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新世界は楽園なのか?  作者: 小野寺
第2章

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 新世界歴元年 6月1日

 アメリカ合衆国 コロラド州

 北米航空宇宙防衛司令部



 アメリカとカナダが共同で運用している「北アメリカ航空宇宙防衛司令部(通称:NORAD)は北アメリカに対する危険の早期発見などを任務とする組織であり、主に人工衛星や弾道ミサイルの発射警戒などを24時間体制で行っていた。

 融合前は、ソ連との冷戦関係もあったことから常にソ連や北中国のミサイル基地や爆撃機の動向を偵察衛星などを用いて監視していた。世界融合後はソ連や北中国という脅威が去ったが、今度は中央アメリカに軍事侵攻するベルカ連邦という脅威が出現したことから、現在はベルカに対しての警戒監視などを行っていた。

 その、NORADの司令部において緊急事態を知らせるアラームが鳴り響いた。


「ユーシア大陸東部より弾道ミサイルと思われる飛翔体の発射を早期警戒衛星が確認しました!」

「すぐに、飛翔体の解析をしろ!」

「――飛翔体は弾道ミサイルと確認。弾着予想地点はニューヨークです!」

「迎撃体制はどうなっている!?」

「一番近いのは、大西洋にいる『シカゴ』です。ニューヨーク近郊の空軍基地にはPAC-3とTHAADが配備されています」

「『シカゴ』及び、地上部隊に対して直ちにミサイル迎撃措置を発令!なにがなんでもニューヨークに落ちる前に対象を撃ち落とせっ!」






 フロリダ半島沖 大西洋

 アメリカ海軍 第2艦隊

 ミサイル巡洋艦「シカゴ」



 世界融合後。アメリカは不測の事態に備えて常時、イージス艦をアメリカ本土近海に常駐させていた。第2艦隊は西大西洋などを管轄する大西洋艦隊に所属する主力艦隊の一つでアメリカ海軍最大の海軍基地であるノーフォークを母港としている。

 ミサイル巡洋艦「シカゴ」はボストン級ミサイル巡洋艦の3番艦だ。

 ボストン級は、世界初のイージス艦であったロサンゼルス級の大部分を置き換えるために2015年から順次配備が行われているイージス巡洋艦で、満載排水量1万4000トン。全長:192m、全幅22mの大型艦で機関方式を統合電気推進にしている。武装は、155mm単装砲2基と124基のVLSで、対空・対弾道迎撃・対潜・巡航・対艦ミサイルを搭載していた。

 今回の戦争でも太平洋艦隊に所属している同型艦が、ベルカ国内にトマホーク巡航ミサイルでの空爆などを行っていた。



 ベルカからの弾道ミサイルと思われる飛翔体発射の速報を得たシカゴのCICは蜂の巣をつついたかのように喧騒に包まれていた。

 その中で、艦長は副長から報告を受けていた。


「状況は?」

「ユーシア大陸東部から弾道ミサイルと思われる飛翔体の発射を早期警戒衛星が確認。着弾予想地点は――ニューヨークとのことです。本艦が目標にもっとも近いです」

「……逸れることはないんだな?」

「8割以上の確率でニューヨーク――マンハッタンに着弾します」

「通常弾頭でも都市部の真ん中に落ちれば被害は甚大だ……確実にここで落とさなければならん。目標は捕捉できたか?」

「たった今。大気圏外に出たようです。まもなく解析が終わります」


 アメリカ本土に被害を及ぼす可能性が極めて高いというのがこの時点ですでに推測されていた。

 仮に核弾頭ならば、一発でニューヨーク中心部は消滅し、数百万人の人命が一瞬のうちに失われるだろう。まさか、世界融合をしてまで核戦争一歩手前のようなことをするとは思ってもいなかった――というのは艦長の内心であった。

 弾道ミサイルは、シカゴに搭載しているAN/SPY-6多機能レーダーも探知しており、すでにイージス・システムが迎撃に最適な発射タイミングの解析も行われていた。


「艦長。いつでも撃てます!」

「SM-3発射。目標、敵弾道ミサイル」

「SM-3発射。目標、敵弾道ミサイル!」


 担当士官が発射スイッチを押したことで艦首のVLSから弾道ミサイル迎撃ミサイルであるSM-3が空高くへと発射された。






 弾道ミサイルが発射された瞬間。大統領のルーベンスはホワイトハウスの執務室で国務長官などと会議をしているところであった。その最中に飛び込んできた弾道ミサイルの発射――そしてその目標がニューヨークであるという報告にクロフォードは表情を青褪めた。それでも、攻撃を受けたときのマニュアル通りに安全な場所へ退避するためにホワイトハウスを脱出した。

 もし、アメリカに攻撃された場合に備えて大統領専用機は常に最短時間で離陸できるような準備が整えられており、今回はそれによって迅速にルーベンスはワシントンD.C.から離脱する。その時間は10分足らずだったがクロフォードにはそれ以上経っているように感じられた。

 今回の中米戦争があってから、アメリカが攻撃を受ける可能性は当初から予想されていたものであった。それでも、実際に弾道ミサイルが打ち込まれると動揺してしまう。アメリカにとっては直接攻撃を受けるのはテロを除けば一度もない。

 日本と戦った太平洋戦争ではハワイ諸島が攻撃を受け一時的に占領されたが、アメリカ本土までは攻撃を受けてはいなかった。ただ、日本軍上層部はアメリカ本土への攻撃を最終手段として計画していたことが後に判明している。

