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ジェラピケのママ  作者: ぽんこつ


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ひたすらに。ひたむきに。

*今回のお客は「宵、夏音の中で」に登場したあの人です。

今日もスピーカーからはTM NETWORKが流れている。

「Nights of The Knife」

暖房のお陰で。

あっかいんだけどさ。

なんか。

あの寒さが恋しくなるのは何故かしら。

寒さでぷるぷるしてたのが。

遠い昔のようよ。

ぬくぬくした環境はあたしに向いてないのかもね。

だって。

眠くなるのよ。

今日のあたしは全身茶色。

ショートパンツにキャミソール。

頭にはね。

ほら。

見てよー。

この、くまさんのキャラクターフードかわいいでしょ?

そうよ。

今日はくまさんよ。

あ・た・し。

もう、このまま冬眠しようかしら。

え?

なんて?

永眠しそう?

あらやだ。

それも悪くないじゃない。

……

……

はい。

笑ったあなたの夢に化けて出るわ。

今夜の夢に。


そして、今夜もこのひなびたバーに、ジャックとカルーアしか置いてないカウンターに、またひとり転がり込んできた。

「こんばんは」

ハーフアップにした髪に手を添えて笑う女。

女の笑顔は素敵ね。

「いらっしゃい」

背筋しゅっとして。

一番奥の丸椅子に腰掛ける。

その歩き方、座り方。

自然だけど、滑らかで美しい。

あたしは、柿ピーの皿を女の前に置いた。

「ありがとう」

女は柿ピーをつまんで、ぽりぽり。

ん?

トン、トン、トン。

女の指先がカウンターを叩いてリズムを刻む。

それを横目にカルーアを注ぐ。

なんか懐かしいわね。

これ。

トン、トン、トン。

トトン、トトン。

なんか体が自然とリズムに乗る。

その調子でカルーアを差し出した。

ピタッとリズムが止む。

「ありがとう」

両手でグラスを持った女はカルーアを口に含む。

「あんた、さっきのアレは何?」

あたしはカウンターの上で指を跳ねさせる。

指先を見つめた女は、あって口を開けて、目を細めてにこりと笑う。

トン、トン、トン。

トトン、トトン。

また、女の指がリズムを刻む。

上目遣いに、楽しそうにあたしを見ている。

「そう、それ。なんかこの辺まで出かかってるのに。早く教えなさいよ」

「ふふ。盆踊り」

「ああああああああ、そうだ」

あたしは体をくねらせる。

女は手で口を押さえ、肩を揺すって笑う。

「ママも踊ってた人ですか?」

「まあね、人並みには」

過去の記憶を呼び起こしそうになって、思考を止めた。

「あんたこそ、若いのに盆踊り踊るの?」

「はい、私小さい時から、ずっと踊ってます。ドンドンって太鼓の震えを浴びないと、夏が来たって、気がしないんです」

「確かに、あの祭り囃子は何とも言えないわね」

なるほど。

踊りをやってるのかしらね。

だから姿勢が美しいのかも。

「でも、昔ながらの盆踊り減っちゃって、踊る機会は少なくなりました」

「そうなんだ。空き地やお寺の境内とか、それこそ学校の校庭なんかでやってたわね」

「私、子供のころ友達と盆踊りのはしごしてましたよ。今日はここ、今度はあそこって」

「どんだけーー!」

あたしは、立てた人差し指を振る。

女は笑う。

うけたわ。

このご時世でも。

でもね。

一度。

一回、言ってみたかったのよ。

いいでしょ?

聞きたかったでしょ?

あんたも。

ニヤッ。

「じゃあ、あれだ、色んなの踊れるの?」

「もちろん」

ニコッと笑って、カウンターの上の両手を組んで。

伸ばした背筋が自慢気で、美しい。

「じゃあ」

女は伏し目がちにあたしを見て。

小さく舌を出した。

すると鼻唄を口ずさみながら。

手振りだけで。

踊り始めた。

あれね。

『大東京音頭』

動きが大きいのに。

しなやかで。

指の先まで柔らかい。

そして。

何よりも楽しそうな笑顔。

「はい。こんな感じかな」

「お見事! ブラボーよ」

「ありがとう」

女はグラスに口をつけた。

「こう見えて日舞の師範なんです」

「納得。立ち居振舞いが、美しいもの」

「そうですか? 普段はあまり意識してないんですけど」

さりげなくうなじに手を添える女。

「もう、あれね体に染み着いてるのね。所作というか仕草一つ」

「そう、かもしれませんね。踊っている時は、全身で楽しんでいます」

女は摘まんだ柿ピーを口に運ぶ。

その動きさえ、品を感じてしまう。

「なるほど、あんたのルーツね。楽しむってこと。あたしは、面白いのが一番よ」


女はカルーアを一口。

グラスを置いて。

その縁を指先でそっと撫でる。

あたしは手元を操作して。

曲を変える。

『Over The Top』LINDBERG。

「祖母の影響かもしれません。人生楽しまなきゃ損だって」

「へぇ~」

あたしも聞いたはね。

遠い昔に、同じ台詞。

「でも、祖母に盆踊りコンクールで、優勝したの見せられなかったんです。その一年前に亡くなってしまって」

「そっか。唯一の後悔?」

「うーん。後悔かもしれないけど、どうしようもならないから」

「偉いね、あんた」

「そうですか?」

「ちゃんと大事にしてるでしょ。おばあちゃんから教わったことも。おばあちゃんへの想いも」

「原点だからかな。それがなかったら今の私はないですから」

目の前で。

屈託なく微笑む女の顔には。

一片の翳りも曇りもない。

世話を焼かないあたしでさえ。

穢されることなく歩んで欲しい。

だなんて。

老婆心ながらに想ったわ。

「あんた、恋人は?」

「え? ああ、いるみたいです」

「あら、意味深な言い回しね」

「何て言うのかな。中学の同級生だったんですけど」

女はグラスで口を湿らせた。

「友達だと想ってたら、いつの間にか付き合ってました」

「なにそれ?」

「ああ、分からないですよね。隣にいるのが当たり前になってたというか。ある時、気づいたんです。あっ、これって付き合ってるんだって」

「ふーん。面白いじゃない。いいわね、そういうのも。言葉なくても、どこかでお互いを大切に想っていたから、自然とそうなった」

「ですね。あっ、もうすぐ来ると思います。ここで待ち合わせしたんで」

女の表情に彩りが落ちる。

やっぱり無敵よね。

女の笑顔って。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しております。

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