表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新世界は楽園なのか?  作者: 小野寺
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/92

80

 新世界歴元年 5月14日

 日本帝国 台湾 台北市

 台湾州議会



 台湾に自治州が設置されたのは1950年。

 日本帝国に新たに「州」を設置する地方自治法が改正されたからだ。その1年前の1949年、台湾や樺太、南洋諸島を中心に日本からの独立の是非を問う住民投票が行われ、結果的に3つの地域すべてが日本帝国への残留を望んだ。地方自治法改正はこの住民投票の結果を踏まえて行われた。

 なぜ、台湾や樺太などで独立の是非を問う住民投票が行われたのかといえば、この3地域はいずれも日本領に組み入れられたのが近代に入ってからだった。台湾は1830年に。樺太は1870年代に南洋諸島の大部分は第一次世界大戦後に日本の統治下に組み込まれた。そして、いずれの地域も大和民族以外が住民の過半数を占めていた。

 日本政府は、これらの地域に多額のインフラ投資を行ってきたが仮に独立国家になったとしても自国に対して友好的な政権がたつならば、それでも構わないというのが当時の日本政府のスタンスだった。ただ、結果的にはいずれの地域も多くの住民が日本への残留を望んだ。

 3地域の投票率は9割に達していたが、そのうちの8割を超える住民が日本への残留を望んだのだ。

 当時の政府やメディアはかなり僅差の戦いになるだろうと考えていたので、この結果には驚いた。

 だが、大半の住民は独立するよりも日本のままのほうがメリットが大きいと判断したようだ。

 特に、小さい島々の集まりである南洋諸島は「ある程度の自治権さえ認めてもらえば独立するより日本にいたほうが開発もしてくれる」と考える住民が非常に多かったことが後の調査でわかっている。

 


 このような住民投票の結果を踏まえて当時の政府は、地方自治の大幅な改編を決め翌年に「台湾州」が設置されることになった。州は国からある程度の権限を移譲されているが、自治州は更に広範な部分の自治権が認められており。州独自の法律を制定することも許されていた。

 更に、自治州にはもう一つの特権があった。


 独立の是非を問う住民投票を定期的に実施できる特権だ。

 日本からの独立など他地域ならまず認められるものではないが、台湾・樺太・南洋諸島の3自治州は例外的に独立の是非を問う住民投票の実施が認められていた。とはいえ、そんなに頻繁に住民投票が行われているわけではない。樺太と南洋諸島では40年前を最後に実施していないし、台湾も最も最近に実施されたのは20年前で、その時も9割近い有権者が現状維持(つまりは日本残留)の選択をしている。

 そういった事情もあり、州議会や国会では与党を中心にこの特権の効力をなくすべきではないか?といった意見が定期的に出ていた。そのたびに、少数ではあるが一応存在する独立派が反発。与党側も意見は言うが実際になくした場合の世論の動きが読めないことと、そもそも優先順位は他の政策に比べれば低いのでそれを引っ込めるというのを何十年も続けていた。




「世界融合が起きて四か月たちました。ユーラシア大陸は分裂するなど、地域情勢は大きく変化しました。我々『独立党』は日頃から台湾の日本帝国からの独立を訴え続けており、そのために必要な住民投票は自治州が実施できる規定があります。しかし、最後に住民投票が行われたのは20年も前。それ以外の自治州に至っては半世紀も住民投票を実施していません。州政府は常に何かしらの言い訳を作って住民投票から逃げているようですが――世界融合などという大事件が起きた今こそ住民投票を実施し、住民の声を聴くべきではないでしょうかっ!」


 この日。州議会において一部議員が独立の是非を問う住民投票を実施を主張した。

 だが、大半の議員たちは壇上で住民投票の必要性を訴える議員のことを冷めた視線を向けていた。


「……『なにが住民の声を聴くべき』だ。一番聞いてないのはアイツらじゃないか」

「この前の知事選挙。独立系候補は全体の1%も票を得ていなかったから」

「しかも、連中が『情勢変化』を理由にあげるのも今回が初めてじゃないからな。去年も一昨年も似たことを言っていた」


 つい、1ヶ月半ほど前に実施された台湾州のトップを決める知事選挙。

 与党である保守党・民政党・改進党が支持する現職と。野党の進歩党・自由党などが推薦する元州議会議員の新人。そして、台湾独立派の新人など5人の争いとなったが多くのメディアは与党系の現職と野党系の現職の一騎打ちだと報じていた。結果は、知事として特に大きな失政をしていなかった現職が圧勝する形で終えている。そして、台湾独立派の新人候補は最下位で落選しており得票数も1%いくかどうかという大敗だった。

