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新世界は楽園なのか?  作者: 小野寺
第2章

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78:島嶼奪還作戦2

 新世界歴元年 5月6日

 カリブ海南部 グレナダ沖

 強襲揚陸艦「ガンビア・ベイ」




 今回、グレナダ奪還作戦の中心となっているのがアメリカ軍の第42両用即応群である。

 これは、海軍の揚陸艦戦隊と海兵隊の海兵遠征部隊によって構成された水陸両用部隊でありカリブ海方面を担当する第4艦隊と第6海兵師団によって構成されている。今回は、それに日本海兵隊の第1海兵師団の1個中隊がアメリカ海兵隊の指揮下に加わっていた。


「――作戦は順調に進んでいるようだな」

「ああ。司令部という頭を潰したことで相手はずいぶんと混乱している。とはいえ、全土を平定できるまでにはそれなりの時間がかかるがな」


 作戦司令部が置かれている強襲揚陸艦「ガンビア・ベイ」の艦内で海軍と海兵隊の指揮官同士がグレナダの地図を確認しながら言い合う。

 陸軍のレンジャーによる司令部制圧とほぼ同時間帯に、日米海兵隊は島の複数地点に上陸を行い一部部隊はベルカ軍と小規模に衝突している。衝突したベルカ軍の部隊はいずれも小規模な偵察部隊であり、武器は小銃などの小火器くらいしかなかったので日米連合軍によってあっさりと撃退された。

 ベルカ軍の一部は形勢不利を悟って体制を立て直すべく内陸へ後退している。グラナダの内陸部は山岳地帯なので、山岳地帯に逃げ込まれると完全に鎮圧するまで相応の時間がかかりそうであった。

 ただ、すでに相手の指揮系統を破壊することは成功しているので両名ともに、そこまで焦りはなかった。もう、島を奪還するのは時間の問題だ。

 だが、ここを解放してもまだ占領されている島は多くある。それらすべてを解放していくにはかなりの時間がかかることが予想された。特に、この地域で最も大きいトリニダード島の奪還には現有戦力だけでは確実に足らないだろう。

 だからこその、日本やイギリス軍の投入なのだ。ペンタゴンではずいぶんとこのことで揉めていたらしいが現場指揮官である彼らにとってはこの上ない増援といえる。特に、日本軍の投入は現場の戦力を一気に上昇させるものなので、現場にとっては喜ばしい以外の感想はなかった。




 グレナダ 北部 山岳地帯



 島の北東部で監視任務にあたっていた偵察小隊は軽武装だったこともあり、上陸部隊に対して積極的に攻撃を仕掛けるのではなく体制を整えるために内陸の山へ退避していた。ただ、弾薬は少なく食料も数日分しかないのでいつまでも山で潜伏するのは難しかった。


「……司令部や友軍との通信は回復しないのか?」

「はい……一切反応がありません」


 無線機を担いでいる兵士は小隊長の問いかけに青褪めた顔で首を横に振る。

 彼らの部隊の役割はその名の通り偵察任務だ。前日も、その任務を忠実に守っていて、接近してくる無数の舟艇を発見した彼らはすぐにそのことを司令部に報告しようとしたのだが、その時点で司令部と通信はできなくなっていた。実は、この時点で司令部はアメリカ陸軍のレンジャー部隊による強襲を受けており更に島全域にわたって通信妨害が行われていたのだ。


「まさかもう、司令部は……」

「バカッ!滅多なことをいうな」

「す、すみません」


 終始不安そうだった新人が最悪のことを口にするが、隣にいた先輩に注意され顔を青褪めさせながらペコペコと頭を下げる。

 山に逃れてから数時間だが、このような極限状態を経験していない新人にとってはその数時間でさえ耐えられないものになっているようだ。この部隊は比較的若い兵士が多く配属されている。今回が初実戦という新兵の割合のほうが多いほどだ。

 そして、初実戦である今回――彼らは殆ど戦闘をせずに島を占領していた。一部で戦闘は起きていたようだが少なくとも彼らの部隊が直接戦うことはなかったし、一部の戦闘も軽いもので相手はすぐに降伏している。なので、今回が彼らにとって初めての本格的な戦闘になる。


 なぜ、新兵メインの部隊がカリブ海に投入されたのだろうか。理由は簡単だ、実戦部隊の大半を中米方面に向かわせていてカリブ海の島々には直前に徴兵された新兵が中心の予備部隊が投入されていたからだ。


(はじめの頃とは大違いなほどに士気が下がっているな……)


 侵攻当初は結果も出ていたので士気は高かった。だが、その士気はこの数時間で一気に低下していた。無理もない。これが言うなれば本当の「戦場の空気」なのだ。どこから敵がやってくるかわからない極限状態を多くの新兵たちは経験したことがなく、完全にその場の空気にのまれていた。

 先程から頭上を甲高いジェット機特有の音が聞こえてくる。相手は、どうやら戦闘機まで持ち出し攻撃しているようで時折、爆発音も聞こえてくる。もしかしたら、友軍部隊が攻撃を受けているかもしれないが、彼らにはどうしようもないことだ。


(食料はもって2日……それ以上はこの山の中で確保するしかないが)


 新兵たちは戦場でのサバイバル訓練も一切受けていない。食料を調達するように命じてもどこで調達すればいいかわからず右往左往するのが目に見えていた。このまま、敵の前に出て投降するのが一番なのでは?と小隊長は考えてすぐにその考えを振り払う。

