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新世界は楽園なのか?  作者: 小野寺
第2章

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87/92

83:中米戦争5

 新世界歴元年 5月29日

 中央アメリカ グアテマラ



 グアテマラの鬱蒼とした熱帯雨林の中をベルカ兵たちは進んでいた。

 中央アメリカで最も多い人口を抱えるグアテマラは南部が山岳高原地帯。北部は平野部で人口の過半数は南部に集中していた。ベルカは二つの方面から軍を進めているのだが、北側のカリブ海側を進んでいるのが第77歩兵師団と第82歩兵師団という二つの歩兵師団であった。

 アメリカ軍を主体とする連合軍の主戦力は首都のグアテマラシティなどが集まる南部の高原地帯や太平洋海岸部に展開していた。これは、ベルカ軍の機甲部隊を主力とした主戦力が南部に集中しているためで、ここでは現在でも激しい両者による激しい戦闘が起きていた。

 今は、日本や中華連邦などからの援軍が続々と到着していることもあって連合軍の体制は強化されており、この南部の戦線においてはベルカ軍は苦戦していた。

 一方で、人口が希薄であるカリブ海側は連合軍も大規模な戦力は配置していなかった。ただし、空挺部隊や海兵隊などの軽武装の部隊を随所に配置することでの神出鬼没のゲリラ戦術で進軍するベルカ軍を苦しめていた。

 ベルカ軍は、カリブ海側の港湾都市であるプエルト・バリオスを攻略しようとして1個歩兵連隊を差し向けたのだが、事前にこの付近に上陸していた米海兵隊によってそれは阻止された。敗れたベルカ軍はそのまま熱帯雨林を突き進む形で別の町を目指して進軍を続けていた。


「くそ……誰だよ。楽な戦争なんて言ったやつは!」

「ケインズ静かにしろ。ここは敵陣のどまんなかだぞ」


 道なきジャングルを歩き続けること数時間。ついに我慢の限界に達した若い兵士が悪態を吐くとすぐに前を歩いていたこの部隊を指揮する軍曹が注意する。度重なる襲撃によって、若い兵士を中心に多くの兵士たちが精神的に追い詰められていた。襲撃によって補給部隊も被害を受けているため食料や弾薬などの補給回数が減っているのも、彼らの士気を下げる要因になっていた。

 連合軍は徹底的にベルカ本土にある兵站施設を爆撃し続けていた。現代の軍隊に必要なのは当然ながら食料と武器・弾薬だ。それらが集積されている地点を破壊すれば敵の兵站は著しく麻痺し、長期戦には不利になる。だからこそ、各国へ兵站拠点をなるべく攻撃されないように偽装してきた。しかし、ベルカは兵站拠点を狙われるという経験をこれまで殆どしていなかった。おかげで、兵站拠点に対しての偽装も殆どせず結果的に連合軍の格好の的となっているのだ。


 そして、このジャングルを進む彼らもまたハンターにとっては絶好の的だった。


 先程まで、ぼやいていた若い兵士が突然倒れたのが最初だった。

 周囲の兵士たちが慌てて状況を確認すると、若い兵士は眉間を撃ち抜かれていた――即死だ。


「て、敵襲!」


 分隊長が声を張り上げて周囲を警戒するように伝えるが、周囲は鬱蒼とした熱帯雨林。

 身を隠すのには最適な場所であり、隠れている相手を見つけるのに最悪な場所だった。そして、立ち止まっている彼らは襲撃者にとっては絶好の的だ。

 パンパンという乾いた音が聞こえた瞬間に倒れる兵士たち。ここには、姿を隠せるような物陰はない。一応、ジャングルの木々を盾に使うこともできるが背後から撃たれる可能性もある。なにより、突然の攻撃に経験の浅い兵士たちは身動きがとれなかった。敵からすればいい的だ。

 分隊長はどうにかして、この局面を切り抜けようと頭を働かせるがその間にも兵士たちは次々と倒れていく。


「がっ……」


 銃弾を避けるために身を低くしようとした瞬間。分隊長の眼の前は真っ暗になった。




「――他に敵はいるか?」

「いないようです」

「念のため、もう一度周囲を警戒しろ」

「了解」


 木々の間から小銃を構えた迷彩服姿の男達が姿を現した。

 彼らは日本帝国陸軍第2空挺旅団第6空挺連隊に所属する空挺兵たちだ。彼らの任務はシンプルだ。プエルト・バリオス攻略に失敗し、散り散りになったベルカ兵の捕捉及び排除。この付近のジャングルには彼ら以外にアメリカやイギリスの空挺兵たちが同様の任務にあたっていた。数の上では劣勢ではあるものの、ジャングルや市街地でのゲリラ戦は彼らが最も得意としている領域だ。

