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新世界は楽園なのか?  作者: 小野寺
第2章

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 新世界歴元年 6月2日

 アメリカ合衆国 ニュージャージー州

 ラングレー空軍基地



 アメリカ東部・ニュージャージー州にあるラングレー空軍基地。

 ステルス戦闘機であるF-22をアメリカで最初に配備した第1戦闘航空団などが配備されている東海岸を代表する空軍基地であり、アメリカ東海岸の防空拠点だ。

 とはいえ、日本のように毎日のようにスクランブル警報が鳴り響くわけではない。

 敵国といえるソ連とはアラスカと接しているが、そのアラスカでもやはりスクランブルがかかるのは月に数回くらいしかなく、どちらかといえば両者の主戦力が睨み合っている東ヨーロッパやバルト海に北海あたりのほうが警報がなる日数が多いほどだ。


 そんな、めったに警報がならないラングレー空軍基地に大音量のサイレンが鳴り響いた。

 当直のパイロットはすぐに出撃の準備を整えて準備された機体へ向かう。この時点で彼らに届いているのは「国籍不明機が領空に接近しようとしている」というものだけだ。だが、ニューヨークを狙ったミサイルやマイアミへの巡航ミサイル攻撃などがあるため、誰もが「不明機」の正体にあたりをつけていた。確定ではないので「不明機」と言っているだけで、それは十中八九ベルカによるものだと。


「マイアミの件もある、十中八九……ワシントンかどっかを爆撃するつもりだな。奴ら」


 レーダー画面を睨みながら忌々しげに呟く基地司令の准将。

 急に積極的にアメリカをターゲットにした攻撃を仕掛けてきたベルカ連邦。そのほうが民意を敵に向けるさせることができる――などと、ペンタゴンやホワイトハウスの高官はほくそ笑んでいたらしいが、現場といえば融合前に一切なかった本土への直接攻撃に若干のショックを受けていた。

 アメリカ本土ではないが、アメリカ領内が攻撃を受けたのはそれこそ90年近く前に起きた太平洋戦争で日本軍によってハワイの真珠湾やサモアなどが攻撃されて以来だ。しかも、どちらも一時的にせよ日本軍によって占領されていた。それもあって、アメリカ国内ではまだ対日脅威論というのが根強く残っていた。


「『ドラゴン1』『ドラゴン2』離陸を許可する。他もすぐに上がる」

『「ドラゴン1」了解!』


 管制塔の許可を受けた2機のF-22は速やかに滑走路から離陸していった。

 それに続く形で、格納庫では続々と第27戦闘飛行隊に所属するF-22が出撃準備が進められていた。



『不明機の数は12機。まもなく、我が国の領空に侵入する。警告後、反応がなかった場合は排除しても構わない。いいな?すぐに撃ち落とすなよ』


 特に「ドラゴン2」は気をつけろよ、と早期警戒管制機E-10のオペレーターに釘を差されたのは「ドラゴン2」のコールサインを持つF-22を操るケヴィン・クラーク中尉だ。


「なんで俺ばかり……」


 とうの本人はなぜ自分だけ名指しされて釘を刺されるのかわからず不満げであった。

 ケヴィン・クラーク中尉は、F-22のパイロットに選抜されているようにパイロットとしての経験と実力は空軍内でも屈指のものだ。一方で、やや直情すぎる性格が懸念だともされている。命令無視はこれまでしたことはないが、それでも納得のいかない命令があるとすぐに上官に食って掛かることは多く一部の上官からは「問題児」とも見られていた。


『ボヤいてないで眼の前のことに集中しろケヴィン』

「……了解」

『いいな?先走って攻撃すんなよ』

「隊長までそんなこと言わないでくださいよ……わかってますって」


 そんな、やや暴走癖のあるクラークの手綱を握っているのが隊長を務めるボビー・グッドマン中佐だ。グッドマン中佐はクラークの技量を高く評価しているからこそ今後の精神面の成長を期待して、中尉を僚機にしていた。

 クラークも経験豊富なグッドマンに対しては基本的に忠実で命令違反をすることもなかった。

 今回のように冗談を言い合えるくらいにはいい関係を築いていた。



「海軍の連中はどうした!?護衛の戦闘機をよこすという話だっただろう」


 ときはしばらく巻き戻る。

 そろそろ、アメリカの領空に近づこうとしている中、護衛を務めることになっていた海軍機が一向に姿を見せないことにエッカートは部下に確認をとっていた。


「そ、それが。海軍側と一切通信がとれません」


 通信士が困惑気味に返す。

 実はこの時、第2艦隊はアメリカ海軍の攻撃によって壊滅していた。なので、何度呼びかけたところで海軍側からの返答は一切ないのだが、そんなこと爆撃機側が知る術はない。本来なら護衛の戦闘機がいないならば作戦の継続は不可能だと考えるものだが――エッカートの場合は違った。


