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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第38話 人はパンのみに生きるものにあらずだけど、パンがなければカツ丼を食べればいいじゃない

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えきまえ緑のひろば 1

 

 朝石駅前、東側のほうに広がる「えきまえ緑のひろば」。


 まんなかを突っきる幅約八十メートルの道路はふだんは歩行者や車イス専用通路。イベントのときのみ両わきの芝生のスペースとセットで「えきまえ緑のひろば」と告知される。

 これが地元以外の人には分かりにくいらしく、地域課にいたころなんどか場所を聞かれたことがあるのを(まこと)は思い出した。


 イベント期間は一週間ほど。


 アイドルの推野 愛(おしの あい)がステージつきのイベントトラックで登場してトークとパフォーマンスを披露(ひろう)するのは初日の昼すぎの一時間ほどだ。

 緊張するが、けっして長い時間ではない。

 誠は気を引きしめた。




 イベント初日、午前七時半。


 道路使用許可を得たキッチンカーや屋台が警備課の署員に誘導されて歩行者専用通路に入る。

 ややしてから、ゴゴゴと大型車の地響きのような音が聞こえ、かわいらしいペイントのされた芸能事務所のイベントトラックが乗り入れた。


「お、お。推野 愛ちゃん、いるかな」


 同僚の八十島(やそしま)が、インカムを直しながら首を伸ばすようにしてイベントトラックのほうを見やる。

「出演は午後二時って話だから、あとから来るんじゃないかな」

 誠も同じようにインカムを直した。

「サインもらったら問題になるかもしれんけど、こっそり握手くらいできねえかなあ」

 八十島が目の上に手をかざしてイベントトラックのほうをさらに見やる。

 花織(かおり)とどこか発想が似てる気がすると誠は思った。


 イベントトラックのステージ部分のアオリはまだ開かない。


 トラックの内外でバタバタと動いているのは、事務所の職員かイベント会社のスタッフと思われる人々のみだ。

 


「推野 愛ちゃんは、あとから来るんじゃないかな。そのほうが安全だし」

「あー、んか。まあ忙しいだろうしな。人気ある子だし」



 八十島がざんねんそう頭をかく。

「おう、八十島もいたか。ちょうどいい」

 低音の声にふりむくと、スマホを手にした百目鬼(どうめき)がこちらに歩みよった。

「ごくろうさまです」

 八十島とともにあいさつする。

「あーごくろ。八十島もいたならちょうどいいわ。ちっと連絡事項と、あとおまえら二人に頼みごと」

「頼みごとですか?」

 誠は眉をひそめた。

 百目鬼がわざわざこういう言い方かたをするとは。よほど危険な場所の警備にでも回されるのだろうか。



「まずは連絡事項のほう。脅迫メールの発信元な、名前分かった。八村 匠実(やむら たくみ)。――酒々井(すずい)の関係者んなかでは、見たことねえ名前だな。年齢も二十三歳。若えから反社の舎弟ってのはたぶんないだろ。酒々井にくっついてるあのトンガッた兄ちゃんならともかく」



 茨木(いばらぎ)のことか。

 誠は思い浮かべた。

「では今回は酒々井は無関係……」

「まあ、その可能性のほうが(たけ)えのかな。この八村(やむら)とやらの動機わかんねえから断定できんけど」

 百目鬼がポケットからスマホを取りだす。

 画面をスクロールした。


「初動捜査班が住所のアパート行ったんだけどよ、もう空き部屋になってたんだとよ。管理してる不動産屋に聞いたら脅迫メールの直後に退去したってな」

 

「では現在は行方不明……」

 誠はそう応じた。

「初動捜査班が不動産屋から写真借りて撮ったけど、五年もまえのスナップ写真らしくてちっとな。――ま、このへんはあとであらためて一斉メールするからよ」

「あ、はい」

 誠はそう返事した。


「んで俺ら二人に頼みごとのほうは何すか?」

 八十島が尋ねる。


「ああ……」

 百目鬼が宙を見上げる。

 なにか言いにくそうにも見えるが、よほど危険な位置の警備なのか。


 周囲は、キッチンカーがつぎつぎと乗り入れて準備をはじめ、誘導のピッという警笛の音と業者の行き来する様子でさわがしくなりはじめた。

 あのなかにすでに八村 匠実が刃物を手にまぎれているかもしれないのか。

 誠は人々を見やった。


「あーいや。おまえら戦隊ヒーローって好き?」

 百目鬼が何となく言いづらそうに問う。


「え?」

 誠は目を丸くした。

「子供のころ見てたくらいですが」

「俺もす」

 八十島が右手を上げる。

「まー、おまえらの世代はな。子供よりイケメン俳優めあてに奥さまがたのほうが見てたなんても言われてたあたりだが、それでも見てたなら何より」

「はい」

 誠はそう返事をした。

 百目鬼が、あさってのほうをながめる。


「例のアイドルが来たらよ、怪人が出てきてアイドル人質にとって、そこにご当地ヒーローが乗りこんでアイドル助けるっつうパフォーマンスがあるんだとよ」


「はい」

 誠はもういちどそう返事をした。

 親子連れも来るであろうイベントだ。ベタだがありがちだ。

「怪人かご当地ヒーローんなかに八村が入ってたらやべえじゃん。半分冗談のつもりでよ、ご当地ヒーローうちの若いのにでもやらせらんないすかって課長に言ったらよ」

 百目鬼が、いったん息をつく。


「これがあっさり通っちまってよ」

「え」


 誠は口もとを引きつらせた。

「ご当地ヒーローっすか?」

 八十島の声はうれしそうだ。なんでだ。

「イベント会社のほうも一時間ていどほかのバイトと変わるくらいならって、なんかこころよくな」

 百目鬼が頭をかく。

 


「つうわけでおまえら二人、ご当地ヒーローやってくれ」





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