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新世界歴元年 5月30日
ベルカ連邦 首都 タンベルク
総統官邸
ベルカ連邦が中央アメリカに軍事侵攻して5か月あまりが経とうとしていた。
現在、ベルカはエルサルバドルまでを制圧し。現在グアテマラやベリーズに侵攻しているが当初ベルカ軍が考えていたものに比べると作戦の進捗状況は非常に悪かった。
その原因は、相手が予想以上の能力を持っていたからだ。
融合後、すぐに行われた偵察においてパナマなどはたいした軍事力を有していなかった。それは、侵攻してからも同様であった。当時のパナマ国防軍の総兵力は2万人ほどで、中央アメリカの中では比較的重武装をしていた。それでも、戦車などは有しておらず軽歩兵部隊主体だ。兵器もアメリカなどで使われていた中古品が殆どで、ベルカ軍が使っていた兵器と大差ないものかあるいはそれよりも劣っているものが多かった。
そのため、パナマ軍はベルカ軍の攻撃を受けるとさして大きな抵抗はせず、ゲリラ戦で相手の進軍速度を遅らせる作戦をとった。これによって、ベルカ軍の進軍速度はやや低下し、そのおかげで首都で住民の避難を進めることができた。
このとき、パナマ運河地帯に駐屯していたアメリカ陸軍や海兵隊もパナマ軍の支援にあたっており、ベルカ軍の戦車や装甲車が幾つか破壊されていたが、この時点でベルカ軍上層部はアメリカ軍などを「脅威」とは見ていなかった。
状況が変わったのは、パナマを制圧してその隣国であるコスタリカに進軍したときだ。
この時、アメリカは海兵隊や空挺部隊を用いて住民避難のための足止めをしていた。積極的な攻勢にはでず、熱帯雨林を巧みに使った神出鬼没のゲリラ戦術でベルカ軍を苦しめたのだ。更に、アメリカ軍は後方の兵站拠点などに対しての攻撃も継続的に行いながら、制空権や制海権を確保するための行動を行っていた。
そして、1月末にはベルカ海軍の虎の子の戦力であった第3艦隊が、アメリカ海軍の空母機動艦隊の攻撃を受けて壊滅した。ベルカ軍上層部が「何かがおかしい」と感じ始めたのはこの頃だ。とはいえ、制圧自体は順調に進んでいた。
これは、アメリカ軍の領内通過を反米政権であるニカラグアが認めなかったことによってアメリカ軍の行動に制限がかかっていたこと。更に、アメリカ本土の予備役部隊の招集などに時間がかかったためだ。それでも、少数の海兵隊や空挺部隊などの活躍によってベルカ軍の進軍速度を抑えることはできていた。
その後、ニカラグアを難なく制圧することができたベルカ軍だが。その次のホンジュラスとエルサルバドルの制圧に手間取ることになる。その理由は、アメリカ陸軍の機甲部隊が本格的に戦闘に参加したためだ。ニカラグアを通れないことからアメリカ軍はホンジュラスとエルサルバドルに最初の防衛線を敷いたのだ。そして、ベルカ軍はこの防衛線を突破するのに手間取った。濃密な砲撃とベルカ軍の主力戦車である「エルファン」を上回る能力を持つアメリカ陸軍の主力戦車「M1A3」や「M20」の活躍で、ベルカ軍は予想以上の損害を受けることになった。
ベルカ軍は当初、1個軍団で制圧できると考えていたのだがどんどん投入部隊を増やしていき今では1個軍規模にまで部隊は膨れ上がった。それでもなお、うまく進軍することができていなかった。
「空軍の支援がなければ我々の進軍は進まない!すぐにでも空軍の支援が必要だ!」
「これまでも空軍は十分な支援を行ってきた!しかし、敵の航空戦力の攻撃によって北部の前線となる飛行場が破壊されるなど、大きな被害を受けている!我々がそちらの行動に協力していないかのような被害妄想を垂れ流すのはやめてほしいものだ」
総統出席のもと行われた定例の幹部会議は――当然というべきか荒れていた。
空軍の支援が不十分だと、陸軍参謀総長が発言すると。すかさず空軍参謀総長は自分たちはちゃんとしている、これ以上を求める陸軍がおかしいとばかりに反論する。
「そもそも、我々よりも海軍のほうが非協力的ではないかね?空母を沈められてからさっぱりと海に出ることはなくなったという話じゃないか」
「……確かに」
空軍参謀総長の返しに、陸軍参謀総長は頷きそして二人そろって海軍司令長官を睨みつけた。
「我々とて日夜、哨戒活動や情報収集活動を行っている!」
「ならば、海にいてこっちを攻撃してくる敵艦隊を早く排除してほしいものだな。まだ空母はあるんだからな」
高い予算を出したんだからその分働け、とそれまでいがみ合っていた陸軍と空軍の参謀総長は揃って海軍司令長官を責め立てる。
大陸国家であるため相対的に陸軍の発言力が高くついで空軍――そして海軍は3軍の中では最も発言力のなかった。だが、ベインスタイン総統になってからその力関係に大きく変わっていく。ベルカ連邦がある世界「ユーリス」にはマリス連邦とダストニア共和国など複数の超大国が存在し、それらの超大国が植民地の獲得競争に明け暮れていた。ベルカはその中では新興国であり、大陸外で獲得した植民地はなかった。ベインスタイン総統は歴代総統の中でも領土的野心が強かった。だが、大陸外へ進出するには既存の海軍戦力では不足していた。そのため、ベインスタインは大規模な海軍拡張を軍部に指示し、それによって空母が建造されることになったのだ。