 それでも、独立派は定期的に住民投票実施を訴えており、議員たちの間では「初夏の風物詩」などと揶揄することもあるほどだ。20年前には中間派や野党勢力が賛成にまわったことで住民投票は実施されたが、現在はその中間派や進歩党などの野党勢力も住民投票の実施には否定的だった。

 彼らが否定的になった理由は、独立派そのものが海外の工作機関の支援を受けているという疑惑があるからだ。確実な証拠があるわけではないし、独立派も否定はしているものの。否定を裏付ける証拠もなく、更に北中国系企業が実際に献金などをしていることが事実で持って報じられたこともあったため独立派に対しての風向きはここ10年で非常に強いものになっていた。

 なので、独立派が定期的に提出する住民投票の実施は反対多数で否決されるのが常であった。

 今回も、独立派以外の会派が反対に回ったことで否決された。




 提出した議案が否決された独立派の議員たちは苦々しい表情で控室に戻っていた。

 議会では日本語を話すが、それ以外の場所で独立派は中国語を主に使っている。曰く「日帝の言語を公用語として使うなど恥だ」というのが理由らしい。ただ、彼らが使っているのは台湾なまりというよりは大陸――それも北京系に近いものだ。

 そもそも、独立派というが彼らの多くは中国大陸から台湾へ移ってきた二世や三世が中心で、より古い時代から台湾で生活しているわけではなかった。むしろ、長くから台湾に暮らしている住民ほど日本のインフラ投資のおかげで地元が豊かになったので日本の統治下にいることを歓迎している住民が大半だった。

 中には、日本にいい感情をもっていない先住民族などもいたが、日本政府が先住民文化の保護などを行っていることを評価してか、今は日本統治に対してそれほど強い不満を持っていはいなかった。



『日帝の狗どもめ……なぜ、理解できない。台湾が真の国として独立できるチャンスをなぜ自ら放棄しようとしている』

『これも日帝の策謀に違いない。独立を認める等と口では言うが実際にはそうはさせないように根回しを完璧にしているのだろう』

『ならば、すぐにでもその事実を世間に広めなければな。そうすれば、世論が味方をするはずだ』


 もちろん、そんな証拠あるわけがないのだが。自らの掲げる独立論こそが唯一なのだと信じている彼らにとっては、それに反発する者たちすべてが日本政府による工作だと思いこんでいた。

 彼らは焦っていた。

 独立派は否定しているが、実のところ彼らはソ連や北中国の支援を受けてこれまで活動してきた。しかし、融合によってこれまで行われていた資金面の支援が一切なくなっていた。近年は特に独立派への風当たりが厳しいものになっていたので、両国の支援が彼らにとっての命綱となっていただけに融合によってそれらの支援が一切なくなったのは、今後の活動を継続するのも難しいことを意味していた。


 ちなみに彼らにとって「日本から独立する」のが第一であってそれから先のことはあまり考えていない。少なくとも独立国家となれば同じ民族である南北中国のどちらかに取り入れば問題はないと楽観的に考えている部分があった。まあ、だからこそ北中国は彼らを支援したのだろう。各地に存在する「都合の良いコマ」という形で。

 

 


 台湾州庁 知事執務室



 台湾、樺太、南洋諸島の知事は他の州知事に比べて多くの権限を国から与えられている。

 自治州の中で限定すれば知事が首相のようなものというべきだろう。

 現在の州知事は 李晴久。

 現在3期目に入ったばかりで、知事になる前は参議院議員を2期務めていた。国会議員時代は保守党に在籍しており、知事選も保守党・民政党・改進党という国政与党の推薦を受ける形で戦い当選していた。特に、3期目を目指した先月の選挙では野党系の候補に圧勝していた。


「最新の世論調査で独立支持はどれくらいある?」

「3%ほどですね。この数ヶ月の中では最も高いですが、住民投票の提出はまさかこの世論調査を参考にしたのでしょうか」

「いや、それはないな。やったところで負けるのは連中でもさすがにわかっているだろうからな……」


 李の質問に秘書は手元にある資料を確認して答える。

 実際には、独立派議員は投票をやれば自分たちの思い描く結果になると思い込んで提出しているのだが、独立派がそこまで極まっているのだとは李も、そして議会の多数の議員たちも思ってはいなかった。普通に接する分には独立派はごく普通なのだ。

