警察署二階 刑事課 2
着信音が鳴る。
「ああ……俺のだ」
二人で一瞬目で音源をさがしてから、百目鬼がキャスターチェアにかけた上着のポケットをさぐる。
スマホの画面を見て、奇妙なふうに顔をしかめてから通話に応じる。
この顔はサイバー課かなと誠は思った。
「──おう、俺」
百目鬼がそうみじかく名乗る。スピーカー機能のアイコンをタップした。
「──ごくろうさまです。いちおうお耳に入れておいたほうがいいかと思いまして。ご存じかもしれませんが」
「おう、人見も横で聞いてる。──何だ」
百目鬼がスマホをデスクに置いて応える。
「──あ、人見くんいるんですか」
サイバー課の捜査官が返す。
自分がいては何かまずい話だろうかと誠は百目鬼に目で指示をあおいだ。
「──人見くん、どうでした? 報告書の写真のチョイス」
サイバー課の捜査官が問う。
誠と百目鬼は顔を見合わせた。
「──もちろんほかの衣装もかわいらしい写真がたくさんありましたので迷ったんですけれど、やはりグラビアなど見てる暇もない独身の男性捜査官も多いことですし、猥褻にならない程度の潤いは必要かなと」
百目鬼が肘をつき、無言でスマホを見る。
何となく相手にしたくなさそうだ。
「あのう……報告書の写真はサイバー課提供のものですか?」
誠は百目鬼の代わりに尋ねた。
「──生安さんから推野 愛ちゃんの画像あるかと問われましたので」
「ああ、はい」
誠は何となくあいまいな返事をしてしまった。
「サイバー課の女の捜査官からクレームつけられんかったのか、ちっと聞け」
百目鬼がスマホの画面を指さす。
直接しゃべりたくないのかと誠は苦笑いした。
「えと、そちらの女性の捜査官はだいじょうぶでしたか? クレームとか」
「──いえとくに。“かわいいー、お胸おっきー” って言ってましたが」
「……ああ、はい」
誠はふたたびそう返事をした。
サイバー課だけは署のなかでも空気が違う気がする。
考えてみれば水着姿の写真といっても、ムダに色っぽい感じではなく健康的な雰囲気の写真ばかりだ。
気にするほうがおかしいのか。
「──人見くんの感想、ちょっと聞いてみたかったんですよね。推野 愛ちゃんって人見くんの彼女にちょっと似てません?」
「え?」
誠は目を丸くした。
だれのことを言われているんだ。目を左右に泳がせる。
「そういう人はいませんが……」
「嬢ちゃんのこと言ってんじゃねえの?」
百目鬼がそう応じた。
「花織さん?」
誠は報告書にあった推野 愛の写真を思い浮かべてみた。
「……似てますかね?」
首をかしげる。
「背格好と黒髪ストレートなとこと、なんも考えてねえ感じのキャッキャした表情がちっと」
百目鬼がデスクに肘をつく。
「人見はあんま似てるとは思わんかったんだとよ。──つか、そもそも通話かけてきた用事はなんだ」
百目鬼がスマホ画面に向けて問う。
「──ああ、そうでした」
サイバー課の捜査官が落ちつき払った口調でそう述べる。
「──ご存じかとは思ったんですが、推野 愛ちゃんの事務所ですね。老舗の芸能プロダクションなんですが、まあああいうところは歴史的にどうしても反社とのつながりがあることがあって」
「ご存じだ」
百目鬼がそう返す。
「例の脅迫文のメール、発信元からどことどこに送られたか探ったんですが、関連会社のほうにも送られてまして。──この関連会社の親会社を調べたら、ちょっと気になる名前が」
「酒々井 令人か?」
百目鬼が応える。
誠は目を見開いた。
「──すごいですね、この情報だけで察するなんて」
「情報きれいにそろってんだろが。そんで俺のスマホにわざわざかけてくるってのは、どうせそのへんだべ」
百目鬼がそう答える。
「──スマホにかけたのは、外回り中かなと思ったからというだけでして」
サイバー課の捜査官が笑いをもらす。
「何だ、発信元はアイドルが目的じゃなくてあれへの怨みか?」
「──そこまでは分かりません。酒々井氏個人か酒々井氏の事務所のほうに怨みがあるとしても、傘下の会社のさらに関連会社のアイドルを脅迫するかなって。ふつうはこのくらいの関係性だと芸能事務所のほうにはあまり口出ししてるとは思えませんし」
「分かった。やつとどっかで鉢合わせする心づもりだけはしておく」
百目鬼が答える。
「──それでですね、つぎの報告書は制服姿とレトロスタイルのどちらがいいかなって人見くんの意見も」
「ああ、ほか。きょうは日勤か? 帰り気ぃつけてな。ごくろうさん」
噛み合わない会話を返して百目鬼が通話を切った。




