第47話 ―― 増え始めた灯りと、不意の来訪
不穏な影…
魔王城の空気は、数日前とは確実に変わっていた。
崩れかけた石壁の前で、若い石工たちが声を掛け合っている。
「こっちの継ぎ目、もう少し削るぞー!」
「了解! 資材回す!」
まだ粗い。
だが――確実に、前へ進んでいる。
フェリは少し離れた位置から、その様子を眺めていた。
「……うん。前より、ちゃんと“城”っぽくなってきたね」
隣でリリが、やわらかく微笑む。
「みんな、とても良い動きです。フェリちゃん」
その呼び方に、フェリは少しだけ肩の力を抜いた。
レオンは腕を組んだまま、低く呟く。
「だが、人手はまだ足りないな」
「うん……そこなんだよね」
フェリは素直に頷いた。
王の間と寝室の修復は進んでいる。
だが――城全体から見れば、まだほんの一部に過ぎない。
ミリアスが静かに口を開く。
「現状の人数では、外郭修復まで含めると半年単位になります」
「……長いね」
フェリはぽつりと漏らした。
だが焦りは表に出さない。
そのときだった。
少し離れた回廊側から、足音が近づいてくる。
振り向くと、セレナの配下の伝令役が、やや早足で頭を下げた。
「フェリ様。来客です」
空気が、わずかに締まる。
レオンの視線が細まった。
「……誰だ」
伝令は一拍置いてから答えた。
「ヴェルディア方面を名乗る一行です」
その言葉に、フェリの赤い瞳が――ほんのわずかだけ細くなる。
リリの指先が、静かに止まった。
ミリアスの眼鏡がきらりと光る。
伝令は続けた。
「先方は、“正式な使者ではない”と前置きしたうえで――」
一呼吸。
「それでも、ルシフェリア様に直接お目通りを願いたい、と」
その場の空気が、目に見えない形で張り詰めた。
レオンが低く言う。
「……妙だな」
セレナの声が、少しだけ冷える。
「ええ。普通の外交じゃないわね」
フェリは数秒だけ黙り込んだ。
そして――
小さく、息を吐く。
「……通して」
全員の視線が、静かにフェリへ集まる。
フェリは、いつもの少し軽い調子で続けた。
「せっかく来てくれたんだもん。話くらいは聞こうよ」
その声音は柔らかい。
だが――
赤い瞳の奥だけが、ほんの少しだけ鋭く光っていた。
魔王城の門の外。
黒い外套を纏った一団が、静かに到着を待っている。
その先頭に立つ女は、城壁を見上げて小さく呟いた。
「……なるほど。ここまで立て直しているのね」
口元に、わずかな笑み。
「覇王様が気にされるわけだわ」
だが次の瞬間、その瞳の温度がわずかに下がる。
「――もっとも」
小さく、静かに。
「このまま“調和”に傾かれては、困る者もいるのだけれど」
魔王城へ向かう視線は、どこまでも冷静だった。
――静かな外交が、動き始める。




