桜林外国語大学前
桜林外国語大学。
創立以来、語学と国際教育をに力を入れグローバル社会で活躍できる人材の育成をめざしている私立大学。
奥重 彩が通っていると話していた大学だ。
誠と百目鬼は、学長を「こっそりと」訪ねた。
奥重 彩へのお悔やみを告げる体で、さりげなくどんな人物かを聞くつもりだったが。
早々に話を終え、駐車場に停めたワゴン車に戻る。
二人でほぼ同時にシートにどっかと座った。百目鬼がシートベルトを締める。
「そんな人いないって……」
誠は前髪を掻きあげた。
学長を通じて職員に何度も確認してもらったが、在籍していたという経緯すらなかった。
「 “奥重” なんて珍しい名字だから、読み間違いされてんじゃないかとも思ったんですけどねえ……」
「身元偽ったか、それとも偽名か。いよいよ怪しいな。あの増殖お嬢ちゃん」
「百目鬼さん、変な名前で呼ばないでください。混乱しますから」
誠は顔をしかめた。
「名前の方が混乱しねえ?」
百目鬼がタブレットを操作する。
人のことを女の園アレルギーとか言っておきながら、自分の方がよほど女嫌いなんじゃないかと誠は思った。
「どうします? 奥重さんの証言、無視しますか?」
「いちおう可能性がゼロじゃないなら潰さんとなあ。廃ビルの遺体だけ調べても進展なかったのも確かだし」
百目鬼が言う。
「そんなときこそ元祖お嬢ちゃんの出番だろ」
タブレットを操作しながら百目鬼はそうと続けた。
「あちこち当たったら、経営してた店の付近の防犯カメラに生前の五反田 太平が歩いてるとこ映ってたってよ」
「百目鬼さん……」
誠は眉をよせた。
「いくら何でも。昨日の今日だしケガ人ですよ」
「さっき病院に電話したら本人出て、お見舞い来てくださーいって言ってたぞ」
誠はハンドルに突っ伏して、ガックリとうなだれた。
昨日あんなに心配したのに。
「まあとっさに避けたとはいえ、深めの傷ではあったみたいだけどな。落ち着いたら傷跡は整形手術で消す予定だってさ」
「……良かったですね。あんなに可愛いのに胸の位置にざっくりとか可哀想ですし」
「あんまでかくないけどな」
百目鬼が呟いてタブレットを操作する。
誠は目をめいっぱい見開いて百目鬼を見た。
「ど、百目鬼さん、それセクハラ!」
「本人の前じゃねえからいいだろ。さっさと車出せ」
タッチペンで前方を指し百目鬼が言う。
もう、と誠は吐き捨てた。
「……次はどこですか」
シートベルトを締めつつ誠は尋ねた。
「余目総合病院」
「いらっしゃい。メロン食べます?」
余目総合病院三階の入院室。
壁紙のほとんどが木目調の落ち着いた感じのある部屋だ。
誠と百目鬼が訪ねると、思ったよりもずっと元気な花織が、カットしたメロンの皿を差し出した。
「……痛みはないの?」
誠は問うた。
「痛み止め飲まされたからヘーキヘーキ」
花織が明るく言う。
「パパとママは、警察署でこんな危ないことになるなんてって、ちょっと怒ってたけど。署長さんに抗議するんだって」
うっと誠は胸元を押さえた。
離れた位置だったとはいえ、会話を交わしていた最中だったのだ。責任を感じる。
「じゃあ、そのうち警察署に行っちゃダメ食らうかもな」
誠のななめ後ろで百目鬼が言う。
「かも」
花織が笑った。この様子ではダメと言われても来そうだと誠は思うが。
「禁止食らう前にこれ見てくれるか、お嬢ちゃん」
百目鬼が小脇に抱えていたタブレットを花織に差し出した。
花織が受け取る。
ケガを阻止してやれなかった上に申し訳ないが、他に突破口につながりそうなものもない。
「無理しないで。具合が悪くなったらやめていいから」
誠はそう言った。
「誰ですか?」
「殺されたとされる五反田 太平の防犯カメラ映像。んで、こっちが」
百目鬼がベッドの脇でかがみタブレットを操作する。
「こっちが見つかった遺体」
百目鬼が二本指を広げる。
「……の、顔のアップ」
「百目鬼さん!」
誠は顔をしかめた。
「前に死体平気って言ってたよな、お嬢ちゃん」
「ダメだったらそこで言ってね。あくまで捜査協力だから」
タブレットをじっと見つめる花織を、誠はハラハラしながら見た。
「どうだ? お嬢ちゃん。こっちとしては同一人物に見えるんだが」
「違う人物だとしたら、よく似たホームレスでも連れてきたか、そんなとこかと思ってるけど」
誠は言った。
「んー」と花織が唸る。
首をかしげ、しばらくして顔を上げた。
「同じ人ですね」