 しかし、独立に絡むと彼らの言論はほぼ全て「日本帝国の陰謀」に収束するように狂っているのだ。

 もっとも、独立派も最初はそこまで狂ってはいなかった。彼らが狂い始めたのは実際に実施された住民投票で圧倒的多数が日本残留を望んだという投票結果を見てからだ。自分たちの理想の結果と大きく乖離していた結果に、彼らの多くは失望した。やがて、誰かがこう言いだしたのだ「これは日帝の工作に違いない」と以後。独立派は自分たちにとって都合の悪い事が起きると全て日本政府が秘密裏に工作を行ったに違いない、と信じるようになった。

 独立に囚われた狂信者たち――それが、台湾独立派の正体だった。


 まさか、独立派がそこまで狂っているとは思いもしない李は「来年あたりまた出てくるだろうな」と呆れたように呟いた。




 新世界歴元年 5月15日

 アメリカ合衆国 ワシントンD.C.

 ホワイトハウス



「――本格的に日本軍の部隊が前線に投入されているようだな」

「ええ。先日のグレナダに続き、昨日は空挺部隊が前線に投入されました。主力部隊の到着はもうしばらく掛かりそうですが。1個軍団規模がきますので、今後は本格的な反攻ができそうです」


 そう言って微笑むのは国防長官のピート・アンダーソン。

 元陸軍少将であり、現役時代は在中・在朝陸軍に勤務しており日本や中華連邦などアジア諸国の軍関係者と太いパイプを持っていた。さらに、ヨーロッパにも勤務した経験がありバランス感覚も優れているという理由からルーベンスはアンダーソンを国防長官に指名した。

 ちょうど、ルーベンスが大統領になった時は極東・中東情勢がかなり緊迫したものであり、ヨーロッパとの関係も前任者の高圧的な手法への反発からギクシャクしておりアンダーソンを起用することでアジア諸国との連携を強めると同時に、ヨーロッパ諸国との関係改善を重要視した人事であった。

 結果的にヨーロッパ諸国との関係は元通りにはならずとも、前任者時代に比べれば改善しているし日本や中華連邦といったアジアの同盟国との関係もより密接なものになっていた。


「これから、中国に朝鮮の部隊がくれば相手を一気に押し返すことはできるということだな」

「断言はできませんが……少なくとも今より状況はよくなるのは確実でしょう」


 アンダーソンが断言を避けたのは、戦争に「絶対」はないということをよく知っているからだ。

 もちろん、聞いたルーベンスも戦争に「絶対」がないことは理解している。理解はしているが、こんな面倒な戦争はさっさと終わらせたいという本心が口から出てしまった。


「――太平洋艦隊に配備された最新鋭空母『エンタープライズ』が昨日よりメキシコ沖に到着しました。先に任務にあたっている『キティホーク』と交代で今後は地上部隊の航空支援を実施する予定です」


 エンタープライズは昨年太平洋艦隊に配備された新鋭空母「エセックス級」の2番艦だ。

 エセックス級は現在の主力空母であったヨークタウン級を更新する目的で5年前から配備が行われている新型空母で、核融合推進や電磁カタパルトといった新技術を投入している。

 艦載機はF/A-18と最新鋭のF-35C。そして無人戦闘機「F-56」などが搭載されていた。

 F-56は昨年、実戦配備が始まった世界初の無人艦上戦闘攻撃機であり空母や地上基地による遠隔操作でもって従来の戦闘機と同様の任務を実施することができる。将来的には搭載されたAIによる完全な自律行動を目標にしていた。

 今回は空対空戦闘よりは地上や洋上目標への攻撃任務に主に使われていた。


「本日は、『F-56』を用いた兵站設備への攻撃を実施。目標施設の破壊に成功したとのことです」

「例の無人戦闘機か――噂によるとガトレアではAIによる完全自律行動ができる無人戦闘機がすでに量産されているという話だが」

「事実のようです。現地の駐在武官も確認しています。今後、ガトレアでは有人機と併用して空軍機の半数を無人機にする計画もあるそうです」

「人工知能の分野ではガトレアが我々より圧倒的に先へ行っているということか」


 アメリカなどの地球の先進国でもこの10年で人工知能の能力は大幅に向上している。

 だが、まだ完全自律行動ができるまでのレベルには達していなかった。自分たちよりも優れた技術力を持つ国が近くにある――そのことに、ルーベンスは複雑な気分になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