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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第5話 両手に花織

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警察署 玄関口前

「──救急。十七歳女性。刃物で刺された。意識は」

 消防にかけた百目鬼(どうめき)が、通路に座りこむ花織(かおり)の様子を見下ろす。

「いったい……ちょっとまじ痛い……」

 花織はブラウスの胸元に血をにじませていたが、顔を歪ませ普段とあまり変わらない声を発してはいる。

「今のところ意識はあり」

 百目鬼は、そう付け加えた。

 玄関前が一気に騒然となる。

 免許の書き換えに来たと思われる者たちを制服の警察官が急いで中へと促す。

 こっそりとスマホで撮影している者がちらほらいた。百目鬼がそちらを見てチッと舌打ちする。

 駆けつけた警察官に刺した男の身柄を引き渡し、(まこと)は屈んで花織の様子を伺った。

「どこ刺されたの。見せて」

 花織の手をどけさせようとつかむ。

「やっ!」

 花織が抵抗した。

「恥ずかしがってる場合?! 応急処置するだけだから」

 誠は血がにじんだ花織のブラウスの(えり)を、指先でつかんだ。

「やだもう! 下着見たら責任取ってよね!」

「何でも取るから」

 百目鬼がこちらに歩みより、屈んで様子を見る。

「百目鬼さん、すみません。ガーゼか何か。あと女性の保健師か警察官を呼んでもらえますか」

「いま呼びに行かせた」

 百目鬼が親指で玄関口を指す。

「どこ刺されたの。服の上からでいいから指してみて」

 花織が心臓のあたりを指差す。

 誠は百目鬼の顔を見上げた。確実に命を狙ったということだろうか。

「……とっさに避けたから深くないです。大丈夫。まじ痛いけど」

 花織が言う。

「ふつうと違う行動しようと狙ってる人って、周囲の人の動きから絶対に浮くんです。自然じゃないっていうか。だからすぐ分かりました」

 それで直前に叫んだ言葉が、「このひと違う」だったのかと誠は思った。

「出血の感じからすると静脈か。動脈だったらえらいことだったな、お嬢ちゃん」

「……百目鬼さん」

 誠は顔をしかめた。

「わたしもパパに聞いたことあります。手術中に間違って動脈切ると、天井までドバ……」

「親子で、いつそういう話するの」

 誠は強引に話を中断させた。

「夕飯のときとか」

 サイレンが聞こえた。救急車が到着する。

「すみません……余目(あまるめ)総合病院だけは除外して」

「そんな訳にいかないでしょ。ここから近いし」

 誠は花織の身体をささえた。

 女性の警察官と保健師が駆けつける。誠はそちらに託してその場から離れた。

「こんなケガ負ったなんてパパとママに知られたら、ぜったい外出禁止くらっちゃうう」

 担架(たんか)に乗せられながら花織がごねる。

 女性保健師が胸に当てたガーゼを、それでも素直に自分で抑えていた。

 救急車が出発する。

 ごねる元気があるなら取りあえず安心だがと思いながら誠は見送った。

「心臓、まっすぐ狙ったのか?」

 同じように救急車を見送りながら百目鬼が問う。

「あまり躊躇(ちゅうちょ)する感じはなかったですね。慣れてる感じもなかったですけど」

「何やったお嬢ちゃん……またヤバい人間の顔、遠慮もなくジロジロ見たのか?」

「前にありましたね、花織さん。そういうの」

「んー」

 百目鬼が(うな)りながら植え込みのところに置いたタブレットを手に取る。

 しばらく操作していた。

「どう思う、お前。これ」

 言いながらタブレットの画面を誠に見せる。

 先ほど署員食堂で見ていた奥重 彩(おくしげ あや)の動画だ。

奥重(おくしげ)さん……?」

 誠は呟いた。

「この人が帰って約四十分後だ。タイミングはまあまあだな」

 誠は目を見開いた。

 百目鬼の言わんとしていることを察する。

「奥重さんと間違われた……?」

「かもしんね。このタイミングなら、それも視野に入れといた方がいいかもな」

 百目鬼がタブレットで自身の肩をトントンと叩くようにして、きびすを返す。捜査用のワゴン車の方に向かった。

「なぁに知ってんだかな、あっちのお嬢ちゃんは」

 誠は小走りであとを追う。

 運転席のドアを開け、急いで乗りこんだ。

 百目鬼は、すでにシートベルトまで締めて花織が刺された植え込みの脇の通路を眺めている。

「奥重 彩さんを調べますか?」

「んだな。本人に気づかれないように、こっそりな」

 百目鬼が答えた。

「気づかれたら、礼状がどうとかプライバシーがどうとか結構言いそうなタイプだったからな、あっちは」





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