嵐の前に 3
「なんて言ってみたら良いのか……」
言葉を詰まらせているラスコーの横顔を眺めながら孝基は笑みを浮かべた。
「初めての光景だ……感じることが多いんだろ?」
「ええ、なんでこんな世界が広がっているなんて……考えもしなかったんだろう……」
自分に言い聞かせるようにしてラスコーが言いよどむ。その様子にも孝基は笑顔を浮かべていた。
「お前さんが守るのはこの世界だ」
「守る?余にそのような力は……」
「残念ながら無いな。央都の軍勢はあっという間にこの大地を席巻するだろう」
「じゃあ余は何をすれば……」
戸惑うラスコーの頭を孝基は軽く叩いた。
「生き延びろ……ただ生きていればそれでいい」
「それじゃあ康子様と同じ答えじゃないですか」
「少しは違うつもりだぞ。一度は央都に牙を向けてみろ……俺がその牙になる」
「牙に?」
ラスコーの不思議そうな言葉に孝基はまっすぐ雲を見つめながら呟く。
「そうだ。央都の老人達の思いもよらない力がここに有ることを見せつけろ。決して朽ちない力があることを見せつけるんだ」
「朽ちない力?」
「そうだ。お前さんが生きている限り絶対に連中が枕を高くして眠れない事実を思い知らせるんだ」
「余にそんな力が……」
「兼州には胡州浪人が数千人集まっている。それに兼州軍閥も万単位の戦力を抱えている。やる気に欠けた央都の軍勢に簡単に負けるような戦力じゃない」
「でも勝てる戦力でもない……さらに東海、南都の軍勢も動く」
「そうだ。だが簡単には負けない」
自分に言い聞かせるような孝基の言葉にラスコーは溢れそうになる涙を拭った」
「余はこれまで亡命するのが臣下のためと思っていました」
「そう思うのも居るのは確かだが……大半が俺と同意見だよ。一撃見舞わずに逃げ去るのは卑怯者のすることだ」
孝基はそう言うとニヤリと笑った。悪魔じみたその笑顔に一瞬ラスコーは驚きの表情を浮かべたがすぐに涙を吹いて笑顔を返した。




