第50話 ―― 古い魔導設備と、城を動かす力
1本目~
翌朝の魔王城は、昨日よりもさらに賑やかだった。
石を削る音。木材を運ぶ掛け声。
若い職人たちの笑い声まで混じっている。
「そっち持ち上げるぞー!」
「待て待て、まだ固定してない!」
「石灰こっち足りないぞ!」
王の間の外に立ち、フェリはその光景を見渡した。
崩れかけていた城の廊下には足場が組まれ、
中庭には資材が山のように積まれている。
「……うん」
フェリは小さく頷いた。
「城っぽくなってきた」
隣でリリが柔らかく微笑む。
「はい。昨日よりも、ずっと人の気配があります」
少し離れた場所では、レオンが腕を組み、職人たちの動きを観察していた。
ミリアスは資材の搬入経路を確認している。
そのときだった。
「フェリちゃーん!」
城門の方から聞き慣れた声が響く。
フェリが振り向く。
「あ」
帽子を押さえながら、小走りでこちらへ来る少女。
ルナだった。
その後ろには、屋敷組の数人の姿もある。
フェリは目を丸くした。
「もう来たの?」
ルナは息を整えながら頷く。
「うん! 朝一番で着いた!」
「馬飛ばしてきたの?」
「結構がんばった!」
リリが少しだけ苦笑する。
「無理はしていませんか?」
「平気平気!」
そう言ってルナは、ぐるりと城を見回した。
「……うわぁ」
素直な感想が漏れる。
「思ってたより、ほんとに城だね」
「城だよ」
フェリは肩をすくめた。
「まだボロボロだけど」
ルナはすぐに職人たちの作業を見て、目を輝かせる。
「人めっちゃいるじゃん!」
「若い大工さんがいっぱい来てくれたんだよ」
フェリが言うと、ルナは嬉しそうに頷いた。
「それは良かった!」
そのときだった。
城の奥の方から、ガルドの大きな声が響く。
「おーい! フェリ殿!」
オークの大工頭が、大きく手を振っている。
フェリが近づく。
「どうしたの?」
ガルドは少し困った顔をしていた。
「壁を外したら、妙な部屋が出てきてな」
「妙?」
「来てくれ」
フェリたちは顔を見合わせ、城の奥へ向かった。
案内されたのは、王の間の裏側に続く古い通路だった。
崩れた壁の奥に、石造りの小さな部屋がある。
その中央には――
丸い石台のような装置が据えられていた。
石台には細かい溝が刻まれ、淡い光がゆっくり流れている。
フェリは目を瞬いた。
「……なにこれ」
ミリアスが近づき、装置を観察する。
「魔導設備のようですね」
ルナがすぐ横に来た。
「ちょっと見ていい?」
「危険はなさそうですが、慎重に」
ルナは装置の周りをぐるぐる歩きながら、紋様を指でなぞる。
「……あ」
小さく声を漏らした。
フェリが聞く。
「分かった?」
ルナはゆっくり頷いた。
「これ、多分……魔力炉」
その言葉に、ミリアスがわずかに目を細める。
「魔力炉?」
「うん」
ルナは石台の中央を指差した。
「城全体に魔力を流すための設備だと思う」
フェリは首を傾げた。
「城の……電気みたいな?」
「そんな感じ!」
ルナは嬉しそうに説明する。
「灯りとか、水路とか、魔導設備とか。
そういうのをまとめて動かす装置」
フェリは装置を見上げた。
「そんなのあったんだ、この城」
ミリアスが静かに言う。
「魔王城ですから」
カティアが後ろで小さく息を吐く。
「……なるほど」
紫の瞳が、装置を見つめていた。
「覇王城にも似た設備はあります」
フェリが振り向く。
「ほんと?」
「ええ」
カティアは静かに頷いた。
「ただし、ここまで状態が良いものは珍しい」
ルナが石台の側面を叩く。
「これ、ちゃんと直せば動くと思う」
フェリが驚く。
「ほんとに?」
「多分ね」
ルナは笑った。
「動けば、城かなり便利になるよ」
ミリアスが静かに補足する。
「魔法灯、給水設備、作業用魔導具」
一拍置き、
「修復作業の効率も上がるでしょう」
フェリは石台を見つめた。
崩れた城の奥に残っていた、古い装置。
まだ眠っている力。
フェリは、ぽつりと言った。
「……じゃあさ」
みんながフェリを見る。
フェリは少しだけ笑った。
「この城、ちゃんと動かしてみようか」
ガルドが豪快に笑う。
「いいじゃねぇか!」
ルナも頷いた。
「任せて!」
静かだった魔王城は、少しずつ動き始めている。
そしてその中心で――
古い魔導設備が、ゆっくりと目を覚まそうとしていた。




