戦いの序章 9
「それでは一番危ないのは西園寺卿の部隊ではないのかね」
暗闇の中からの一言に一瞬怒りの表情を浮かべるが、孝基はすぐに理性を取り戻していた。
「うちを無頼漢と思ってもらっちゃ困りますよ。それなりの場数も踏んでる。空気は読めるつもりだ……と言うか今胡州浪人を抑えてるのはうちの直系の部下達ですよ。なんとか今の状況を維持したいのが本音でね」
「なぜ今の状況の維持を?」
ムジャンタ・カバラの問いにあっけらかんとした表情を浮かべる孝基。
「今の状況が続けば……州境には地球のジャーナリストも潜伏している。彼等から発せられる情報に地球の政府もだんまりを決め込むわけには行かない。必然的に南都に圧力がかかり……央都と南都を分断できる」
「今回の誘拐事件を起こした『外憲』も承知しているはずだ」
今度はカグラーヌバ・タキトの言葉にそれを遮るように手を伸ばす。
「そう……央都は地球の信頼を失う。するとより胡州を頼らざるを得なくなる」
「『外憲』は央都と南都が切り離されることを了解していると?」
カバラの言葉に孝基は首を振った。
「『外憲』はより派手な攻撃に移行するでしょう。ただ……その状況で胡州浪人が暴発しない保証はない。早い段階で暴発すれば南都も央都の出撃要請を断る理由がなくなる」
悩ましげな孝基の表情に一同は俯いてそれぞれ手元の資料に目を通し始めた。
「『外憲』の介入で状況は新たな段階に入った。……遠からず『外憲』は状況を次の段階に移行させる」
「次の段階とは?」
頭に指をやって頭痛をこらえるようにしてカバラが孝基に尋ねた。
「小部隊での越境攻撃……これこそが本来遼南から越境して遼北の反共産政権武装組織を支援していた『外憲』の十八番だ……厳しいですよ」
孝基の言葉に場は一瞬凍りついたような寒気を感じる場と化していた。




