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新世界は楽園なのか?  作者: 小野寺
第2章

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85/92

81:無人戦闘機

 新世界歴元年 5月17日

 ガトレア王国 ケルファ島 西方沖上空



 首都・キーファなどがあるケルファ島とその周辺の空域・海域では日本・イギリス・中華連邦・朝鮮連邦とガトレア王国軍による合同軍事演習が行われていた。


 この4カ国で合同軍事演習が行われるのは今回が初めてだ。ガトレア王国は7月に正式に太平洋条約機構(PTO:3月にアジア太平洋条約機構から名称を変更)に加盟することが決まった。イギリスも来月にはPTOへ加盟するため、この5カ国は同じ軍事同盟に所属することになる。国同士も近いため軍同士の連携を強める目的で今回の軍事演習は実施されていた。




 ケルファ島沖の太平洋上空では、現在5カ国空軍による領空侵犯を想定した訓練が行われていた。

 侵犯機役はガトレア王国空軍が運用している量産型無人戦闘機「GFA-110」が担当していた。

「GFA-110」はガトレア王国の大手軍事企業「ガーファ」によって製造された。完全自律行動ができる無人戦闘機だ。

「ガーファ」は戦車や装甲車に軍艦そして戦闘機などガトレア軍が使用している様々な兵器の製造を行っている会社で、日本でいえば四葉重工や帝国重工のような巨大重工メーカーのような会社だ。ガトレアは元いた世界でも屈指の技術国家と評されるほどに、高い科学技術力を持っているのだが特に人工知能の研究に関しては各国をリードしているほどに優れた技術を持っている。

 完全自律行動ができる人工知能も、ガトレアだからこそ開発できたといえるもので「テラス」では「GFA-110」以外に完全自律行動ができる軍用機は存在していない。


 相手が、完全自律行動ができる無人機であると聞いた4カ国のパイロットたちはその能力に当初懐疑的であった。完全自律行動ができる無人機というのは地球ではまだ研究段階であり、果たしてきちんと動けるのか?という考えが最初にきてしまったのだ。

 しかし、いざ対峙してみて彼らのそんな疑念は綺麗さっぱり消え去った。


「……無人機ってのは数だけだと思っていたんだがな。こいつはまるで違う」


 自身が放ったミサイルが回避されたのを確認してパイロットは小さく舌打ちする。

 もちろん演習なので本物のミサイルではないが、無人機くらい余裕だと思っていた当初と違ってパイロットは焦りとプレッシャーを感じていた。

 パイロットの名は武藤弘樹――日本空軍中尉で小松基地の第12戦闘航空団第534戦闘飛行隊に所属しているパイロットだ。彼が操縦しているのは日本空軍の主力ステルス戦闘機である3式戦闘機(FJ-8 愛称:震電)だ。300機ほどが製造された日本防空の要であり、優れた追尾性能をもった対空ミサイルである「05式空対空誘導弾」は、樺太紛争においてマリス連邦海軍の艦載機などに対して多大な戦果をあげていた。

 しかし、彼がデータ上で発射した05式を「GFA-110」は難なく回避したのだ。

 今回、演習に参加しているのは各国でも腕利きばかりだ。しかし、そんな腕利きの各国パイロットを「GFA-110」は終始翻弄していた。

 その要因は、無人機特有の機動によるものだ。人間ではとてもできないような機動は各国のパイロットたちを大いに困惑させていた。そもそも、地球のパイロットたちは完全に自律行動をとる無人機と対峙したことがない。地球でいうところの無人機というのは偵察用のドローンかあるいは、攻撃目的に無数に発射される攻撃型ドローンが一般的で、アメリカや日本など一部の国が完全自律行動をとる無人機の開発を進めているくらいだ。

 実は、日本はすでにプロトタイプを完成させており、試験結果も良好なのだが思いの外調達コストが高騰していることもあり、まだ量産化の決定はなされていなかった。


「……だが、対処ができないわけじゃない。こっちもAIの思考を上回ることをすればいいだけだ」


 武藤はそう呟くと一気に距離をつめるのだった。




「日本機のパイロットはかなりやれるな。まさか『エイフェル』を撃墜するとは……」


 ケルファ島西部にあるファーバント空軍基地で演習の様子を確認していた、ガトレア王国側の指揮官である准将はそれまで、地球各国のパイロットを翻弄していた無人戦闘機「GFA-110(エイフェル)」が日本の3式戦闘機によって撃墜判定を受けたことに驚き目を見開いた。

