新入社員1
真っ黒のリクルートスーツに身を固めた、緊張した顔の新入社員。淡いピンクの制服に身を包んだ看護士や、知った顔の助産師達。桜の花びらで、うっすらと化粧された目の前の細い道を、今日はいつもより早足で通り過ぎて行った。
その先には、朝日に照らされクリーム色に輝く、完成したばかりの新病院。満開の桜並木の背後には六階建ての豪奢な建物が見える。その一角に小さく開いた、鋼鉄製の社員通用門。その中に吸い込まれる様に入って行く彼女達の若い横顔。すれ違う先輩社員にキビキビと挨拶する、毎年四月初めのこんな光景は、いつ見ても良いものだった。
「……おッ! 今年は結構可愛い子がいるじゃないか」
少しだけ窓を開けた二階の資材置き場から、高城は下を眺め一人呟いた。
窓の隙間から、春の風が申し訳なさそうに入ってくるが、自分以外誰も入ってこないこの部屋にはエアコンもなく、今日の風はまだ少し寒かった。
僕の名前は高城ひろし。産婦人科の医師だが、三年前医療事故を起こし二年間の医師免許停止をくらった。大きくニュースでも報道され裁判にもなり、多額の慰謝料を払わされた事は地方紙にも載ったが、時間と言うものはありがたいものだ。あれだけ騒いだマスコミも、最近は何も言わなくなった。もう停止期間は過ぎている筈だが、医師に戻る気はない。今はこの病院で身分を隠し一般作業員として働いているが、こんな生活にも最近はやっと慣れて来た。
僕は窓をしめると、机の上に置かれた資材リストのファイルを乱雑に棚に押し込んだ。埃が舞う紙臭いこの部屋には、あまり長居はしたくない。そのままドアを開けると、両腕いっぱいに資材を抱えたまま、細くて長い足で器用にドアを閉め、いっきに一階のホールに降りて行った。
この病院は、最近流行っている豪華な設備が売り物の、関東でも有名な産婦人科病院だ。地下鉄麻布十番から歩いて十分の所にあるが、大きな病院なので受付嬢や看護師と女は二百人もいる。
何処に行っても女、女、女。女だらけの社会はそれなりに大変だろう。そんな感じもする病院だが、これだけ社員が多いと名前など覚えられるものではない。僕は殆どの女子の名前を知らなかったが、あまり不便を感じた事はなかった。




