第60話 ―― 開いた扉と、城に応える炉
地下通路の奥。
巨大な石の扉の前に、フェリたちは立っていた。
床には、ルナが直した魔導回路が淡く光っている。
いくつもの小さな魔石が、仮設の魔力源としてはめ込まれていた。
ルナが帽子を押さえながら言う。
「準備できた」
フェリが聞く。
「今度こそ開く?」
ルナは少しだけ考えてから頷いた。
「さっきより魔力ある」
レオンが腕を組む。
「なら試すしかないな」
ミリアスが静かに言った。
「皆、扉から少し離れてください」
フェリたちは一歩下がる。
ルナが回路の中央にしゃがみ込み、最後の魔石を押し込んだ。
「いくよ」
次の瞬間。
魔導回路に光が走った。
床の溝を光が流れ、壁の紋様へと広がる。
そして――
巨大な石の扉の紋章へと集まった。
ゴォォォォ……。
低い振動が地下通路を揺らす。
「来た!」
ルナが声を上げる。
扉の中央の紋様が、ゆっくりと輝き始めた。
石が軋む音。
重い扉が、少しずつ動き出す。
ギギギ……。
長い年月、閉ざされていた扉がゆっくり開いていく。
やがて、人が通れるほどの隙間ができた。
ゴン、と重い音を立てて止まる。
静寂。
レオンが先に扉の中を覗き込んだ。
「罠はなさそうだ」
フェリたちは慎重に中へ入る。
その部屋は、想像よりも広かった。
円形の大広間。
中央には巨大な装置が立っている。
石と古代金属が組み合わさった、塔のような機構。
複雑な魔導回路が柱となり、天井へと伸びていた。
「……すご」
フェリが思わず呟く。
ルナはゆっくり近づいた。
「これ」
「魔力炉」
ミリアスが周囲を見回す。
「城の中枢装置ですね」
レオンが装置を見上げる。
「だが……動いてないな」
ルナが中央を見て首を傾げた。
「……あれ?」
フェリが聞く。
「どうしたの?」
ルナは装置の中心を指差した。
そこには丸い台座があった。
だが。
「核ない」
フェリが首を傾げる。
「核?」
ルナは説明する。
「魔力炉の心臓」
「魔力集めて城に流す」
ミリアスが理解する。
「つまり、魔力源ですね」
ルナは頷いた。
「うん」
そして、はっきり言う。
「これないと」
少し間を置く。
「城、動かない」
沈黙。
フェリは魔力炉の中央を見る。
ぽっかりと空いた台座。
まるで何かを取り外したかのようだった。
レオンが低く言う。
「城が捨てられた時に持ち出されたか」
ミリアスも頷く。
「その可能性が高いですね」
ルナが言う。
「核ないと」
「完全には動かない」
フェリは少し考えた。
それから言う。
「ちょっと近くで見ていい?」
そう言って中央へ歩く。
「フェリちゃん?」
ルナが呼ぶが、フェリは台座の前まで来た。
古い石の輪。
古代文字の刻まれた台座。
フェリはしゃがみ込み、そっと手を置いた。
その瞬間。
ゴォォォォ……。
低い音が部屋の奥から響いた。
「え?」
フェリが顔を上げる。
魔導回路が、ゆっくりと光り始めていた。
一本。
また一本。
回路の線が順番に輝く。
ルナが目を見開いた。
「なんで!?」
光は装置全体へ広がる。
ミリアスが驚いた声を出す。
「魔力炉が……反応しています」
レオンがフェリを見る。
「フェリ、離れろ」
「いや、でも……」
フェリが台座に手を置いたまま言う。
空だったはずの台座。
そこに、光が集まり始めていた。
やがて。
小さな光の球が、ゆっくり浮かび上がる。
「仮想核……?」
ルナが呟いた。
そのとき。
カコン。
装置の横で、古い箱が開いた。
中から、ひとつの書物が落ちる。
ミリアスが拾い上げた。
「記録書のようです」
ページをめくる。
古い文字が並んでいた。
ルナが横から覗く。
「読める?」
ミリアスは静かに読み上げる。
「――この魔力炉は、我が手で停止させた」
フェリたちが顔を上げる。
「魔力核は城の外へ封印する」
ページをめくる。
「もしこの城が再び主を得たならば」
ミリアスは続けた。
「最低限の機能のみ、仮想炉によって再起動される」
ルナがフェリを見る。
「フェリちゃん」
ミリアスが最後の行を読む。
「この炉は城の主を識別する」
「力ある者ではなく」
「この城を守る者にのみ応える」
沈黙。
ルナがぽつりと言った。
「つまり」
「フェリちゃんが触ったから」
魔力炉の中央で、光の核がゆっくり回転している。
完全ではない。
だが、確かに動いている。
レオンが小さく笑った。
「城に認められたか」
ミリアスが頷く。
「そのようですね」
ルナは興奮していた。
「これすごいよ!」
「完全じゃないけど」
「城の設備、少し動く!」
フェリが聞く。
「どれくらい?」
ルナは指を折る。
「照明」
「水」
「結界ちょっと」
そして笑う。
「城、起き始めてる」
フェリは光る魔力炉を見上げた。
小さな灯り。
けれど確かに、動いている。
フェリは肩をすくめた。
「じゃあさ」
ルナを見る。
「この城、まだまだ使えるんじゃない?」
ルナは元気よく頷いた。
「うん!」
眠っていた魔王城は――
ゆっくりと、目を覚まし始めていた。