 エイフェルに搭載された人工知能には、これまで「テラス」で起きた多くの空戦データやガトレア空軍のエースパイロットたちの情報を学習させていた。無敵――とまでは言わないが、それでも何の対策もとっていない戦闘機相手には圧倒できるだけのスペックがあったはずだった。


「人間の底力というやつか……」


 いずれ、ガトレアでは戦闘機の半数が無人機で占められることになる。

 予算やコストなど、完全自律行動が可能な無人戦闘機の配備にはまだまだ多くの課題が残っているが、あと10年もすればそれらも解決していくだろう。当初は、有人機の大半を廃止するというなかなかにぶっ飛んだ案も出たほどだが、それはすぐに取り下げられた。

 どちらか片一方に偏った軍隊は、総じて脆いからだ。

 無人機と有人機をバランスよく保有し、状況に応じた戦力の投射を行う――これが現在のガトレア空軍の未来計画だった。




 少し離れたところでは、地球諸国の代表者たちはまるで自分のことように喜んでいる。

 それまでは、一方的に無人機に翻弄されている様子を悔しげに見つめているだけだったが、日本の3式戦闘機が一矢報いたことで元気を取り戻したらしい。

 ただ、その中で当事者である日本空軍の代表者は終始難しい表情をしていた。

 そんな、日本空軍の代表者――小林中佐に声をかける者がいた。

 イギリス王立空軍のジョンソン中佐だ。


「あまり喜ばしい顔をしていないようだね。コバヤシ中佐」

「これまでの結果を見たら素直に喜べないだろう?エバーソン中佐」

「それもそうだ……我々の考える無人機の概念を一気に塗り替える存在だった。あの『エイフェル』という機体は」

「完全自律行動の無人機――開発自体は我が国も行いプロトタイプでの試験も進んでいるが、量産化には多くの課題がある。一番の問題はコストの高さ、完全自律行動ができるAIはそれだけ大量の情報を必要としていて、その分製造コストが跳ね上がる。アメリカもその部分でつまずいてまだまだ実用化の目処がたっていないが……ガトレアはそんな我々の数歩先をいっている」

「ウチはまだ初期研究の段階だよ……どうしても、コストを考えると従来の遠隔操作による攻撃あるいは偵察が主流になる。そもそも、戦闘機を無人化する理由すらうちの国では疑問になっているほどだ」

「我が国もそうだ。慎重な対応が求められる領空侵犯対応に無人機をあたらせられるのか、どうかといった疑念は根強い」


 地球の中で無人機の開発が進んでいるのはアメリカ、日本、そして北中国だろう。

 アメリカは海軍を中心に無人補給機や攻撃機が実際に配備されているし、日本も補給機に関しては数年前に海軍で配備が始まっている。北中国は近年急速に無人機の製造を加速化させており、こちらも数年前に自律行動も可能な無人攻撃機の配備を始めていたが、戦闘機に関してはアメリカが「F-56」という空対空戦闘も対応した無人攻撃機を実戦配備しただけだ。

 どの国も、完全自律飛行ができる人工知能の開発に苦戦している。従来の遠隔操作ではどうしてもタイムラグがあるので狙った通りの動きが出来ない。だから、固定目標に対しての攻撃機やあるいは長期間飛行し続ける偵察機としてのほうが需要は大きいのだ。

 まあ、そもそも今の時代。大国同士の戦闘機が空戦をする機会すらないのも大きい。どこの国も異様に高価になった最新の戦闘機を壊したくないのだ。



「だが、この『エイフェル』の存在で一気に状況は変わりそうだね」

「ああ。上は確実に自律行動可能な無人戦闘機の研究を加速させるだろう。量産化の目処がたてばすぐにでも量産化させる可能性もあるな」

「すでに、動かせるだけの実機を持っているのは羨ましい限りだねぇ。データをくれないかい?」

「……それは専門部署同士で話し合ってくれ。私の一存で決められるわけがない」

「まあ、そうだろうねぇ……でも、この分野で一番研究が進んでいるのは間違いなく日本だ」


 そう言って目を細めるエバーソン。

 得られるものがあるならば、様々な手段をとっても得る――それが大英帝国であった。




 ガトレア王国 ケルファ島西方沖

 日本海軍 護衛艦「最上」



 無人戦闘機相手に激闘を繰り広げている空域から200キロ以上南下した海域では海軍の演習が実施されていた。今回、帝国海軍から派遣された艦艇は4隻。ミサイル駆逐艦「島月」汎用駆逐艦「秋霜」護衛艦「最上」原子力潜水艦「熊本」だ。

