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ジェラピケのママ  作者: ぽんこつ


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つまるところ

今日もスピーカーからはTM NETWORKが流れている。

「CAROL (CAROL'S THEME I)」

暖房を買ったお陰で。

コートはお役ごめんよ。

でもね。

二台つけたら暑いのよ。

南国。

電気代ばかにならないでしょ。

色んな思惑があって、電気代下がらないかさ。

だから、一台だけつけてる。

それでも、あたしはホワイトTシャツに。

くすみピンクのショートパンツよ。

ヘアスタイルは。

メタリックシルバーのショートボブ。

夏仕様よ。


そんなアンバランスな、店にやって来た女。

かれこれずっと質問ぜめ。

どんな質問をされたかなんて覚えてないけど。

女のジャックは6杯目。

瞼が下がってきてるわよ。

「あんたさ、そろそろ帰ったら」

「あ、人を子供みたいに言う。モラハラだぞ、それに酔ってないから」

「それ、酔っぱらいが言うセリフよ」

女はニヤリと笑って。

首をかしげて。

髪をかきあげた。

何あの無駄な動作。

「ママ、それ酔っぱらいに言うセリフ。私じゃないよ」

女は、あたしを指差して。

くるくる回している。

「あら、あたしが酔ったかしら」

おでこに手を当てて。

ふらふらしてみる。

「ハハハ、ママの前世トンボだね」

パチパチ。

女は両手を前に突き出し拍手する。

「かもね」

喜んで頂けたみたい。

あたしはジャックで苦虫を焼く、

女はグラスを両手で持って、ぐびぐびあおる。

小指がピンと立っているのが、まあ、愛らしくもある。

トン。

グラスを置いて。

「ふぅー」

口をすぼめて。

あたしをみる。

またやるのね。

心でため息一つ。

いや、二つ。


「はーい!」

目をぎゅっとつむって。

片手を挙げた女。

その腕に顔をピタリとつけた。

「はい、千穂ちゃん」

質問の儀式よ。

「ママはオリジナルについて。どう思いますか?」

「どうもこうもないわよ」

「もう、ちゃんと答えてよ」

「答えたじゃない。何が不服なの?」

フグみたいに膨れている女。

「じゃあ、千穂ちゃんはどう思うのかしら?」

「私は、もうオリジナルはないと思う」

「あら。どうして?」

「だって、映画もアニメも音楽も絵もゲームも本も。みんなどっかで見聞きしたものでしょ?」

「まあ、そうね」

これ。

案外面白いわね。

「オリジナルの語源はラテン語なんだって、始まりとか、水源とか元の場所みたいな意味なんだ」

「日本語に起こしたら、最初が当てはまるのかしら」

「そうかな。だから、もうないでしょ? オリジナル」

「まあ、そうなるわね。独創的もオリジナルといわれるけど、その元はあるわけだものね」

「ピンポーン」

文化や芸術は時代によって巡る。

分かりやすいのはファッションよね。

でも、元にあるものを活かして着こなすコーディネートはオリジナルに近いかもしれない。

ならば定義の問題かしら。

独創的という言葉は、なんか飛躍したもの、みたいに受け取られがちだけど。

本来の文字は独り創る。

「ママ、おかわり」

カラン。

掲げたグラスの氷が揺れた。

あたしは、7杯目のジャックを注ぐ。

「あんた、こういうのはどう、個性としたら定義を」

そっと、グラスを差し出した。

その脇に柿ピーの皿を添える。

「なるほど、オリジナルはない。けど個性ということだね」

女は摘まんだ柿ピーを顔の前で。

一瞥して口へ放り込んだ。

「おいしい」

顎を突き出して笑う女。

あたしは、柿ビーを摘まむ。

「まあ、でもあれよね、言葉は時代によって変わっていくもの、意味も一緒にね」

「ママは、面白いね。真ん中行こうとしてる」

「あたしは、面白いのが好きなだけよ」

女は何度かうなずきながら。

チラリとあたしを見た。


そっと。

手元を操作して。

途切れた音楽を繋げる。

安室奈美恵の『Get Myself Back』。

「はーい」

まだやるの?

「はい、千穂ちゃん」

「AIが個性を奪うと思う?」

なるほど。

あたしはジャックを一口。

確かに。

AIに奪われる日が来るのかもしれない。

芸術的な分野は特に。

その分野に特化したAIなら。

たぶん、音楽も文章も絵も。

あ、あの人の旋律。

あ、あの人が書いた文言。

あ、あの人が描くタッチ。

なんてものは出来るのでしょうよ。


もしかしたら、楽器の演奏なんかも。

ああ、あの人の演奏だって想って耳にする日が来るかもしれない。


でも、才能は活かせる。

そう、才能は大概真似から入るのだから。

パターン化された音楽や。

決められ展開。

ありふれた言葉。

どこかで見たことがある輪郭のイラスト。


そうね。

AIに入力するプロンプトを打ち込むのだって才能。

個性というのかもしれない。


DJやスタイリストのように、既存の物を組み合わせて、一つの芸術を完成させるような場合もある。


誰かの顔をイメージして描くのはOKで、AIが学習するのはNG。


まあ。人間がAIと向き合い始めてまだまだ数年。

黎明期。

未熟な人間と未熟なAIと。


「でも、人間に情熱がある以上、才能が潰えることはないないわね。好きだという源。最初の心があれば」

カラン。

溶けた氷が鳴った。

「ありがとう。ママ。私の心に風が吹いたよ。消えていた炎に蒔をくべてくれて」

「あらやだ。灰にならないでよ」 

あたしはウインクを投げる。

女は両手を口に添えて。

さーっと。

両手を大きく広げた。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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