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 新世界歴元年 4月16日

 日本帝国 沖縄県 辺野古

 帝国陸軍・海兵隊 辺野古駐屯地



 九州と台湾の間にある数百の島々によって構成されている南西諸島。

 その南部分を占めるのが琉球諸島――現在の沖縄県である。

 マリアナ諸島のグアム島やサイパン島――あるいはカロリン諸島で開発されたリゾート島と並んで日本有数のリゾート地として、国内のみならず海外からも多くの観光客が訪れることで知られる沖縄。


 元々は、琉球王国という独立した王朝が存在していたが1600年代に鹿児島県を領有していた島津家による侵攻を受け、日本の一部に組み込まれた。琉球王朝はそのまま日本の貴族となり琉球諸島一体の領主となったが、その時から沖縄は日本にとって重要な防衛拠点だと考えられてきた

 現実世界での太平洋戦争でもアメリカ軍による大規模な上陸作戦が実施されたことで、民間人を巻き込んだ悲劇的な戦いが繰り広げられたが、こちらの世界でもアメリカは南方ルートを遮断するために台湾と共に沖縄への大規模上陸作戦を計画していたという。ただ、南洋諸島攻略がうまく進まずさらに攻略の要とされていた太平洋艦隊主力が壊滅したこと。戦争の旗振り役の大統領が退場したことも相まって、太平洋戦争で沖縄に大規模な攻撃が仕掛けられることはなかった。

 それでも、沖縄が日本にとって重要な防衛拠点であることは変わっておらず大規模な空軍・海軍・海兵隊――そして陸軍の基地が沖縄の各所に置かれていた。





 辺野古駐屯地は、市街地の只中にあって住民とのトラブルも起きていた本島中部・宜野湾市の普天間駐屯地に変わる陸軍第2空挺旅団及び海兵隊第5海兵師団の拠点として、さらに近隣の沖縄海軍基地に配備が予定されていた空母航空団の整備拠点としても使う基地として、1996年に名護市東部辺野古地域で建設されることが地元自治体などからの同意を得る形で決まった。


 ただ、建設予定地にはサンゴ礁など貴重な自然が多く存在していることから環境保護団体や環境政党である緑の党などによる大規模な反対運動がまきおこる。これは、海外の自然保護団体が大挙として来日してくるなど当時は大きな社会問題としてメディアなどでも一斉に報じられた。

 国は様々な環境保護策をまとめることで地元の理解を得ようとしたが、直後に行われた衆議院選挙においてこの問題が尾を引いたのか当時の与党(保守党)が大苦戦し、名護市も含まれた選挙区では基地反対派の候補が当選したほどだ。


 もっとも、この抗議活動は長くは続かなかった。

 政府や軍は粘り強く地元と交渉を続け、地元自治体や住民もまた基地の存在で新たな雇用などが生まれることを理解し、態度を徐々に軟化させていった。最後まで環境保護団体などは反発していたが、その団体や緑の党などが北中国やソ連の工作機関から多額の支援を受けていたことが週刊誌に証拠付きで掲載されると一気に潮目が変わった。

 それまで、彼らの行動を支持していた勢力はとばっちりを避けるために一斉に手を引いた。それは、海外の環境保護団体も同じだった。彼らもそれぞれ拠点としていた国で「ソ連から資金援助を受けているのでは?」という疑念をもたれたからだ。実際に資金援助を受けていた団体はあったこともあり、世界各地で環境保護団体などに対しての世論の目が厳しくなったのはこの頃だろう。

 結果的に、県議会などでも建設が認められたことから新基地建設は多少遅れたものの2000年から始まり、2010年に陸軍・海兵隊が共同使用する「辺野古駐屯地」として開設。普天間駐屯地に駐屯していたすべての部隊が移動したことに伴い普天間駐屯地は閉鎖され、跡地は地元自治体によって商業施設や住宅地といった形で活用されている。


 辺野古駐屯地には、大型機も余裕でもって離着陸できる3000m級の滑走路と2500m級の滑走路がそれぞれ1本ずつ整備された。これによって、普天間駐屯地では制限がついていた大型戦略輸送機も余裕をもって運用できるようになったので部隊運用は非常にやりやすくなった。

 また、こちらも市街地にあることで問題になっていた海軍のコザ航空基地(沖縄市)の機能が移転され、第8空母航空団所属機の地上拠点にもなっている。空軍は実働部隊は置いていないが、輸送機などが頻繁に訓練のためにやってくることから嘉手納基地の分屯基地の扱いを受けており、管理部隊が駐屯していた。さらに、海洋警備隊の航空部隊も置かれているので辺野古基地は陸軍・海軍・空軍・海兵隊そして海洋警備隊の5つの武官組織が基地としている全国的にも珍しい基地であった。



「――あれは、米軍のC-5か。あんなものをこっちに寄越すなんてアメリカが切羽詰まっているってのは本当だったみたいだな……」


 地元紙の記者をしている与那嶺は辺野古基地に着陸しようとしているアメリカ空軍の巨大な輸送機を撮影しながら呟く。

 C-5はアメリカ空軍が保有する最大の輸送機であり、戦車などの装甲戦闘車両はもちろんのこと航空機なども実際に輸送することができる世界最大級の超長距離輸送機だ。極東では、フィリピンの空軍基地に16機ほどが配備されており、日本の基地などにも年に何度か飛来してくる。

 その殆どは、日米演習に参加するアメリカ軍の装備品の輸送なのだがC-5に続いてやってきた日本帝国空軍のC-17Jや97式大型輸送機を見て、与那嶺はC-5は日本軍の装備などを輸送するためにやってきたのだと察した。


