる。
水路に水が流れる。
乾いていた溝が満たされていく。
その騒ぎの中。
一人だけ、落ち着いた様子でそれを見ている人物がいた。
ミレナ・ヴァレスト。
建設中の宿の前に立ち、城下の様子を眺めている。
隣の従業員が慌てて言った。
「ミレナ様!」
「水が突然――」
ミレナは城を見上げた。
遠くに見える石の城。
静かにそびえている。
そして彼女は、ふっと笑った。
「城ですね」
従業員が首を傾げる。
「え?」
ミレナは言った。
「地下設備が動き始めたのでしょう」
「水路の本流が復活したのだと思います」
従業員が驚く。
「そんなことが……」
ミレナは静かに言う。
「古い城は町と一体で作られることが多いのです」
「水、排水、防衛」
「全部まとめて管理していたのでしょう」
そのとき。
近くで大工たちが盛り上がり始めた。
「これなら風呂作れるぞ!」
「おお、確かに!」
「宿に大浴場あってもいいな!」
「水車も回せるんじゃねえか?」
その言葉に、ミレナの目が少し光る。
「……水車」
彼女はゆっくり城下を見渡した。
水が流れる溝。
増え始めた人。
広い土地。
頭の中で、町の未来図が組み上がっていく。
「商業区画」
「宿泊区画」
「職人区画」
小さく呟く。
そして静かに笑った。
「これは――」
「思っていたより早く町になりますね」
その頃。
城の地下。
フェリたちは水路制御室から戻る途中だった。
トーマが言う。
「外、今頃びっくりしてますよ」
フェリが苦笑する。
「急に水出るもんね」
ルナが得意そうに言う。
「城すごい」
レオンが腕を組む。
「残る鍵は一つか」
ミリアスが頷く。
「ええ」
「三つの鍵が揃えば」
「おそらく城の中枢へ進めるはずです」
フェリはポケットの中の結晶を触った。
赤い鍵。
そして青い鍵。
残るは――あと一つ。
「じゃあ」
フェリが言う。
「最後の場所、探さないとね」
そのときだった。
ルナが急に立ち止まった。
「……あ」
フェリが振り向く。
「どうしたの?」
ルナは地下通路の奥を見ていた。
普段は暗い石壁。
だが今――
うっすらと光る紋様が浮かび上がっている。
ルナが指をさす。
「出た」
「第三の道」
そこには確かに、新しい扉の形が浮かび上がっていた。
まるで城が――
次の場所を教えるかのように。




