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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第38話 人はパンのみに生きるものにあらずだけど、パンがなければカツ丼を食べればいいじゃない

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えきまえ緑のひろば 2


「緑の鼓動! 森の息吹!」


 緑を基調としたデザインのヒーロースーツを着た八十島(やそしま)が、宙に向けてキレのいい手刀をくりだす。

 こんどはタカかワシのように両手を広げて、きれいな立ちポーズ。


「森林の守護神、オソカタグリーン! 緑を守るためここに見参!」


「あ……うん」

 (まこと)は、白い手袋をつけた手で拍手をした。

 こちらは赤を基調としたヒーロースーツだ。

 ご当地ヒーローには、主要な市の名前がつけられている。

 於曾方(おそかた)市は、山あいのほうの市だ。


 どちらのヒーロースーツを着るかは、じゃんけんで決めた。

 

「アサイシレッドもやってよー」

 八十島がノリノリでそう要求する。

「……べつに主催者のほうもそこまで求めてないだろうし。何かそれっぽく立ってりゃいいでしょ」

 誠は答えた。

 本音を言うと、恥ずかしい。

 ノリノリでやれる八十島があまり理解できない。



「え、うれしくない? 子供のころの夢がかなったっていうか?」

「……子供のころにかなってたら嬉しかったんだろうけど」



 誠はため息をついた。

 ヘッドギアは、ゴーグル部分が顔の真横まであるデザインなので思ったほど視界は悪くない。

 これはさいわいだ。

 ヒーロースーツは耐久性のありそうな素材なので、いざ立ち回りになったさいにもあまり破損を気にしなくてすみそうだ。


 駅の方角にあるポール時計を見る。

 午前十時三十八分。

 

 うしろに停められたイベントトラックのステージ部分のアオリはまだ開かない。

 アイドルの推野 愛(おしの あい)もまだ到着はしていないようだ。

 

「やっぱ、推野 愛ちゃんはギリギリに来て一時間でササッと撤収って感じか?」


 八十島がイベントトラックのほうをふりかえる。

「だろうね。そのほうが安全だよ」

 誠はそう応じた。



「おはようございます、人見(ひとみ)さん。ムチャクチャかっこよくなってどうしたんですか?」



 聞きなれたソプラノの声が耳にとどく。

 パーカーにミニスカートという私服姿の花織(かおり)がこちらを見上げていた。

「ぅわ……」

 気まずさでついおかしな声をもらしてしまう。

「かっこいいですね」

「そ……」

 誠はふくざつな心境でそう返した。

 花織にとっては首から下がビジネススーツかヒーロースーツかだけの違いなのだろうが、かっこいいという評価はどう受けとったらいいのだろうか。

 いつもよりという意味なのか。

「捜査ですか?」

「ごめんね、言えない」

 誠は答えた。

 こんな格好をして、捜査でなかったら何だという感じだが。


「わたしの分もないですか? ピンクの着て “いいわね、いくわよ” ってやってみたいです」


 花織がイベントトラックのほうを見る。

「そんなのあったっけ、いつの戦隊のネタ?」

「小学生のとき配信で見たんですけど」

「そ」

 誠はそう返した。

「というかイベントってお昼からじゃないの? まだ準備中の店ばかりだけど」

 誠は周囲を見まわした。

 もよりのキッチンカーでは、チェーンでガスボンベを固定している。カチャ、カチャという音がしていた。


「数量限定のパンを食べたいので並ぶつもりで来ました。お友だちと待ち合わせです」

 

「ああ……」

 誠はうなずいた。

 クルミがどうのと言っていたパンかなと思う。


 

「かおちゃーん!」



 少し離れた場所から、ボブヘアの少女が大きく手をふっている。

 温崎 好花(おんざき このか)だ。

 すぐ近くに二、三人の少女。

 誠は会釈をしようとしたが、好花(このか)がこちらにはどことなく他人行儀だと感じる。

 ヒーロースーツにフルフェイスのヘッドギアだから誰だか分からないのかと察した。


 違和感なく見抜いてふつうに話しかけてきた花織が特殊なのだ。いまごろ気づいた。

 

「じゃっ、並びますので。ごくろうさまです」


 花織が見よう見まねの敬礼をしながら駆けだす。

「あ、花織さん」

 誠は刑事課で百目鬼(どうめき)と話していたことを思いだした。

 花織がその場で足踏みしながらふりむく。

 


「確実な話じゃないんだけど、もしかしたら花織さんの目を借りることになるかも。昼すぎごろ空いてるかな?」



 誠はそう尋ねた。

 イベントに遊びにきた未成年の子をわずらわせるなどあまりしたくはないが、周囲が着ぐるみとヒーロースーツがわらわらいることになる状況とあっては、しかたない。

「昼すぎなら、とっくにパン買ってるころだと思うので」

 花織が足踏みしつつ答える。

「時間空いたらでいいから。ここに来るか僕のスマホにかけてもらえば」

「了解しました」

 もういちど敬礼をして駆け足で走り去る。

 

「なに、カノジョか何か?」

 

 緑のヒーロースーツを着た八十島が声をかけてくる。

「まえに捜査協力してもらったお宅のお嬢さん」

 誠はそう答えた。

「おまえそのカッコなのに、フッツーに話しかけてきたよな。めっちゃ勘いい子なの?」

 八十島がこめかみのあたりに手をあてている。

 おどろいた、というようなしぐさだ。


「あー、まあ。そういうの得意な子っていうか」

 誠はあいまいに答えた。





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