「すごいですね…アメリカや日本の大型輸送機が大集合だ。与那嶺さんの読み通りですね」


 普段の訓練でも見ることがない数の輸送機が続々と滑走路におりてくる様子に、一緒に取材に来ていた若手のカメラマンは目を丸くする。

 中央アメリカに軍を派遣するということをしった与那嶺は、沖縄駐屯の部隊も派遣されるだろうと考えていた。沖縄に駐屯している地上部隊は陸軍の2個旅団(第2空挺旅団・第33歩兵旅団)と海兵隊1個師団(第5海兵師団)だ。

 このうち、陸軍1個師団と海兵隊は全世界へ即時に展開できる即応性が高い部隊であり日本が参加する戦争には大抵一部かすべての部隊が投入されていた。

 残る1個旅団(第33歩兵旅団)。これは、沖縄防衛を主眼においている陸軍水陸両用部隊であり滅多なことで沖縄の外に出ることはない。

 第33歩兵旅団は那覇などの南部に駐屯しており、一方で第2空挺旅団や第5海兵師団は北部や中部に駐屯していた。普段ならば「どこの部隊が動く」という情報が漏れてくるのだが、今回は軍も警戒しているのかそういった情報は一切出ていない。


 与那嶺は迷いなく、辺野古へ向かった。

 辺野古は空挺旅団の拠点であるし海兵隊の空挺部隊も駐屯している。いち早く動きがあるのは辺野古しかなかった。実際、与那嶺と同じ考えを持った記者は多く居て彼の周りには数人の記者がカメラを構えていた。


「こりゃ、イラク以来の派兵規模になりそうだな」

「中米とヨーロッパどっちにも出すにしても本土防衛は大丈夫なのか?」

「陸軍は問題ないだろうが…問題は海軍だろうなぁ。今、動かせる空母の殆どが出払っている状態だし。これからも空母はかつかつじゃないか?」

「ああ、そうでもしないと船を出さないって船主協会が言ってるからな…」

「それは仕方がないがな。なにせ、どこもかしこも戦争だ。国際法があるかどうかもわからないこの世界で護衛もなしに船なんて出せないからな」



 帝国海軍は現在、原子力空母を8隻運用している。

 去年、9隻目の原子力空母が就役しているがまだ訓練途上なので実戦配備は出来ていない。その9隻目を除いた8隻の空母のうち、現在稼働状態にあるのは半分の4隻で、そのうちの3隻が現在日本から離れて行動している。

 樺太紛争で北方に展開していた「瑞龍」はヨーロッパ方面へ向かう船団を護衛するためにアラスカ方面へ向かっており、最新鋭空母である「翔鶴」は中東方面へ船団護衛に出払っており、今現在日本本土にいる空母は佐世保を母港にしている「蒼龍」しかなかった。

 その「蒼龍」に関しても、このあと定期整備を受けるために佐世保海軍工廠へドッグ入りする予定だった。その代わりに大規模整備を受け、実戦復帰に向けた訓練を行っていた「飛龍」が戻って来る予定だ。


 他にも軽空母や、軽空母として運用可能な強襲揚陸艦があわせて10隻以上いるとはいえ船主にとってみれば大型空母とイージス艦などが護衛についたほうが安心感がより強いということで「原子力空母の護衛がほしい」と国防省に要望を送り続けている状態だ。当然ながら、国防省や海軍はこのことに頭を抱えている。幸いなのは、今のところマリス連邦以外に日本に対して敵対的な行動をしてきそうな国が存在しないことだろう。マリス連邦も政権が変わったようなので、1月のような事態にはならないかもしれないが引き続き軍は北方の警戒を続けていく予定だという。

 まあ、戦争を仕掛けてきた国のことを安易に信用できるわけがないので当然といえば当然のことだ。



「しかし、本当にこれからどうなるんですかねぇ」


 若いカメラマンがボソッと不安げな表情で呟く。

 彼が不安な気持ちになるのは無理もないだろう。特に、ここ5年ほどはただでさえ極東情勢は不安定化され「第三次中華戦争」かそれとも「日中戦争」が勃発するのでは?といった危機感が強まっていた。

 いずれも、米ソ。あるいは米中の関係が極限までに悪化しているため第三次世界大戦の引き金になりかねないと警鐘を鳴らす専門家が続出していた程度には全面戦争に近い状態だった。

 米ソ・米中の全面戦争の危機は今回の世界融合の結果低くなった。

 日本もソ連や北中国という脅威が融合によって消えた。

 だが、全く違って意味で「第三次世界大戦」の危機は残っていた。

 融合によって新たな隣人となった異界の国家によってだ。すでに、中米・ヨーロッパで大規模な戦争に発展し、結果的に日本はそれに巻き込まれることになった。日本だって、樺太が軍事侵攻を受けている。

 融合前と融合後の近いは、戦争を回避するための外交交渉が異界相手には出来ないことだ。融合前ならば、冷戦が始まって80年以上経っていることもあり双方に専用の窓口があり、全面衝突が起きそうになる前に話し合って妥協点を見つけることで全面衝突を避けることはできた。

 だが、異界の国相手ではそれは出来ない。

 なにせ、一切の情報がお互いにないからだ。相手が好戦的だった時点で戦争は確定となってしまう。それが、ギリシャでありパナマであり、そして樺太であった。

 今の状態のほうがよほど「第三次世界大戦」といっていいかもしれない。



「さぁな……ただ、俺達のような記者がやれることは『真実』を伝えることだけだろう。変なフィルターをかけないで見るしかねぇな」


 組織人の時点で難しいけどな、と付け加えて苦笑する与那嶺であった。


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