 一方で、ベルカ軍は明らかにジャングルでの戦いに慣れていないのが、その動きからわかった。

 だからこそ、空挺部隊の彼らにとってみてベルカ兵は「いい的」でしかなかった。


「まるで、素人集団ですね」

「実際、素人が大半だろうな。たいした訓練もしないで前線に放り込んでいるんじゃないか?」


 そう言って空挺歴の長いベテランの軍曹はすでに事切れているベルカ兵たちをみる。

 指揮官以外は総じて若い。おそらく、徴兵されて間もない新人ばかりなのだろう。同様の報告は他の部隊からも聞かれていた。敵軍は経験の浅い若手兵士を大量に投入していると。


「テロリストを相手にするに比べたら楽だったわけですね」

「数はテロリスト以上だがな。次の場所へ行くぞ、まだまだ敵はいるかな」

「了解」


 空挺兵たちはすぐに次の場所を目指すためにジャングルの奥へと戻っていく。





 同じ頃。太平洋側の平野部ではエルサルバドル側から進軍してくるベルカ軍に機甲部隊に対して、アメリカ陸軍を主体とした連合軍が自走砲やロケット砲による砲撃を行っていた。幾つも用意された砲兵陣地から次々とベルカ軍へ雨のように打ち込まれる砲弾の数々。それによって生じた爆発音や噴煙は更に後方にある防衛陣地からもしっかりと確認することができるほどだった。


「敵はやはり山は避けているようだな……」

「首都近辺は標高が1500mを超える高地。機甲部隊を全力で動かすには少しむずかしい場所ではあるな。それでも、旅団規模の兵力がハイウェイを北上しているのは確認されている」

「首都の防衛は?」

「第11山岳師団がやっている。高地での戦いなら彼らの右に出る者はウチにはいないさ」


 防衛陣地に築かれた前線司令部でモニター越しに戦闘の状況を確認しながら話をしているのは、この防衛陣地の指揮官であるアメリカ陸軍の大佐と副指揮官のカナダ陸軍大佐だ。続々とアメリカ本土には日本や中華連邦から派遣されてきた部隊の装備が人員が到着しているが、彼らが前線に入るのは6月以後になる予定でそれまではアメリカ・メキシコ・カナダの3国が連合軍の中心だが、実質その戦力の大部分はアメリカに依存していた。

 兵力の面ではメキシコもかなりの部隊を派遣しているが、メキシコ陸軍は国同士の正面衝突というよりはマフィアなどの武装勢力との戦いを想定した軽歩兵部隊を主体としているので、戦車などの機甲戦力は実はカナダよりも少数なのだ。そのため、この戦域での中心はアメリカとカナダ軍でありメキシコ軍はカリブ海側や高原地帯に展開していた。


「しかし……こう、守ってばかりというのもフラストレーションがたまるものだな」

「仕方ないさ。正面きって戦うにはまだ戦力が不足している。6月になれば派手に暴れられるさ」


 現時点の連合軍は守りに徹していて積極的な攻撃を行っていない。一応、空軍よる空爆や、海軍のイージス艦などによる巡航ミサイルによる攻撃によって兵站施設やベルカ軍の軍事施設と思われる施設などを破壊はしているが、民間人への影響を極力排除するという方針のため本当にピンポイントの目標を攻撃しているだけだった。

 しかし、これも6月になり連合軍の規模が拡充されてからは変わることになっている。

 日本などの増援部隊の到着をもっていよいよ本格的な攻勢に出ることが決まったのだ。現場の指揮官からすれば「ようやく重い腰を上げたか」という思いだった。





「怯むな!ベルカ魂を見せてやれっ!」


 ベルカ連邦陸軍第4装甲師団第44戦車大隊の指揮官たる中佐は、戦車から身を乗り出すようにして無線機を通じ部隊全体を鼓舞しようとしていた。そんな、中佐の声をかき消すかのように砲弾があちこちに着弾し、それによって生じた爆風が彼が乗り込む戦車に襲いかかるが中佐は気にせずに、周囲の状況を伺うように視線をめぐらして、それを見つけた。


「正面。距離4000に敵戦車!先手必勝だ。そいつを狙えっ!」


 中佐はすぐに車内に戻り砲手に指示を飛ばす。

 ベルカ連邦陸軍の主力戦車「エルファン」ことBT-5は、42口径120mm滑空砲を搭載した彼らの世界の中でトップレベルの性能をもった戦車だ。装甲は複合装甲を採用しており、従来戦車に比べて防御力は大幅に強化された。自動装填装置は搭載されていないが、熟練の戦車兵にかかれば自動装填装置などなくても迅速な砲撃をすることができる。

