ほんの束の間
今日もスピーカーからはTM NETWORKが流れて――
いない。
フフフ。
あったかいの。
今日の店内。
頑なに買わなかったヒーターを二台も購入したのよ。
それに開店以来の賑わいを見せている。
スーツに身を包んだ、三宅為晴。
そう、いつぞやの客。
彼の提案で、この店で展覧会を開いているのよ。
しかも当初は、従妹の子の個展という話だったのが。
蓋を開けたら。
写真やイラストも展示しているのよ。
しかも。
よく分からないけど。
みんな知り合いなんだって。
類は友を呼ぶというアレね。
そして。
バーなのに。
出展者全員学生。
半分以上は未成年よ。
例えば。
為晴の従妹。
絵画のコンクールで賞を取った。
美波咲良ちゃんは高校三年生。
写真コンクールで賞を取った男の子も高校三年生。
他にも詩やイラストなんかが。
店中に溢れかえってる。
不思議なもんで。
作品たちの影響か。
殺風景な空間に。
文字通り。
豊かな風を吹き込む。
すごいわよね。
あたしが学生の頃じゃ考えられないわ。
でもね。
この子達の作品はいいわ。
温度がある。
感情がある。
オリジナルなんて。
もはや、この世界のどこにもないけれど。
ひとつ、ひとつ。
それぞれ携わるものへの、ひたむきさが滲み出ている。
今、店内に居るのは高校生たち。
心の底から沸き上がる。
その笑顔が痛いくらい。
今日のあたしの仕事は。
店内の監視。
それから。
健全なドリンクとおつまみの提供。
そして、若い子からエキスを吸収すること。
でもね。
逆なのよ。
与えられるのよ。
笑顔ひとつ。
言葉ひとつ。
あたしの澱が沈殿して。
へどろやカビよりも。
強くへばりついた。
心の深淵を浄化して。
このまま天国に召されそうになる。
一つのことに熱を持って向き合う。
心血を注いでいるかまでは分からない。
けど。
そういう人の持つエネルギー。
とでも言うのかしら?
いいもんよね。
そんな。
おそらく。
二度とは見られない。
味わえない。
長閑なひとときを堪能している。
ポリポリと。
柿ビーを頬張りながら。
「こんにちは」
かわいらしいツインテールの女の子。
隣は彼氏ね。
ふーん。
なんかお似合い過ぎる二人。
「あんたたち、いい顔してるわ」
あたしは柿の種のお皿をカウンターに並べる。
「ありがとうございます」
時間差で届く。
青春の声。
あら。
この女の子。
展示してある写真の被写体の子じゃない。
「あんたモデルの子でしょ?」
ウインクをして。
ピストルの形にした両手を突き出して。
「そのまんまじゃない」
あたしの声に。
女の子は。
肩をすくめて。
恥じらい笑う。
きゅん。
って。
あたしがなって、どーすんのよ。
ということは。
写真で賞を取ったのは彼氏ね。
「写真も絵もね。物語があるのよ。人となりがね、年を重ねたら分かるのよ。特にオカマは」
ギャルピースをして微笑むあたし。
「ですよね」
って。
彼氏がギャルピースを返してきた。
思わず。
にやり。
笑いが弾ける。
「あんたたち見てると楽しくなってくるわ」
あたしは枝豆をサービス。
出てきた枝豆に、少し驚いたようだけど。
「ありがと」
って。
彼女もギャルピース。
しかも、ちょっぴり舌を出してる。
ずきゅん。
て。
あたしが撃ち抜かれて。
どーすんのよ。
「やば! めっちゃかわいいんだけど」
食いついた彼氏。
「その、舌出すの反則だ。俺も真似しよ」
「あんたより、あたしがしてあげるわよ」
彼女のポーズを真似して見せた。
「んー。どっちもかわいいけど、ママさんより結衣かな」
腕組みをして真顔でうなずく彼氏。
へえー。
珍しいわね。
日本男子にしては。
真っ直ぐ、言葉にのせることが出来るなんて。
いいんじゃない。
このカップル。
あたしはそっと。
オレンジジュースの入ったグラスを二つ。
両手で差し出した。
「ママさんありがとう」
彼女は、ぺこりとツインテールの毛先を舞わせてお辞儀をした。
「ありがとうございます」
彼氏は、背筋を伸ばして、深々と頭を下げていた。
毒気のない日。
ちょっと。
センチメンタルになったあたし。
今は亡き。
姉の面影がぼんやりと頭の中に甦った。
まだ、無垢だった。
幸せだった。
遥か昔の風を感じた。
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




