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嵐の前に 8

「アドジャベム師はいらっしゃらないと……」


暗い土をくり抜いた通路の先で東モスレム三派連合において仏教徒の代表を務めている土田同前師は少しうろたえつつそうつぶやいた。


「今は遼南が割れている事態。下手に動けば過激派に付け込まれます」


イスラム穏健派の代表であるアドジャベムの代理の男の言葉に遼州原住民代表のバルカ・ツンドラは苦笑いを浮かべていた。


「確かに今の遼南には我々を庇護する力は無いでしょうな……西モスレムの王族が喜びそうな状況だ」


「遼北を頼みますか?」


「無神論者があてになるか!」


アドジャベムの代理の男の大声に警備の兵達も表情を歪めた。


「確かに遼北はあてにするというのは言いすぎでしたな」


土田の言葉でようやく周りは落ち着いてきた。


「しかしこれで七年帝位が空白ということは……」


「いや、これが限界でしょう。恐らく央都の姦物はもう待てないはずだ」


バルカの言葉にアドジャベム師の代理の男も大きく頷く。


「この七年で南都や東海も下々に至るまで篭絡されてきている。それに北天は相変わらず遼北の勢力圏にある。胡州やゲルパルトなんかの同盟国もこれ以上遼南の分裂状況を放置しておけないはずだ」


「となると……動きますかな。央都は」


土田の言葉にバルカは苦笑いを浮かべる。


「いや、動くのは兼州でしょう。すでに胡州浪人数千人が兼都入りしたとの情報が入ってきております。こらえ性のない浪人達が動くのも時間の問題かと……」


「ラスコー殿下には申し訳ないが我々も自らの自治を守らねばならない……」


「アドジャベム師もそこは譲らないようにとのお言葉を賜っております」


「我々は我々の道を往くよりほかに無いのか……」


土田の言葉に一同はじっと自分達の無力を思い知るのだった。

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