 連合軍との幾つかの衝突によってベルカ側はようやく連合軍の主力戦車は自国の「エルファン」以上の性能を有していることを把握していた。特に厄介なのは正確無比な射撃能力だ。敵は的確に「エルファン」の装甲が弱い部分を狙って攻撃してくる。それは、歩兵が持つ対戦車兵器も同じだ。

 なにより、厄介なのは定期的に空からやってくる攻撃ヘリや対戦車用の無人機の存在だった。特に今のように殆ど遮蔽物がない中では空からの攻撃を防ぐ術はない。最悪、今は砲撃を優先しているのか上空にヘリコプターや無人機の姿は見えないがそれも時間の問題だろう。


「距離2000。弾種徹甲。目標敵戦車。撃てっ!」


 エルファンから発射された120mm徹甲弾は大抵の主力戦車の装甲を貫くことができる。

 しかし……


「て、敵戦車。健在」

「怯むな!次発装填急げっ!このままだとやられるぞっ!」


 ほとんど無傷であった相手に動揺する兵士たちに対して中佐は冷静に反撃の指示を出す。

 装填手はすぐに次弾の争点を行い。再度、砲手が照準をあわせるがその最中で敵戦車から砲弾が発射された。


「敵戦車は――」


 最後まで言い切る前に相手戦車の砲弾が直撃。弾薬と燃料に瞬時に引火して戦車は爆発した。






「1両やったからって気を抜くな。まだまだ敵は大量にいるんだからな」


 ベルカ軍の隊長車を破壊した戦車は、アメリカ陸軍の主力――M1戦車ではなかった。

 M1戦車に変わる主力戦車として5年前から配備が始まった「M20(愛称:パットン)」だ。

 M20は第4世代主力戦車にあたり50口径130mm滑空砲。自動装填装置。そして優秀な射撃指揮装置などが搭載されており、砲塔はコンパクトな無人砲塔が採用されている。エンジンはM1シリーズで使われていたガスタービンではなく、電気式のハイブリットディーゼルエンジンを採用し。M1よりも優れた燃費性能を持ち、より長期での作戦運用が可能となった。

 乗員たちはそれぞれヘッドギアを装着することで、車外に取り付けられた高感度カメラによって撮影された全方位の様子を瞬時に確認することができ、従来の戦車よりも迅速な対応ができるようになるなど「システム化」も進んだ。

 アメリカは長らく拡張性の高いM1を改良を重ねながら使用していたが、最大の敵国であるソ連や北中国が揃って第4世代戦車の開発に成功し、更に日本やドイツも同様に開発しているという情報を手に入れた陸軍が危機感を持って開発したのがM20だった。

 まあ、色々と最新のシステムやらを搭載した結果。他国と同様に開発費が跳ね上がり「M1」すべてを置き換えるだけの数を量産することができないのだが、逆にあまりにも高性能な装備ばかりを固めるのもリスクがあるということで既存の「M1」と併用させることで主にヨーロッパや極東を中心に配備される――予定であった。

 結局、その予定も今回の世界融合によって大幅に変わることが確定している。



「それにしても、こいつはいいですね。数時間動いても燃料がタンマリある」

「そりゃそうだ。ガスタービンなんていう大飯食らいはつんでないからな――そのぶん加速性能がいまいちだが」

「それでも十分ですよ」


 それまでの主力戦車だったM1は小型軽量で加速性能や登坂機能が高いということでガスタービンエンジンを搭載していた。しかし、最大の欠点が燃費の悪さであった。更に、高温の排気があるため市街地などでは歩兵が戦車の後ろに隠れることができず、更に吸気フィルターがデリケートすぎるなどという問題があり、アメリカ以外では運用に苦労する国が多かった。

 燃料タンクは燃費を考えて大容量のをつんでいるがそれでも、1日の作戦のために燃料補給を3回しなければならないほどだ。アメリカは大容量のタンカーを多数動員し、大量の燃料を供給し続けることで燃費の悪さをカバーしていたが、結果的に補給線の維持に多大な負担をかけていた。

 他国でガスタービンエンジンを採用しているのはソ連やフランスなどのごく一部の国だけだ。

 日本も、72式戦車の改良型として扶桑重工業がガスタービンモデルを検討していたが、兵站の問題があるため断念している。


「よし、次はあっちのヤツを狙え!」

「了解!」


 両軍による大規模な戦車戦はその後1時間にわたって続けられ、アメリカ主体の連合軍の圧勝で幕を閉じた。




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