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目覚めたら、魔王に転職!? ~底辺スタートから世界統一はじめました~  作者: ふじなみ


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第40話 ―― 嵐の余波と、帰還の決意

本日ラスト!


霧の残滓が、ゆっくりと街道から消えていく。

張り詰めていた空気は、確かに一段だけ緩んでいた。

だが――完全に終わったわけではない。


フェリは小さく息を吐き、握り込んでいた指先の力を抜いた。

「……引いて、くれた」


レオンが剣を下ろしながら、低く応じる。

「一時的に、だ。あの男の目は死んでいなかった」


短い言葉に、フェリは内心で小さく頷く。

……うん。あれは、絶対にまた来る目だった。


リリが周囲を見回し、ほっとしたように肩の力を抜く。

「でも、とりあえず今は助かった……よね?」


「現状は、な」

レオンの声は相変わらず硬い。


空気が完全に緩みきらないまま――

遠くから、新たな馬蹄の音が響いてきた。


フェリの肩がわずかに強張る。

(……さすがに、二連戦は遠慮したいんだけど)


レオンの目が細まった。

「……来たか」


やがて街道の向こうに見えた紋章に、フェリは小さく息を吐く。

「――やれやれ。これはまた派手にやったな」


軽い調子の声と共に馬から降り立った男が、周囲を見回して苦笑する。

エルドリックだった。


彼は地面に残る戦闘の痕跡を一通り眺め、それからフェリたちへ視線を向ける。

「帝国特務隊に銀狼騎士団長……か。

 お前たち、思った以上に大物に目を付けられてるな」


軽口の形は取っているが――

その目の奥を、フェリは静かに観察していた。

(笑ってる、けど……全部は信用できないタイプ)


ほんの一瞬だけ、フェリの赤い瞳がわずかに細まる。

気配は、すぐに消した。


「……援軍、ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げる。


「間に合ったとは言い難いがな」

エルドリックは肩をすくめ、それから声の調子をわずかに落とした。


「で?」

短い一言。


だが、踏み込みの深さは十分だった。

「一難は去った。――だが」


視線が、ゆっくりとフェリたちをなぞる。

値踏みするように。あるいは――何かを測るように。


「帝国に目を付けられた連中が、この国境付近に居座るのも困る。

 ……今後、どうするつもりだ?」


フェリは一瞬だけ目を伏せ、思考をまとめる。

――迷いは、もうない。

顔を上げた。


「……ここには、長くいません」

エルドリックの眉が、わずかに動く。


フェリは続けた。

「みんなを連れて、私の故郷に戻ります」

魔王城、という単語は口にしない。


だがその瞬間――

ほんの刹那だけ、場の空気がひやりと軋んだ。


レオンの視線がわずかにフェリへ向く。

リリも、小さく瞬きをした。

フェリ自身は、気づいていない。


エルドリックだけが、ほんのわずかに目を細めた。

「……なるほどな」

短く息を吐く。


「ここで第二ラウンドを始める気はない、か」

「はい」

迷いなく頷く。


数秒の沈黙。

エルドリックは顎に手を当て、少しだけ考え込んだ。


その表情は、相変わらず読めない。

「ギルドとしては、火種が国境に居座るのは歓迎できない。

 だが――」


わずかに口元が緩む。

「今回、帝国の精鋭を退かせたのも事実だ。

 貸し借りで言えば……まあ、今回は貸しにしておこう」


完全な味方ではない。

だが、明確な敵でもない。

(……やっぱり、この人、油断できない)


フェリは内心でそっと気を引き締めた。


「移動するなら早めに動け。

 帝国の連中、あれで終わるとは思うなよ」


「……はい」

短く、しかしはっきりと頷く。


胸の奥で、静かに決意が固まっていく。

(帰ろう)

(みんなで、私たちの拠点に)


その言葉を、フェリは胸の奥でだけ呟いた。



――その頃、国境から数里離れた丘陵地で、

 銀の重装を軋ませながらガルヴァンは馬上にいた。


「追撃命令は?」と副官が問う。


ガルヴァンはしばし黙り、やがて静かに首を振った。

「今回は見送る」


副官がわずかに息を呑む。

「よろしいのですか」


「ああ。ここで再突入すれば、ルミナス国が正式に抗議してくる。

 今はその時期ではない」

冷静な判断。


だが灰色の瞳の奥の光は、まったく消えていなかった。

ガルヴァンは遠く、フェリたちが去った方角を見やる。

「……収穫はあった」


低い声に、確かな確信が混じる。

「“剣の亡霊”レオンは、完全にあちら側についた」


副官が静かに頷く。

さらにガルヴァンは目を細めた。

「あの赤い目の少女も……ただの商人にしては出来すぎている」


風が丘を吹き抜ける。

ガルヴァンは、静かに告げた。

「本隊には再調査への移行を進言する」


一拍。

「――あれは、いずれ戦場の中心に立つ」

帝国は、まだ引いていない。


――そしてその予感は

 フェリたちの知らないところで、すでに動き始めていた。


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