「海軍が役立たずならそれで構わん……作戦は継続だ!敵の首都にありたっけの爆弾を落とす」


 作戦継続――この決定が彼らの運命を決定づけた。





 グッドマン中佐たちが視認したのは4発のジェットエンジンを搭載した大型機であった。

 見るからに民間機という外観はしていない。グッドマンがその機体を見てふと思ったのは「ヨーロッパが作りそうな爆撃機だな」というものだった。

 現代のヨーロッパ諸国で戦略爆撃機を保有している国はイギリスくらいしかない。フランスもドイツも金のかかる爆撃機の開発は早々にやめている。というのも、NATOに入っているならアメリカやイギリスといった「持っている国に任せた」ほうが無難だからだ。

 ただ、眼下に飛行している爆撃機はヨーロッパ――特にフランスやドイツあたりが爆撃機を作ったら似たような外観をした機体を作りそうだ、とグッドマンは内心思ったのだ。

 まず、翼の形式がアメリカなどで用いているものと違う。大きなデルタ翼であり、かつてフランスとイギリスが共同で開発した超音速旅客機である「コンコルド」に似ていた。


『あー、国籍不明機に告げる。貴機はアメリカ合衆国の領空に接近している、ただちに針路を変更せよ。針路を変更しない場合は撃墜する。繰り返す――』


 ヨーロッパでの勤務も長かったグッドマン中佐は流暢なドイツ語でもって警告を行う。ベルカがドイツ語に似た言語を使うということが判明していたからだ。一応は「国籍不明機」ということにしているが誰しも、この不明機が南方の大陸――ベルカからやってきたものだと考えていた。

 そして、警告を行ったところで向こうは引き返すつもりがないだろうということも。


「やはり、引き返すつもりはないか」

『中佐。護衛機が見当たりません』

「……そういえばそうだな」


 敵地のどまんなかに護衛の戦闘機もつけずにやってきているのはたしかにおかしい。

 それだけ、アメリカの防空体制が「穴」だと思っているのか。それとも、護衛機が合流する計画だったのか……。普通に考えれば後者だろう。前者だとすればずいぶんと嘗められたものだし、その慢心をこの瞬間に叩き潰してやりたいとも思ったが、ここでふとある可能性に思い当たる。


「……もしかして、護衛機は空母の艦載機を使うつもりだったのか?」


 その空母に何らかのトラブル――要は攻撃を受けて護衛の戦闘機が飛ばせなくなった可能性だ。

 カリブ海周辺は海軍第4艦隊と大西洋艦隊潜水艦部隊が日々哨戒活動を行っている。大規模な艦隊移動があればすぐにいずれかが対応するはずだ。


「『ドラゴン1』から『シー・アイ』へ」

『なにかあったか?』

「この付近で海軍が艦隊を攻撃したという情報はないか?爆撃機に護衛の戦闘機が見当たらない」

『――ああ、第4艦隊がヴァージン諸島付近で敵艦隊を発見しこれを排除している。それよりも、警告には応じたか?』

「いや、全く引き返すつもりがないらしい。護衛の戦闘機もない中でずいぶんと勇敢なものだと感心していたよ」

『了解――仕方ないな。該当の編隊を敵軍のものとする。「ドラゴン1・2」攻撃を許可する』

「『ドラゴン1』了解――いいのか?」

『ああ、ちょうど。後続部隊も到着している。派手にやれ』

「わかった。派手にやるさ――聞いてたな?ケヴィン」

『もちろんです、中佐』

「ならやるぞ……豪華に爆弾倉に入っているやつを全部お見舞いしてやろう」

『了解……それでも全部落とすには足りませんけど。まさか、日本人みたいにドッグファイトでもするつもりですか?』

「それも面白そうだが……ちゃんと後続がきている。あとはそっちが片付けるさ」


 F-22のウェポンベイにはAIM-120C(AMRAAM)という名の中距離空対空ミサイルが6発搭載されていた。

 更に短距離空対空ミサイルであるサイドワインダーも2発搭載されている。ステルス性を犠牲にすれば翼下にも更にミサイルが搭載できるが今回は搭載されていない。2機あわせて16発のミサイルが搭載されていた。普段ならば、フル装備をすることはないのだが今回はベルカと戦争をしていたこともあってフル装備でスクランブル待機していた。


