戦いの序章 1
「こんなに笑ったのは久しぶりだ」
ラスコーはそう言うと目の前で琵琶を片手に笑う西園寺孝基を見つめた。
「なあに、戦場だって人がいて初めて成り立つんだ。笑って、泣いて、怒って。人がいるところにはそれぞれ物語がある……ここ以外ではな」
急に孝基の口調が厳しくなる。ラスコーと一緒に戦場で糞尿を撒き散らすことになった新兵の運命を笑っていた女官達の笑いがとまる。
「そんな……そんなにここは悪い場所ではないぞ」
「そう言う割には初めてだって言ったじゃないか、こんなに大笑いをしたのは。ここの空気はどうも気に食わない……外に出るか」
「いけません!」
琵琶を置いて立ち上がろうとする孝基を女官長が止める。
「こんなところで未来の遼南を背負う人間を腐らせちゃっていいのか?」
挑戦的な孝基の口調に女官長の手が止まった。それを合図としたかのようにラスコーは東宮の椅子から飛び降りて駆け出す孝基の後に続いた。
「運動不足の割には走れるじゃないか!」
「若いですから」
ラスコーの足でも届くくらいの速度で加減して走る孝基。離宮の真っ直ぐに続く廊下を二人は一気に駆け抜けた。
「あれを使うぞ」
そう言って孝基が指さしたのは一台の真っ赤なバイクだった。
「あれは伯父上のものではないのですか?」
「よくわかるな」
「あの悪趣味な色使いは伯父上のものである証拠です」
「言ったな!」
バイクの前で孝基はラスコーの頭を小突いた。そのまま二人はバイクにまたがり一気に離宮の入口の検問に差し掛かる。
「どけどけどけ!」
孝基の言葉に衛兵達は慌てて逃げていく。二人はまんまと街道に出てそのまま街へと向かう道路を走り始めた。
「うまくいきましたね」
「まあなんとかなるものさ」
後ろのラスコーにニヤリと笑みを返すと孝基は一気にバイクを加速させた。




