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目覚めたら、魔王に転職!? ~底辺スタートから世界統一はじめました~  作者: ふじなみ


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第53話 ―― 集まる人々と、眠る魔導回路


魔王城の周辺は、

ここ数日で目に見えて賑わい始めていた。

城の中ではない。


まだそこまで整ってはいないからだ。

代わりに、城から少し離れた平地に、

仮設の建物や作業小屋が増えていた。


石を削る音。

木材を運ぶ声。

若い職人たちの笑い声。


「この辺、意外と水場いいな」

「運ぶ距離もそんな遠くないしな」

「城の修復仕事でこの賃金なら、文句ないだろ」


城の修復。

それが、彼らが聞かされている仕事だった。


もっとも――

その城が「魔王城」だと知っている者は、ほとんどいない。

立地から察している年配の職人は近づこうとしないが、若い石工や大工たちは違った。

危険よりも、仕事を優先する。

それだけの話だった。


王の間の窓から、その様子を見ながらフェリが小さく息を吐く。

「……人、増えてきたね」


隣に立つリリが微笑む。

「はい。セレナさんの手配、さすがです」


少し離れた場所で、ミリアスが書類を確認していた。

「資材の搬入も順調です。問題はむしろ――」


ちらりと外を見る。

「人が増えすぎた場合の宿泊施設ですね」

「そこなんだよね」


フェリが頬をかく。

今は近くの古い宿を改修して使っているが、人数が増えれば限界が来る。

そのときだった。

廊下の奥から声がする。


「失礼いたします」

現れたのは、セレナだった。


その後ろに、見慣れない女性が立っている。

すらりとした体格に、落ち着いた商人服。

黒髪を後ろでまとめ、冷静そうな目をしていた。


セレナが紹介する。

「フェリ。この人が話していた商人よ」


女性が一歩前に出た。

「初めまして」


軽く頭を下げる。

「ヴァレスト商会の商人、ミレナ・ヴァレストと申します」


フェリが少し目を瞬く。

「ヴァレスト商会?」


「はい。地方都市を中心に、宿や市場の運営を行っております」

ミレナは外を一度見た。


石工たちが資材を運んでいる。

仮設の小屋が並び、荷馬車が行き来している。

「ここは……」


少しだけ微笑む。

「町になる匂いがしましたので」


フェリは苦笑した。

「まだ城の修復で手一杯なんだけどなあ」

「だからこそ、です」


ミレナは即答した。

「人が増えれば、必ず必要になります」


指を折って数える。

「宿」

「食事」

「商店」

「市場」

そして言う。

「それらを、先に整えておく商売です」


ミリアスが腕を組む。

「つまり」

「宿の建設を?」


ミレナは頷いた。

「はい」


そして視線をフェリへ向ける。

「もちろん、領主であるあなたの許可があれば、ですが」


フェリは少しだけ考えた。

横でセレナが肩をすくめる。

「黒薔薇商会の縄張り争いを気にしてるなら、問題ないわ」

「むしろ物流はうち、宿はヴァレスト商会で分けた方が効率いい」


フェリは小さく笑った。

「……商売の話は早いね」


それからミレナを見る。

「宿は、城の近く?」


「いえ」

ミレナは首を振った。

「周辺の平地です」


「城は修復中でしょう」

「作業員が泊まる場所として整えます」


フェリは頷いた。

「なら、いいと思う」


ミレナが少しだけ驚いた顔をする。

「即決ですか」


「うん」

フェリは肩をすくめる。

「どうせ必要になるし」


「あと」

少し笑う。

「町になるなら、賑やかな方がいい」


ミレナはその言葉を聞き、静かに頭を下げた。

「ありがとうございます」


こうして――

魔王城の周辺に、新しい宿の建設が決まった。


その日の午後。

城の奥の廊下で、ルナが床に這いつくばっていた。


「うーん……」

帽子が横にずれている。


横で若い石工の青年が困った顔をしていた。

「魔導士さん、大丈夫ですか?」


「ちょっと待って」

ルナは石の床を指でなぞる。


「ここ……回路ある」

「回路?」


石工が首を傾げる。

ルナは床に刻まれた、かすかな線を指差した。

「古代魔導の回路」

「石に埋まってる」


青年は驚いた。

「そんなの分かるんですか?」


「うん」

ルナはあっさり言う。


「おじいちゃんに教わった」

その言葉に、後ろから声がした。


「ルナ」

フェリたちが廊下に入ってくる。


ルナは振り返り、ぱっと笑った。

「フェリちゃん!」

「これ見て!」


床の線を指差す。

フェリが覗き込む。

「……模様?」


「違うよ」

ルナは真顔になった。

「魔導回路」


レオンが眉を上げる。

「城の設備か」


ルナは頷く。

「うん」

「たぶん」

「こないだとは別の結界系」


ミリアスが興味深そうに見る。

「動くのか?」


ルナは少し困った顔をした。

「それが」


床を軽く叩く。

「魔力流れてない」


フェリが苦笑する。

「だよね」

「魔力炉、空っぽだし」


リリが静かに頷いた。

今の魔王城には、魔力がほとんど残っていない。


だからこそ、彼女も元の姿に戻れない。

ルナはしばらく回路を見ていた。


それから、にやりと笑う。

「でも」

「直せば」


フェリが首を傾げる。

「直す?」


ルナは指で回路をなぞった。

「簡易版なら」

「動くかも」


石工の青年が目を丸くする。

「そんなこと出来るんですか?」


ルナは笑った。

帽子をかぶり直す。

「まかせて」

「古い魔導読むの、得意」


そして言う。

「この城、まだいっぱい動くものあるよ」


フェリは少しだけ驚いた顔をした。

崩れた城。


ただの廃墟だと思っていた場所。

けれど――

どうやら、この城は。

まだ、眠っているだけなのかもしれなかった。



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