「さて……恨むんなら。こんな無謀な作戦を考えた上官を恨むんだな」


 最後尾の爆撃機にロックオンしたのを確認して、発射スイッチを押すとウェポンベイから2発のミサイルが発射された。



「直上に敵機!」


 その報告は爆撃機乗りたちにとっては最悪なものだった。

 普段は強気のエッカートでさえその報告を聞いて顔色をなくしたほどだ。


「敵機の数は?」

「はっ。現時点で2機のみです」

「2機だけならば振り切れるかもしれん……全機、最大スロットで加速せよ!」


 彼らが乗り込んでいるのはベルカ空軍の主力戦略爆撃機である「Vg-22」は超音速戦略爆撃機であった。爆弾の搭載量は従来の爆撃機に比べれば若干減っているが、それでも圧倒的な速度が最大の武器であり隠密作戦に強い機体――というのが空軍内での評価であった。

 だからこそ、エッカートはこの状況でも多少の犠牲が出ても逃れることができると思った。

 なにせ、相手はたった2機の戦闘機だ。ミサイルは当然積んでいるだろうがその数はたいしたものではないだろうと。

 それよりも気になったことがあった。Vg-22には高性能レーダーが搭載されていたはずだ。しかし、直上にくるまで敵機の存在に気づかなかったのだ。エッカートはそのことに一瞬疑問をもったが、今はそれよりも逃げるのが優先だと深く考えることはしなかった。

 まさか、レーダーに映らない戦闘機の集団が自分たちを追い込もうとしているなど思いもしなかった。


「12番機、11番機被弾!操縦不能!」

「構うな!2機だけなら振り切れる!」

「し、正面より高速飛翔体多数っ!」

「なんだと!?か、回避だ!回避を急げ!」


 しかし、戦闘機と違って爆撃機はそこまで小回りは効かない。ミサイルを見つけた段階で回避するのは不可能に近かった。ミサイルを回避しきれなかった爆撃機はコントロールを失い落下していく。無線からは乗員たちの悲鳴や、なんとか体制を立て直そうとする声が聞こえるが、そういった声もなくなっていく。つい、数時間前までは敵の中枢を破壊するのだ――と士気旺盛だった隊長機の乗員たちは一様に顔色を失っていた。自分たちも彼らと同じ末路を辿ると想像出来たからだろう。

 なにせ、顔色を失っている者たちの一人にエッカート中佐もいたからだ。

 彼は「何がどうなっている……」とまるでうわ言のように呟いて視線を彷徨わせていた。あまりの事態に現実逃避をしているのだろう。この爆撃機には一応、ミサイルの誘導を狂わせるジャミング装置やフレアが搭載されており、実際にミサイルに狙われていた機体はそれらを放出していたのだがまるで効果がなかったのだ。

 そして、その必殺の矢は隊長機にも迫ろうとしていた。


「ミサイル接近!回避間に合いませんっ!」

「チャフ、フレア放出!急げっ!」


 ミサイルが逸れるように願いながらフレアなどを放出していくが、アメリカ軍が発射した新型のAIM-120はこういった妨害の対策もしっかりと行っていたこともあり、まるで効果はなかった。1発のミサイルが右の主翼付近で爆発。爆風によって主翼が大きく破損した。これによってパイロットたちは機体をコントロールすることができなくなる。パイロットは徐々に傾いていく機体をコントロールしようとするが全くうまくいかない。

 このままでは、失速して墜落してしまう。そんな恐怖をエッカートが覚え始めたときに全てが終わった。主翼付近に満載していた燃料が引火したことによって機体は大爆発を起こしたのだ。エッカートたちは失速によって地上へ落下していく恐怖を感じるまもなく、爆発で乗機と運命をともにした。

 この日、ベルカ海軍と空軍が行ったアメリカ本土への大規模な攻撃はフロリダ半島南端のマイアミが巡航ミサイルによって被害を受け、死傷者が出たがそれ以外の都市に対する攻撃はアメリカ海軍と空軍の尽力によって未然に防がれた。

 だが、これによってアメリカ世論は一気に燃え上がらせることになり、アメリカ政府も安易に「即時講和」を口に出来ない状況になっていく。それはもちろん、アメリカに協力する形で軍を派遣している各国にも共通して言えることであり、そのうちの一つである日本帝国にとってこの状況は非常に頭の痛いものになっていくのであった。


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