しかし、予算は有限だ。際限なく増やすことはできない。そのために陸軍や空軍に充てられていた予算の一部を海軍に回したのだ。ただでさえ、ベルカの3軍はあまり仲がよくなかったのだが、この件で更に3軍の溝が広がったのだ。陸軍や空軍は海軍が自分たちよりも優先されたのが気に食わないので当然海軍のことを敵視するし、海軍もまた今まで散々自分たちを見下してきた陸軍や空軍に強い不満を持っていた。特に、空母艦載機に関しては空軍が非協力的だったため開発が遅れたこともあり海軍の中には空軍に猛烈な憎悪の感情を持つ者もいたほどだ。
「――貴様らはいつまで、醜い争いを続けるつもりだ?」
軍の参謀総長の睨み合いを止めたのはそれまで一言も発していなかったベインスタイン総統だった。明らかに苛立ちを抑えられない声音に、その瞬間まで睨み合っていた3軍の参謀総長たちは一斉に姿勢をただした。
「――そもそも、我々の進軍を阻んでいる存在の情報を私は殆ど知らないのだが。それに関して情報はあるのか?情報長官」
「は、はい」
指名された情報長官は緊張した面持ちで立ち上がり用意した資料を読み上げた。
「先月打ち上げられた偵察衛星によってある程度ではありますが、現在我々が攻略を進めている大陸の全容と進軍を阻んでいる敵勢力が判明いたしました」
ベルカにおいても世界融合によって人工衛星の大半を喪失したが、先月になってようやく幾つかの人工衛星を打ち上げていた。その中には偵察衛星も含まれており今回北米大陸を撮影したのもその偵察衛星からだった。
当初、ベルカは中央アメリカを南北に細長い島のような陸地だと考えていた。しかし、実際に進軍してみたりあるいは捕虜とした中米諸国の兵士からの尋問などによって中央アメリカは大陸から半島のように突き出ている陸地であることがわかったのだ。更に、進軍を阻む勢力も確認されたことから情報収集のために偵察衛星を打ち上げ、多くの画像を得ることができたのだ。
「配布された資料やモニターに画像を載せていますが――敵勢力はかなりの大国であることが画像の時点で判断できます。幾つかの巨大な軍港と思われる港湾施設もそうですし、大都市も大陸各地に点在しているのがわかり相当に国家として発展していると考えられます」
「なるほどな……」
情報長官からの報告とそして手元にある報告書を見てベインスタインはしばし思案する。
自分たちが攻め込んでいるのが大陸であり、なおかつ強大な国家が存在しているというのは事前にわからなかった情報だった。もっと入念に情報を収集したうえで作戦を実行していれば、状況は変わったかもしれないが。今でも水面下で睨み合う各軍の指揮官たちを見るにそれは難しいだろう。
「このまま、相手にやられまくりというのも癪に障るな……何か敵の上層部に打撃を与えるような作戦はないのか?」
「それならば、我が空軍の爆撃機部隊による首都爆撃はいかがでしょうか」
「いや。敵の首都へ強襲降下し、敵上層部を襲撃しましょう」
「我が海軍の機動艦隊で敵海軍基地を破壊いたしましょう」
3軍の指揮官は揃って自分たちに攻撃を任せてくれ、とばかりに声をあげる。
まるで、これまでの失態をこれで取り返そうとしているような必死さ。そして、お互いを睨み合う姿はまさに滑稽という言葉が似合う状況だ。
ヴィンヘルムはそんな三者を冷めた視線を向けながら結論を出す。
「では――空軍の爆撃機と弾道ミサイルに任せるとするか。我が国に手を出したことを敵に後悔させるのだ」
「はっ!確実に閣下に良い結果を報告いたしましょう」
「頼んだぞ。グラーム元帥?」
ベルカ連邦 中部
ベルカ軍 弾道ミサイル基地
ベルカ連邦中部にある山岳地帯に同国最大規模の弾道ミサイル発射施設が存在する。
管理は空軍が行っており複数の弾道ミサイルが山の地下に設置されたサイロに収容されている。
今回発射されるのは「アルゲート」と呼ばれる中距離弾道ミサイルでその射程は約5000kmとされていた。
攻撃目標はニューヨーク
ベルカはニューヨークがアメリカの首都だと誤認していた。しかし、ニューヨークはアメリカ経済の中心であり更には国際連合本部も置かれるなど国政政治の場面ではワシントンD.C.と並ぶ重要な都市であるのには代わりはない。弾頭は通常弾頭だが、それでも都市部の真ん中に落ちればかなりの人的被害になる代物だった。
「この一発で戦争が変わる」
弾道ミサイルは始まりにすぎない。その後は、空軍の戦略爆撃機でもって徹底的な空爆を行う。更に空軍としてはあまりいい気分ではないが、海軍の第2艦隊も巡航ミサイルでもって敵の軍事拠点などを攻撃する計画だ。
この作戦が成功すれば、アメリカの中枢に大きなダメージを与えることができる――というのがベインスタインに作戦概要を伝えた軍務長官の考えだった。
「発射準備終了しました。異常ありません」
「了解した――『アルゲート』発射。目標は敵国首都」
「『アルゲート』発射します!」
オペレーターがボタンを押したことで高圧ガスによってミサイルは射出された。
直後、エンジンが点火しミサイルは周囲に轟音を轟かせながら宇宙へと打ち上がっていった。




