総務課軍団9
その日やっと病院に帰り着くと、もう時刻は午後四時を回っていた。大した仕事も出来ないまま簡単な報告を済ませると、その日は何もせずにそのまま事務所を出た。でも翌日出勤すると、「凄いイケメンがいたってね!」と、もう総務課は砧のイケメンの話で持ちきりになっている。
「まあ、少々西洋の血が混じっている様だが、何、たいした事はない」と言う僕の意見はそっちのけで、今日の総務課はクレーム奥様とイケメン御曹司の話題で一日中盛り上がっていた。
僕の前でも堂々と、嬉しそうにイケメンの話をする天真爛漫な夏華。待ったをかけようと思えばかけられるが、それはテレビに映るタレントに夢中になって、歓声をあげる子供に注意するのに似ていたので止めた。
この病院に入社以来、いつも一匹オオカミで過ごして来た。だのに、夏華と付き合う様になってから、何かと戸惑う事が増えて来る。僕はあの御曹司に嫉妬しているのか? まさかな、昨日会ったばかりなのに……。さすがに馬鹿馬鹿しくなり、盛り上がる女子供の側には、それ以上近づかなかった。
でも翌日、昨日のお詫びにと、例のクレーム奥様とイケメン御曹司が受付に現れた時、たまたま側にいた僕の前で接客する夏華の表情は、何処にこんな笑顔が隠れていたのかと思う程ニコニコとして可愛く、今まで見た事がないものだった。
「……俺は嫉妬しているのか」
そんな自分を発見して嫌になったが、受付嬢がお客様に笑顔で接客するのは当たり前の事。そんな事に拘りそうになっている自分を感じて、少し恥じた。
この病院は有名な産婦人科なので、この辺りの妊婦は殆んど来院する。だが、綾小路と言う名前では入院患者はいないし今日は何の用なのか、少し緊張したが自然に言葉が出た。
「昨日は大変なおもてなしをして頂き、有り難う御座いました」
とりあえず、そう挨拶したが、恐縮しているのはクレーム奥様。この前とは雰囲気まで変わって、本当に申し訳なさそうに自分の非礼を詫びて頭を下げた。
綾小路様が来院したと誰かが連絡を入れたのか総務の課長が飛んで来たが、僕達がニコニコと話しているのを見てホッとしているのが見て解った。
その時、イケメン御曹司が夏華に何か渡しているのを見て僕は少し気になった。御曹司とは帰りの車内で色んな話で盛り上がり、夏華もすっかり打ち解けていたが「〇〇貸して」とか「〇〇凄い!」とか、出て来る単語は意味不明なものばかり。何かのゲームである事は解っても興味を引くものではなかったので気にはしなかった。の、だが……。
夏華と御曹司は年も近いし、話しは合うようでやはり気になる。それに、綾小路家は桁外れのセレブ。いくつか持っている会社は僕でも知っている名前がずらり並んでいて、その度に「凄い。すごいね!」と感嘆の声を上げる夏華に、久々に少し苛立ってしまった。
その御曹司から何を貰ったのか……。気にならないと言えば嘘になるが、問い正すのもカッコ悪い気がして僕は知らぬふりをしていた。




