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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第5話 両手に花織

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警察署四階 署員食堂

「今日も仲良くお二人で、遅めのお昼ごはんでーす」

 ラーメンをすする誠(まこと)と百目鬼(どうめき)を、花織(かおり)がスマホで撮影する。

「このちゃんに送信」

 花織がスマホを操作する。カツ丼を運んできた食堂の職員に、ペコリと会釈した。

「……毎回毎回、それ撮りに来てるんじゃないだろうね」

 誠は顔をしかめた。

「もちろん、お二人のお役に立ってあげようと思って来てるんですよ?」

 花織が答える。

「肖像権とかあるんだからね」

 ラーメンをすすりつつ誠は言った。

「少年法」

「まったく関係ないから」

 百目鬼がラーメンを箸(はし)で上げ下げしながらタブレット画面を眺める。

「百目鬼さん……」

 誠は咎(とが)めた。花織がいるのにと思う。見られたら困る資料なんかは入ってないんだろうか。

「彩(あや)お姉さまの伯父さんの動画、あるんですか?」

 案の定、花織が興味津々という感じで身を乗りだす。

「伯父さんの方は、今のところ遺体で見つかった人って扱いになってる。遺体の画像しかないよ。お嬢ちゃん、見るか」

「百目鬼さん……」

 誠は顔をしかめた。

「でも遺体は別人で、本人は高跳びしたんでしょ?」

「先ほどの姪御(めいご)さんがそう言ってるだけ。正直、それだけで捜査方針は変わんないと思う」

 誠は答えた。

「さっき課長に通話でそれとなく言ってみたが、今の時点では、やっぱ唸(うな)ってただけだった」

 百目鬼が醤油ラーメンをすする。

「わたしのときと同じパターンじゃないですか。となりの人が別人って言ってるのに、中々信じてもらえなくて」

「あのときも言ったでしょ。一人の人間が言ってるだけじゃ普通はそうなの。少なくとも裏づけが必要なの」

「じゃ、裏づけしましょ、そうしましょ」

 花いちもんめの唄ようなノリで言いながら、花織が百目鬼のタブレットを覗きこむ。

「なんですかこれ」

 花織が目を丸くする。

 百目鬼のタブレットには、彩の動画が表示されていた。

 事情聴取室で話す様子と、警察署のホールを通り玄関口から出ていくときの姿。

「……撮ってたんですか?」

 誠は問うた。

「念のためだ。身内が遺体で見つかったってのに、即座に別人だとか判断してるとこといい、“海外” って言葉ですぐ高跳び発想したところといい、何か知ってんだろ」

「サスペンスドラマ大好きな人だとか」

 花織がカツ丼を食みながら言う。

「それで警察まで来る? 息切らして」

「とりあえずお嬢ちゃん、極秘でこれ覚えとけ」

 百目鬼がタブレットを立てて花織に見せた。

「どっ……百目鬼さん!」

 誠は声を上げた。百目鬼が、シッと人差し指を立てる。

「あくまで極秘だ」

「らじゃ」

 花織が答えてタブレット画面をじっと見る。

「って、あの未成年というか」

「あの遺体が別人で、本人が高跳び準備中となったら大事(おおごと)だ。だがお前が言う通り、あの姪(めい)っ子一人の証言じゃすぐに捜査方針なんてひっくり返らん」

 百目鬼は頬杖をついてラーメンの麺を箸(はし)でつまみ上げた。

「とりあえず同時進行で捜査する。ある程度の裏づけが取れてからの方が早いだろ」

 誠は、複雑な気分でラーメンをすすった。

 花織がカツ丼を食みながら横目で画面を見つめる。

「いちおう言っておくが、謝礼は期待すんなよ、お嬢ちゃん。警察はワンコインくらいしかよこさん所だからな」

「了解」

 タブレット画面を見つめながら、花織が敬礼した。




「はー警察署で食べるカツ丼の味は格別ぅー」


 花織が警察署の玄関前で伸びをする。

 いろいろカオスな要素のある光景だが、本人は楽しそうだ。

「今度は友達も連れてきますね」

 花織がこちらをくるりと振り向く。

「……来てもいいけど、僕らには話しかけないで」

 誠は眉をよせた。

「友達もみんな、それで来ないんです。お二人の時間を邪魔しちゃダメって」

 誠はげんなりとして顔を歪めた。

 百目鬼が向こうを向き、疲れたように屈んでいるのが横目に見える。

「やっぱりそういうもんですかね」

「何がやっぱりなの?」

 誠は顔をしかめた。

「仕事の邪魔になるからって意味。来るのは勝手だよ。一般人が利用していいところなら何人でも連れてきて」

 手元で車のキーをチャリと鳴らして、誠は捜査用のワゴン車に向かった。

「あと、今日は送って行かないからね。まだ明るいんだし、バスで帰りなさい」

 後方の少し離れた位置にいる花織に向けて声をかける。

 花織は、数メートル離れた自転車置き場に続く通路を見ていた。

 免許書き換えの講習を受けに来た人たちだろうか。十数人ほどが銘々に玄関口の方へと歩いている。

 一人二人が花織とすれ違う。とたんに花織が声を上げた。

「人見(ひとみ)さん! このひと違……!」

 言うが早いか、若い男が花織につかみかかる。

 手元で刃物のようなものが光った。

「花織さん!」

 誠は開けかけていたワゴン車のドアをそのままにして駆けよった。

「きゃっ!」

 花織が逃げようと顔を横に逸らす。長い黒髪の一部がパサリと落ちた。

「痛っ!」

「何してる!」

 何人かの警察官が玄関口から駆け足で出てきて、状況をつかもうとこちらを見据える。

 誠は、スーツの上着を脱いで手に巻いた。

 男の手の甲を叩き刃物を落とさせる。落ちた刃物を百目鬼が離れた位置に蹴り出した。

 男の腕をつかんで通路に引き倒す。

 男を取り押さえながら横を見ると、花織の制服に血がにじんでいた。





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