総務課軍団6
綾小路とは、名前から日本の朝廷に使えていた公家を連想するが、京都には綾小路通りもあり、とても歴史のある家なんだろう。
そう言えば作家で武者小路実篤の「愛と死」など、高校時代何冊か読んだ事がある。
かたぶつ親父の本棚に偶然発見して、「こんな小説読むのか、純愛もの? きもちわるい。 マジ似合わない。」と思ったりしたが、同時に発見した「石坂洋二郎の寒い朝」なんかは、胸が熱くなって何回も読んだ記憶がある。「通学路が同じで、トミー、トミーと玄関先で叫ぶ。」男の名前は忘れたが、トミーだけは覚えてて、あ~。俺も彼女が出来たら迎えに行って、トミー、トミーと叫んで見たい」と空想した。若かったとはいえ馬鹿な俺。
父親の書庫で発見して、こっそり読んだのが始まりだが、結構さわやかな気分になり感動したので、それから、なんとか小路とつく苗字に僕は弱くなった。
その表札を見ただけで、古い家なのは解るが、でもいくら探しても呼び鈴が見つからない。どうしようかと思案していると、表札の下にあった赤いランプが鈍く光り「お待ちください」と突然声がながれてきた。
屋敷の雰囲気からして場違いで随分ハイテクだなと感心したが、もしかして最初から僕達は見られていたのか? 門の斜め上には小ぶりな防犯カメラがしっかりと取り付けられていた。
直ぐにお手伝いさんらしき女性が現れ「奥様がお待ちしております」と奥に通されたが、なんと、そこの窓から見える庭の隅にベンツが二台も止まっている。
「……なんで車が、何処から入るの?」
そんな素朴な疑問が浮かんで来たが、その車の駐車場の前には一車線に広い道路が延びている。どうやら僕達が無数の田んぼを横断し山越えしてたどり着いたのは、この屋敷の裏口である事がその時判明した。
なんとか小路? の苗字に弱い僕なのだが、奥に通されたこの応接間の革張りソファーは、何故か居心地が悪く落ち着かないものだった。
正座に弱い僕に普通の椅子はありがたかったが、後ろの鴨居に飾られている古い木彫りのお面は、どう見ても気持ちが悪い。特に真正面の鬼の面はやたら迫力があって、黒い穴だけの眼はじっとこちらを睨んでいる様にも見えた。まるで訪問者を監視している様で僕らが歓迎されていないのは、周りの光を全て吸い込んでしまいそうな、その漆黒の眼で解った。
不気味なお面はいくつも並んでいたが、その淀んだ部屋の雰囲気から、かなり昔からそこにあるのが感じられる。老人のお面。老婆のお面。子供のお面も微笑んでいるが何故か歪んで見える。周り中から奇怪なお面に見つめられた僕は、いつもの元気パワーが吸い取られて行くのが解ったが、夏華も流石に唾をのみこんで、周りのお面をじっと見つめていた。




