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即位 2

「かくして勝機は失われ……」


「伯父上、何をふざけているんですか?」


博士論文の添削をしているムジャンタ・ラスコーの前でふざけた様子の西園寺孝基の姿があった。


「ふざけている訳じゃないぞ。央都突出部の撤退戦はうまくいったからな。これでしばらくは負けは無さそうだ」


「勝ちも無いんじゃないですか?」


「これは厳しい。俺みたいな傭兵稼業の人間には全否定されたような話だぜ」


そう言うと応接セットのソファーの上で大きく伸びをした。


「東海と東モスレムが動かなくても……南都は?」


「それより結構面白いネタがあるぜ」


孝基はそのまま手にした通信端末を天にかざす。博士論文が映し出されていたラスコーのテーブルの上に新聞記事が浮き上がった。


「即位……父上は即位なさるんですか」


「なにまあ他人事みたいに……遼南帝国東宮の位が泣くぜ」


「別に他人事とは思っていません。驚いているだけです」


「驚いている態度かそれが。まあいい。バスラ帝の即位が決まればお前さんを兼州王に据えるという話も真実味が増すな」


そう言って孝基は応接セットから飛び上がって立ち上がる。


「余を兼州王に?」


「ああ、そうだ。南都の切れ者アンリ・ブルゴーニュがその方向で動いている。こればかりは東海も東モスレムも反対はしないだろう」


「でも……ゴンザレス将軍は?」


「問題はそこだよな。あのジジイはお前さんの存在がうざくてたまらないんだ。兼州王としてある程度の権限を持つなんて許すわけにはいかないだろうな」


孝基はそのまま屈伸を始める。ラスコーはもはや勉強に集中できる状態にはないのでしばらく孝基を眺めていた。


「なんだよ」


黙って見つめられることに嫌気がさしたというように孝基が呟く。


「じゃあなんで父上は即位なさるんですか?」


「あの親父にはお前さんを超えたいところがあるんだろうな。母親は弟に夢中だったがその弟に家出をされると次は子にその期待が向かう。決して注目されない屈折した魂」


「確かにそうかもしれませんが……」


「まあうまいものを食えて好きな女を抱けるだけが帝の仕事と勘違いしているところは救いようがねえがな」


孝基はそう言うとそのままラスコーの机のそばまで歩いてきた。

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