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戦いの序章 8

モニターを前に兼州政府首脳は黙り込んでいた。


「これは明らかに宣戦布告だ!」


そう叫んだのはカグラーヌバ・タキト陸軍中将だった。カグラーヌバ・カバラの嫡子で軍内部でも人望が厚く。多くの首脳達は彼の言葉に頷いた。


「この二週間で央都との州境で拉致事件が7件。すべて被害者は央都領内で惨殺死体で発見されている」


「緊張状態に耐えられなくなった跳ねっ返りですかな」


「武器を持って全能にでもなったつもりの新兵の仕業でしょう……実際検問所で央都軍の新兵3名を射殺している」


幹部達が深く頷く中、一人首を横に振る男がいた。


「甘いですなあ……皆さん。これは敵の策略ですよ。乗せられてどうします」


西園寺孝基はそう言うとセンターモニターの前に進み出た。


「しかし、実際に兼州の民が略取されている」


拳を握り締め顎を引きつらせるカグラーヌバ・カバラの言葉に何度か口元を引き締めた後、孝基は話し始めた。


「恐らくこの手口からして『外憲』の仕業でしょう。アイツ等ならこの程度の工作活動は証拠も残さずやってのける」


「『外憲』……胡州陸軍外事憲兵隊のことか?」


「そう、胡州は名目上遼南を宗主国にしている。遼南の皇帝はすなわち胡州の皇帝。国力が30分の一でもベルルカンの失敗国家と大して変わらない政治状況でも遼南の治安には責任がある。それが胡州軍上層部の認識です」


「しかし、『外憲』は治安維持部隊だったはずだ……」


「そうです、ラスバ帝が健在の時代は東モスレムの治安維持、要人警護、戦略的要衝の警備が主任務だった。しかしそれは西園寺重基と言う『外憲』解体すら首相する反軍部の政治勢力が有力だった時代の隠れ蓑に過ぎない。本来、胡州が遼南から独立して以来、『外憲』の性格は秘密裏に不安定要素を排除することに特化した部隊だっった。ラスバ帝時代の『外憲』の性格が『外憲』にとっては異常な状態だったわけで現在の兼州への浸透工作活動はむしろ『外憲』らしいと言えますね」


「しかし……何が狙いで民間人の拉致などを」


一人の佐官の言葉に孝基は満足気な笑みを浮かべた。


「あなた方を怒らせること……いや、もっと簡単に火が入る連中がこの州には三千人ほどいる」


「胡州浪人……」


カバラのつぶやきに孝基は大きく頷いた。


「この戦いは先に手を出したほうが難しい立場に立たされるでしょう。もともと戦力に限界のあるこちらもそうですが、南都、東海の動向にも左右される央都軍もすぐさま先制攻撃とはいかない状況にあります。拉致事件の目的は胡州浪人の暴走を引き起こすこと。それにより自衛の為の全面攻撃を肯定する状況を作り上げることにあります」


難しい表情の孝基にギャラリーは冷や汗を流しながら彼を見つめていた。

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