 このうち、護衛艦「最上」は対潜水艦演習に参加していた。

「最上」は「最上型護衛艦」のネームシップで新潟を母港とする第14護衛隊に所属していた。ガトレア王国海軍のフリゲート艦が出現した際には新潟から現場へ急行して佐渡への案内役を務めたこともある。

 最上型護衛艦は、帝国海軍の主力護衛艦だ。満載排水量5600トン。全長145m。全幅17m。機関はガスタービンとディーゼルのハイブリッドで武装は、127mm速射砲が1基。VLSが32セル。4連装対艦ミサイル発射機2基。4連装短魚雷発射管2基。1機のヘリコプターを搭載している。

 帝国海軍以外にオーストラリア、ニュージーランド、インドネシア、ベトナムなど20カ国以上の海軍で準同型艦が採用されていた。



 ガトレア海軍の潜水艦を敵役とした対潜演習。

 最上は、ヘリやソナーを使って潜水艦を探索していた。


「ソナー。反応は?」

「いまのところは……いえ、微弱ですが……別の反応があります。方位は320」

「すぐに、ヘリを向かわせろ――残っているのはもうウチだけだからな」


 演習が始まって1時間あまり。ようやく、目標となる潜水艦をソナー員が見つけた。

 友軍の朝鮮連邦と中華連邦のフリゲート艦は共に撃沈判定を受けている。

 当然、演習なので実際にミサイルや魚雷が使われたわけではないがガトレアの潜水艦は一気に2隻のフリゲート艦を沈めた。

 どちらも、潜水艦の位置を探索している合間のことだ。

 ほどなくして、艦載ヘリが目標地点に到着する。

「最上」が搭載している03式哨戒ヘリコプター(SHJ-5)は、91式哨戒ヘリコプターの改良型だ。機体ベースは一緒だが電子機器やエンジンなど多くの部分で改良が入り、航続距離や兵器搭載量が増えより長時間の哨戒飛行が可能となった。


「『ウミネコ』が敵潜水艦を確認!攻撃の許可を求めています」

「攻撃を許可する」


 もちろん訓練なので実弾は使わないが、これが実戦ならばヘリから短魚雷が発射された。





 ガトレア海軍 潜水艦「バーレア」


 今回の合同演習に、ガトレア王国から参加した艦艇の1隻が「バーレア」だ。

「バーレア級潜水艦」の1番艦であり、機関方式は原子力ターボエレクトリック方式でさらに推進機にウォータージェットを採用した、非常に静粛性の高い攻撃型潜水艦であった。


「……完敗だな」

「ええ。2隻はやれましたが、やはり日本は一筋縄ではいかないみたいです」


 今回の演習で、バーレアは潜水艦を想定した訓練における目標艦として行動していた。もちろん、ただのんびり海中を動いているわけではなく、潜水艦側も実戦を想定した動きを行い。それによって中華連邦と朝鮮連邦のフリゲート艦2隻をシミュレーションの中で撃沈させている。

 最後に残っている日本の最上を攻撃しようとした矢先に、最上による攻撃によって敗れた。

 静粛性には自信があったのだが、最上は正確にバーレアの位置を読み取って攻撃してきた。


「噂には聞いていましたが……日本軍の練度は予想以上です」

「そうだな。どうやら、ついさっき空軍の『エイフェル』も日本の戦闘機に敗れたらしいぞ?」

「空軍ご自慢の無人戦闘機がですか?ウチのエースたちもかなり苦戦していたという話でしたが」

「それはそうだ。なにせ、アレに搭載されているAIは数百年分のエースパイロットたちの動きを学習されているからな。並大抵のパイロットでは太刀打ちは出来ないと、技術部の連中が胸を張ってたくらいだ。実際、演習でもほとんど圧倒していたらしいしな。最後の最後に日本のパイロットが『意地』を見せたらしいな――上は相当に慌てているだろうな。海と空。どちらにも日本相手に負けたんだからな」


 敵対しているわけでもないが、それでも同じ相手に二度も負けるというのはプライド的に面白くはないだろう。きっと、上層部は必死に日本に関しての情報を集めようとするはずだ。それに駆り出される情報部の面々に艦長は少し同情した。


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