 だが、彼らの動きはすべて上空にいる偵察用ドローンによって筒抜けになっていた。



(……なにかおかしい)


 数十分後。小隊長は異変を感じた。

 森の雰囲気が先程までと変わったように感じたのだ。しかし、異変を感じたのは小隊長だけのようだった。試しに近くにいた年長の曹長にたずねてみたが、彼は首を傾げながら特に異変を感じないと返している。極度の緊張状態にある新兵たちはそもそも周囲を気にする余裕はなかった。


「すまないが、様子を見てきてくれないか?」


 小隊長は自身の直感を信じて近くにいたベテラン兵士を偵察に向かわせた。

 数分後。兵士は血相を変えて戻ってくる。その時点で小隊長は自身の直感が悪い意味であたったことを察した。


「か、囲まれています。まわりは敵兵だらけです」


 森の雰囲気が変わったように感じたのは敵兵が接近しているからだったようだ。

 小隊長はここで選択を迫られる。このまま敵兵と戦うか、それとも投降するか。

 答えはすぐに出た。


「……投降する。全員武器を捨てろ。そして白い布を木の枝につけるんだ」

「し、しかし……」

「今の俺達の装備では戦ったところで壊滅だ。それより投降したほうがはるかにマシだ。こんなところで無駄死にはしたくないだろう?」


 渋る兵士に小隊長は淡々と勝ち目がない戦いをすべきではないと返す。

 すると、不安げな表情を浮かべていた新兵たちがどこかホッとした表情を浮かべた。小隊長がもし突撃を命じていれば彼らは絶望の表情を浮かべながら命令に従ったかもしれないが、小隊長にはそこまでの自殺願望はなかった。これが、ある程度愛国心がある者ならば部下に突撃を命じ、自分も敵兵に突っ込んでいたかもしれないが、この部隊の小隊長はある意味で理性的であった。


 


 中央アメリカ パナマ共和国 パナマ市

 ベルカ連邦軍 第14軍団 前線司令部



「カーチス島との通信が途絶した?」

「はい。おそらくは敵の攻撃を受けたのかと」


 カーチス島はグレナダ島のベルカ語における名称だ。

 ベルカは占領した小アンティル諸島を「アドミランティ諸島」と名付け、島々にはベルカ軍で大きな戦果を残した将軍たちの名前をつけていた。カーチスの名も、帝政時代のベルカにおいて領域拡大を成し遂げた将軍の名からつけられていた。


 副官からグレナダとの通信が途絶したという報告を受けたベクター中将は特に驚きはしなかった。

 というのも、島々の占領を担当していた第152歩兵師団は今回の戦争で急遽編成された予備役を主体とした部隊であり部隊の練度そのものが低かったからだ。占領地の統治をするには十分と判断されたが、いざ実戦となれば満足に戦えるだけの力を持っていないことは最初からわかっていたことだ。


「これで、アドミランティ諸島の北半分が敵に奪われる形になりましたが、如何しますか?」

「アドミランティ諸島へまわせる戦力は?」

「ありません」


 ベクターの問いかけに副官は即答した。

 ならば、いちいち自分に聴くな、とベクターは内心ため息を吐きながらしばし考え込む。

 ベルカが中米に侵攻をはじめて4か月。この時になってようやくベルカも自分たちが対峙している相手が相当な大国であることを理解してはいた。ベルカは追加で更に2個軍団を投入して物量でもって占領範囲を広げているが制空権と制海権はほぼアメリカが握っている状況なので最近は物量で押し切ることも難しくなっていた。


「海軍の協力は得られるのか?」

「第3艦隊が壊滅して以後、海軍はあまり積極的ではありません。おそらくは、貴重な機動部隊の喪失を恐れているのかもしれません」

「海軍の支援がない中で援軍を送るのは自殺行為だが……仕方ない、予備部隊の第325歩兵旅団をアドミランティ諸島へ向かわせる」


 このまま、占領地の島を見捨てたとなればベクターの責任問題になる可能性もある。

 それを避けるためには予備部隊を現地に派遣するしかなかった。これまた実戦経験が皆無な徴集兵を主体とした部隊だが、派遣しないよりはマシだろう。


 なお、海軍は第3艦隊が壊滅してからは積極的に動かなくなった。高い金を出して建造した空母をこれ以上減らしたくないという思惑と、ベクターの「余計なことをするな」というのを海軍上層部はよほど根にもっているようで「ならば陸軍が勝手にしろ」というスタンスのようだ。

 まあ、仮に海軍がこれまで通りの活動をしていたとしても早々に戦力を目減りさせていただろう。それだけ海に関しては向こうのほうが戦力が整っていた。


「――それで、敵に関しての情報はまだつかめんのか?」

「現時点でわかっているのは国の名前と、この大陸の北にある大国ということだけです」


 ベルカが現時点で得られているアメリカの情報は国の名前と大陸のどこに国があるかだけだ。

 それ以外の情報は一切掴めていない。少なくとも、軍事力は相当なものだというのはわかるが具体的にどの程度の規模なのかはわかっていない。情報部が人員を陸路でもってアメリカに送り込んでいるので、もうしばらくすればある程度の情報がわかるかもしれないが前線から送られてくる兵器などの情報などを見るに、自分たちよりも相当に高い技術力をもった国だということがわかっている。

 この情報は、本国にも当然伝えられているのだが、本国からは「作戦継続」以外の言葉はなかった。

 一度はじめた戦争を容易に止められない――そんなプライドが働いているのだろう。



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