嵐の前に 7
「同志、ダワイラ・マケイ。遼北からの命令書です」
薄汚れた作業着の男を緊張した面持ちでダワイラ・マケイは見つめていた。ラスコーの家庭教師を解雇されたあと、ダワイラは北天で革命運動に参加し、今ではその組織の頂点にいた。
「動くなと……言う事か」
苦々しげにそう言うと周りの同志達に命令書を回す。誰もが残念そうに命令書を運んできた遼北の工作員に目をやった。
「今は北天での拠点拡張に全力を注ぐべきだ。その意見で党の方針は一致している」
「何も知らないのかね……遼北の同志達は」
ダワイラの言葉に周りの組織のトップ達も頷く。
「今しかないというのに……」
「動くとすれば今だ」
それぞれに勇気のありそうな言葉を口にするが、ダワイラは彼等がその言葉の通りに動くことは無いことは予想できた。
「所詮我々は張子の虎だということか」
ダワイラの言葉に周りの同志達は図星を突かれたというように黙り込んだ。
「張子の虎とは言っていない。ただこのままでは兼州、央都どちらが勝ってもサンドバックのように嬲りものにされて終わるだろうがな」
工作員の言葉に人々は俯いた。満足げに工作員はダワイラに目をやる。ダワイラも自分の立場もわかっているのでただ苦笑いを浮かべながら頷いた。
「国境線の警備を固めろ。補給が途切れれば我々は終わる」
「そんな消極的な……」
「戦っても見ないで敗北を認めろというのか!」
若い同志が叫ぶ言葉にダワイラは眼鏡を整えつつ俯いた。
「我々には何もできることはない。ただどちらが勝っても良いように動くだけだ」
「そんな……」
若者の力んだ手を見ながらダワイラはかつて彼の教え子だった十四歳の東宮のことに思いを馳せた。
「できれば兼州に勝ってもらいたいものだが……」
複雑な表情のダワイラを同志達は力ない視線で捉えていた。