 その後の第二次世界大戦では主要戦場がヨーロッパであったこともあり、アメリカ本土が直接攻撃を受けることはなかったし。東西冷戦においては度々ソ連と全面衝突の危機に陥ったが寸前のところで外交交渉で好転させていたので直接ミサイルを打ち込まれる――といった自体は回避されていた。


 専用機が空に上がって数分して機内に備え付けられていた電話が鳴る。

 補佐官が受話器をとり幾つか話をした後「国防長官からです」といって受話器をルーベンスに差し出した。


「私だ」

『閣下。無事に我が国に向かっていた弾道ミサイルは撃墜されました。現時点で追加の攻撃の兆候は見受けられません』

「――それは朗報だ。それで、我が国を狙ってきた奴らはやはり『ベルカ』と名乗る勢力なのか?」

『発射地点から考えてまず間違いないかと。おそらく、中米方面の戦闘における報復ではないかと。3週間ほど前にユーシア大陸の別の場所からロケットの発射が確認されております。中身は偵察衛星であり、それによって我が国に関する情報収集を行ったのでしょう』

「その結果、奴らはニューヨークを首都と誤認してミサイルを打ち込んできたわけか……国防長官、攻撃はこれで終わりだと思うか?」

『現時点では不明ですが……これだけで終わるとは思えません』

「その場合の、攻撃手段はどれくらいある?」

『戦略爆撃機を用いた空爆。あるいは、機動艦隊を用いた沿岸部への攻撃――可能性がありそうなのはこの二つでしょう。再度、弾道ミサイルを発射してくる可能性もあります。今度は、更に多数のミサイルを発射することで我が国の防衛網のスキを突いてくる可能性はありえる――というのが統合参謀議長などの考えです』

「よくわかった。ともかく、私はしばらく空の上にいる必要があるわけだな」

『私も同じですよ。しばらく、地上に出ることはできなそうです』


 


 日本帝国 東京市 千代田区

 総理官邸 総理執務室



「現時点で判明しているのは、ニューヨークを目標に弾道ミサイルが2発発射。いずれも大西洋に展開していたイージス艦のSM-3によって撃墜。クロフォード大統領などは安全を確保するために上空に退避していること。現地はかなり混乱しているようです」


 アメリカに弾道ミサイルが打ち込まれた――という情報は速報でもって日本にもすぐに伝わった。

 もっとも、わかっている情報はミサイルは撃墜されているが、現地は大混乱に陥っているというものだけだ。メディアにもこの情報は伝わっており、記者たちからこの件に関してのコメントを求められたが、わかっている情報がない中で発言のしようがなく「情報収集に務めている」という定型文を返すしかなかった。

 現在、執務室には官房長官の菅沼の他に、国家情報局長などが集まり現在までに知り得た情報を安川に説明しているところだった。国防大臣の森田や、外務大臣の二階堂などはそれぞれ国防省と外務省にいて情報収集にあたっている。


「ワシントンに滞在中の渡辺大臣と連絡がつきました。現在は安全な場所に退避中とのことです」


 実は、昨日からワシントンには経済産業大臣の渡辺雄一が滞在していた。アメリカの商務長官との間で新たな関税などで協議を行っていたのだが会談中に緊急警報が鳴ったため、商務長官とともに安全な場所へ退避していた。


「最大の懸念は。相手が『核』を有しているかどうかですね……仮に今回『核』が使われていた場合。アメリカがとる手段は一つしか無い――」


 険しい表情をしながら安川は呟く。それ以上の言葉はあえて口には出さなかったが、この場にいる者たちはその後に続く言葉を察し――青褪めた。

 融合前には最終的に起きなかった「核戦争」が起きるかもしれないのだ。

 相手が、通常弾頭を使っていてもアメリカは「反撃」以外に選択肢はない。いくら、大統領たちが理性的といっても世論が「弱腰」な対応を許さない。特に今は、第三勢力として前大統領勢力が二大政党をおびやかしている。生半可な対応では彼らの躍進を許す結果になりかねない。


「本当にこの世界は為政者にとって頭の痛い出来事ばかりが続く」


 珍しく、安川はそんなボヤキを口に出す。

 総理に就任して以来、愚痴や弱音を吐くことがなかった安川でも、さすがに融合後に続くこの一連の「激動」ともいえる世界情勢の動きには愚痴の一つくらいは口から出てしまうようだ。それほどに、1日ごとに周囲の情勢は一変しているのだ。

 北中国やソ連と睨み合いを続けていた融合前のほうが平和だと錯覚してしまうほどに。

 ただ、日本周辺だけをみれば情勢は融合後のほうが安定している。樺太紛争はあったが、それ以外は平和だ。ガトレア王国との関係は非常に良好であるし、それ以外の国々とも外交関係を結んでいる。いずれもマリスを除けば領土野心を持っていない国だ。そして、樺太紛争を引き起こしたマリス連邦も一ヶ月前に総選挙が実施され、穏健派が政権をとり日本との関係改善や更に太平洋条約機構への加盟を目指すと表明していた。

 日本周辺だけが、平穏であった。

 だが、それ以外の地域は不安定でありそれこそが、日本政府にとっての頭痛の種なのだ。


「――新しい情報が入りました。マイアミに複数の巡航ミサイルと思われるミサイルが着弾。被害状況は不明とのことです」


 秘書官からの追加報告に安川は思わず天を仰いだ。


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