即位 9
「まるで私が虎みたいじゃないですか」
「ワシにはそう見えますが?」
突然の言葉に康子は言葉を無くした。そのまま視線を義父へと向けるがこちらは茶を飲むばかりで答えをよこす気配すらなかった。
「描くのはいいですが……私はじっとしているのが苦手なので」
「いえいえ、その方が良いのです。毎朝剣術の稽古をしていますね。その姿を見させて頂ければ」
花鳥に康子は微笑んで見せた。
「その程度でよければいいですわ。できれば稽古の相手なども」
「それは少しばかり勘弁していただきたいものですな」
「いいのかい、康子さんや」
そう言って重基は飲み干した湯呑を脇に置いた。
「ええ、別に秘密があるわけではありませんから……多少危ない目には会うことは覚悟されているようですし」
「やはり康子様は法術を使われるのか?」
花鳥は少しばかり引いた表情でそうつぶやいた。
「少しばかり激しいものを使いますよ。身体強化系のものをちょっと」
「それならばなぜラスコー殿下のところに馳せ参じないのですか?」
純粋な花鳥の問いに康子は俯いて押し黙った。
「それは私から話そう。今回の遼南王朝の件。当家はできる限り関わらないようにしておる」
「嫡男、紅籐太殿が参謀を務めてらっしゃるじゃないですか」
「あれは勘当の身。何をしようと私の知るところではない。康子も義基もラスコーに手を貸せとうるさいが……当家としてはそれは出来ない相談なのだ」
「やはり烏丸一党から目をつけられているからですかな?」
図星を付いた花鳥の問いに重基はゆっくりと頷く。
「それもある。だがそれ以上に当家が直々に動けば立場を逆に危うくする人々がいる」
「東和に逃れた難民達……ラスバ帝の側近達のことですかな」
沈黙を続けて花鳥の言葉に同意すると重基は視線を康子に向けた。




